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Weps うち明け話 #1004

彼に期待する理由~マルティノス(2020年1月30日) 

 

「個人的にもトレーニングをしているので、以前よりも強くなっていると思う」

 

 サッカーで、90分間一度もピッチに倒れない選手はいないだろう。逆に、いかに安全に倒れるか、倒れてもすぐに立ち上がるか、あるいは倒れてもそのままプレーするか、という意識が必要だと思う。

 183cm、70kgのマルティノスは全体に細身で、さらに脚が長いから身体の重心が上にあり転びやすいのは仕方がないかもしれないが、転び方の工夫でそこからプレーに復帰するまでの時間は短縮できるのではないかと思っていた。さらに接触や転倒の痛みをこらえる忍耐力もつけてくれれば、と思っていたが、沖縄キャンプを見ていると、たしかに紅白戦でも練習試合でも、マルティノスがフィジカルコンタクトで倒れて、そのままという場面は昨季までの2年間に比べて格段に少なくなっている。

 

 横浜FMでの2シーズンで、Jリーグ53試合出場9得点。レッズでの2年間は27試合1得点。得点数はともかくチームへの貢献度は、彼を獲得したときの期待度からはだいぶ遠かった。さらに接触プレーで倒れる回数の多さや倒れている時間の長さは、勝っているときならまだしも、ビハインドの状況では味方の選手やサポーターのストレスを招きかねなかった。

 それが非常に少なくなった。

 新シーズンを迎えるにあたり、土田SDや大槻監督からもそのことは指摘されたはずだ。昨季までの状況では試合で使いづらい。自分自身のキャリアとプライドを鑑みて、それでいいのか、と。同席していたわけではないが、僕ならそう言う(笑)。

 冒頭の「個人的なトレーニング」というのが、どういうものかわからないが、それプラス意識の変化で(個人的なトレーニングをすること自体が意識の変化がもたらすものだろうが)、今季のマルちゃんを生み出している。

 

 倒れる回数と時間が少なくなれば、当然プレー時間が増える。1月22日(水)と29日(水)に行われた練習試合のメモを見ると「⑪」が絡む記述が少なくない。ジェフとの試合(29日)では、3本目の26分に得点しているが、それは左サイドでボールを持った相手にマルティノスがプレスを掛け、相手がボールを離したところをレオナルドが奪ったところからのものだった。レオは、ほぼフリーで相手GKと1対1になったから、そのままでも決められたと思うが、より可能性の高いマルティノスに渡してフィニッシュさせた。攻撃の起点になったチームメートに敬意を表したのかもしれないし、自分はその前に1点決めているから譲ったのかもしれない。ちなみに、その試合の31分に柏木が決めた直接FKは、マルティノスが倒されて得たものだったが、後ろから足を払われたもので簡単に倒れたわけではないことも付け加えておこう。

 

 レッズに来て3年目。シーズンインのキャンプは毎年監督が違い、当然のように内容も異なる。キャンプ開始からちょうど2週間経った28日に感想を聞いたとき「強度の高い練習をしているのでフィットするのに時間はそれほどかからない」と答えていた。3年目で周りとのコンビネーションが良くなっているのは当たり前だが、味方のプレーを感じての動き出しが早くなっていると思う。ボールホルダーへのアプローチも相手がプレッシャーに感じるほどのタイミングでやれていることが、上記の得点シーンを生み出したのだろう。

 

 今季の自分について「今のシステムは迷いなくやれている。ものすごくやりやすい」と語る。

 昨季までの3-4-2-1のシステムでは、ワントップ、シャドー、あるいはウイングバックでの起用だった。どのシステムの、どのポジションで起用されようとこなせる選手もいるから、「以前は自分の特長やポテンシャルを生かせるポジションではないところで起用されていた」と2年間あまり活躍できなかった理由について述べるのは、聞く人によっては好きではないかもしれない。

 だが今季は4-4-2システムの左サイドハーフまたは右サイドハーフ。逆に、“言い訳できない”状況なわけで、自分自身のプライドを懸けたプレーを見せてくれるだろう。

 

(文:清尾 淳)

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