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土田尚史「クリア!の声が聞こえる」

第三部 ケガ、リハビリ、復帰

⑤ 俺は邪魔なのか?

 現在レギュラーのGK、田北の気が散るから、大きな声を出すな。

 コーチを通じてオジェック監督にそう言われた土田尚史は、それこそ言葉を失った。

 自分の持ち味は闘志を前面に出すことだ。決して静かに燃えるタイプではない。だから試合中も大きな声を出して味方にハッパをかける。そのことでチームと自分のリズムを作っていく。

 その大きな声を出すなと言う。しかも、自分が競争に勝たなくてはならないライバルの邪魔になるからだ、と。

 悩んだ土田だったが、長年培ってきた自分のペースは簡単には変えられない。練習に熱が入ってくると声が出てしまう。田北がそんなことを監督に言うはずがない。オジェックが気にしすぎるだけだ。

 いつしか土田は、またもとのペースで練習をしていた。しばらくしたある日、練習が終わってからコーチに呼ばれた。

「明日からサテライトで練習してくれ」

 納得できない土田は、オジェック監督に直接理由を聞きに行った。

「どうしてですか」

「田北の前で練習しないで欲しいんだ。彼が安心して練習に集中できないから」

「!」

 怒りで身体が熱くなった。

 その前年、監督に就任したドイツ人のホルガー・オジェック氏は、守りの要にギド・ブッフバルト、攻撃のキーマンにウーベ・バインという2人の同国人を据えて、堅固な守りと縦パスによるカウンター、というシンプルなサッカーをレッズに浸透させた。

 その結果、95年の第1ステージ3位というチーム最高の成績を出した。土田と同期の福田正博が日本初のJリーグ得点王に輝くという副産物もあった。

 厳格な監督で、特に規律には厳しかった。しかし勝つための執念は伝わってきたし、実際、試合に勝つ喜びを思い出させてくれた。土田はその監督の下、リーグ戦52試合中47試合に出場。ともに戦ってきたつもりだった。

「よく、そんなことが言えるな。そんなに俺が邪魔なのか」

 殺してやりたいくらいだった。

(続く)

 

(文:清尾 淳)