さいたまと
ワールドカップ





COLUMN●コラム


#049
週末のアプトン・パークはゴールの嵐


 日本で調べたところ、2月12日(土)の節(プレミアリーグに「節」に当たる言葉は見当たらないけど)のプレミアリーグ10試合のうち、ロンドンで行われるのは、ウエストハムvsブラッドフォードシティ、チェルシーvsウインブルドン、アーセナルvsリヴァプール(13日)の3試合。チェルシーの相手がウインブルドンだから、プレミアリーグに所属するロンドンの5チームのうち、トテナムを除く4チームがロンドンで試合をした訳だ。

 アーセナル(当時3位)vsリヴァプール(同4位)など、初めから見られるとは思っていない。チェルシーvsウインブルドンは何とかなるかと思っていたが、金曜日にスタジアムへ行ってみたら、やっぱりSOLD OUT。結局ウエストハムに行くことにした。ウエストハムは23試合で29点の11位、ブラッドフォードは24試合で21点の18位。あまり多くの得点シーンは期待していなかったが、さて両チーム合わせて何回ゴールネットが揺れたと思いますか…?

 まず前半5分ぐらいでウエストハム(以下WHU)のGKシャカ・ヒズロップがケガ。ボールを蹴ったときに自分で左足をひねったようだ。大声援に送られて、背番号32の控えGKバイウォーターが入った。マッチデー・プログラムを見ると、ふだんは背番号22のフォレストが控えGKだが、本日は欠場。バイウォーターは今シーズン4試合目のベンチ入りで出番が回ってきたようだ。昨シーズンはわからない。

 「バイウォーターって人気者だなあ」と思って見ていたが、これが危ない、危ない。キャッチングはポロポロこぼすし、ポジショニングは中途半端だし…。しかしサポーターは、彼がボールをさばくたびに大きな拍手を送る。「なんでやねん?」

 前半は2−2。30分にブラッドフォード(以下BFC)がCKから先制。その5分後、WHUがシンクレアのゴールで追いついた。さらに43分にモンクールの素晴らしいボレーシュートでWHUが勝ち越したのだが、ロスタイムにBFCがPKを得て同点(ロスタイムが4分くらいあった)という展開だった。

 問題は後半。まず2分にBFCが勝ち越し。何でもないミドルシュートをバイウォーターが前にこぼし、BFCの“赤髪”ローレンスが詰めた。完全にGKのナイスアシスト。その4分後、ローレンスのループ気味のシュートにバイウォーターが振り回され、4−2。DFに当たってコースが変わったこともあるが、ほかのGKだったらどうだったろうか。

 後半6分で4−2。しかも、ゴールマウスに向かって蹴れば入ってしまいそうなGK。こりゃWHUの敗色濃厚だなあ、と確信しかけた。ところが、ところが。

 WHUが20分にPKを得て1点差。決めたのはパウロ・デ・カニオだったが、チームメイトのランパードと「俺に蹴らせろ」「いや俺が蹴る」と、激しいやり取りの末ボールを奪った結果の得点だった。この試合でPKもののファウルを2回流されていたから気持ちもわかる。25分には、ジョー・コールが決めて4−4。スタンドは大騒ぎ。逆に、威勢の良かったBFCサポーターは静かになってしまった。

 振り出しに戻って、「キーポイントはWHUのGKだな」と思って見ていたが、とにかくDF陣が必死で守る。ペナルティエリア近くはもちろん、遠目でも相手に体を寄せてシュートを打たせない。チームメイトも「シュートを打たれたらおしまい」と思っているようだ。「キャッチ→ポロッ」も含めて危ないシーンはあったが、何とかBFCに5点目を与えなかった。

 そして38分。さっきPKのキッカーを譲ったランパードが逆転ゴール。見事なミドルシュートによる決勝点だった。スタンドで、この日5回目の「イヤー!」(ゴールの瞬間、サポーターが一斉に立ち上がって歓声を上げる)を聞いた。

 毎週、テレビでプレミアリーグの結果を見ているが、5−4なんてスコアは記憶にない。これだけ点が入ると、普通は大味な試合に感じられがちだが、決してそんなこともなかった。というのもWHUが2点のビハインドと、GK交代、しかもミスによる失点という状況にも気落ちせず、攻め続けたからだろう。WHUのサポーターにとっては、こたえられない週末になった。特にどこのファンという訳でもない僕だが、WHUは生まれて初めてプレミアリーグを見たときのホームチーム。親近感は強いから、気分が良かった。

 後でテレビや新聞で得た情報によると、第2GKのフォレストはカナダ代表で、帰国していたとか。シャカ・ヒズロップは左足首骨折。彼は大腿部裏側の故障から復帰したばかりだったらしい。バイウォーターはこれがプレミアデビュー戦。18歳だというから、新人だった訳だ。サポーターの大声援とチームメイトの気遣いもうなずける。白星デビューというだけでなく、自分のミスで決勝点を奪われて負けていたら、その後のサッカー人生にまで影響していただろう。ヒズロップは復帰までしばらくかかりそうだから、残りの14試合でまた出番が来るかもしれない。たぶん、僕はこれからWHUの結果を見るたびに「GKは?」と気にすることだろう。

 同点ゴールのジョー・コールはこれがプレミア初得点。決勝点のランパードはPKを譲ったことについて「試合前にはPKは自分がけることになっていた。でも、パウロ・デ・カニオの目を見ていたら、彼にボールを預けていたよ」と語った。“クレイジー”とあだ名がつくイタリア人のデ・カニオは、良くも悪くもWHUのキーマンだ。

 ところで試合が終わった後の場内アナウンス。面と向かって話していても「PARDON?」を連発する僕なのに、電話や放送の英語がわかるはずがない。しかし、ただ一つ想像がつくことがある。それは、他会場の結果。会場を問わず歓声が上がったら、それはマンチェスター・ユナイテッドが負けたということなのだ。この日のアプトン・パークも「ニューカッスル3、マンチェスター・ユナイテッド0」というアナウンスの後、大きな拍手が起こった。前の席のおじさんが、ごていねいに「ロイ・キーンが退場だって」と教えてくれた。

(2000年2月17日)