さいたまと
ワールドカップ





COLUMN●コラム


#083
  「イ〜エイ」を聞かなきゃ帰れない


 31日にもプレミアリーグがあった。ロンドンではウエストハムvsトテナム・ホットスパー。しかし日本で調べたら、このチケットは完売していた。時間があるからダフ屋や金券ショップ(?)で買う手もあるが、結構高いことが予想されるし、僕はウエストハムのスタジアム「アプトン・パーク」へは3回行ったことがある。古い木のイスがすごくいい雰囲気で、好きなスタジアムなのだけど、大枚を払ってまで行こうとは思わない。

 それに相手のスパーズも、ジノーラが移籍してしまったので、どうしても見たいほどの選手はいない(あとはアンダートンとキャンベルくらいしか知らない)。それでロンドンの外ではどこかいけるところはないかと調べて、サウサンプトンvsレスター・シティーにした。

 サウサンプトンの駅はロンドンから約1時間30分。これだと7時45分からの試合が終わってからでも12時前にはロンドンに帰れる。もっと遠くなると、行くには行けてもその日のうちに帰って来られないのだ。それにサウサンプトンのスタジアム「ザ・デル」は駅から0.7マイル(約1.2km)とガイドブックに書いてある。初めてのスタジアムでも、これなら歩いていける。

 そういう訳で、サウサンプトンに行った。ちなみにMさんは、ウエストハムのチケットを金券ショップで75ポンド(約1万5千円)で入手して行った。高いか安いかわからないが、初めてのスタジアムで夜にダフ屋を探すことを思えば、妥当かなと思う。

 チャールトンで40分以上チケット窓口で並んだ(並んだのはMさんだけど)経験から、1時間はみておいた方がいいし、スタジアムもすぐに見つかるとは思えない。腹に何か入れる時間も欲しい。考えた末に午後4時45分ロンドン発、6時12分サウサンプトン着の列車に乗った。次の便だと6時50分になってしまうので、やや不安だ。結果としてこれは杞憂に終わったのだけど。

 6時12分、駅に着いて周りを見ても、サポーターらしき人は数えるほどしかいない。平日で、まだ早い時間だから仕方がない。と言っても日は完全に暮れている。灯りがないと真っ暗である。本当はサポーターについて行きたかったのだけど、帰りの列車を調べておきたいので、しばらく駅にとどまる。というのは、日本で買った時刻表だと、帰りの列車は午後9時51分。これだと試合が終わってギリギリ。次はというと10時52分。ロンドン着が12時20分で、地下鉄の最終に間に合わないかもしれない。きっと試合の日は臨時列車があるに違いない、と思って駅構内の表示を見たが、見当たらない。to Londonの列車は21:51/22:52となっている。仕方なく駅を出る。

 もう周りにサポーターらしき人は誰もいない。駅周辺の地図を見てもスタジアムらしき物は書いてない。つまり、そんな近くにはないということだろう。たしか大勢あっちの方へ行ったぞ、と見当をつけて歩きだす。途中の交差点で、フットボールファンらしき3人連れを見かけ、ついていく。

 列車の時間といい、スタジアムへの道といい、どうして周りの人に聞かないの? そう思うだろうが、僕の英語はそんなに通じない。相手の言うことはもっとわからない。僕が尋ねたことにYESかNOで答えてくれればいいが、ほかのことを言われると分からないかもしれない。こっちから尋ねておいて、何度も何度も聞き返すのは申し訳ない。みんな知っている通り、気が弱いのだ僕は。でも、そんな気弱な僕でもイギリスは平気で1人旅ができる、と思ってもらえばいい。

 いよいよ切羽詰まれば身振り手振りで話を聞くが、まだそこまでいっていないから、自力で探すことにした。さっきの3人連れは、信号を渡ると、二手に分かれてしまった。一瞬困ったが、2人が行くほうにした。何となくそっちのような気がする。

 1.2kmと言えば徒歩で約15分。かれこれ10分くらい歩いているが、何もスタジアムの匂いがしない。さすがに心配になってくる。とにかく僕が知っているプレミアリーグの試合前のイメージとだいぶ違うのだ。みんなぞろぞろとスタジアムをめざして歩く、という光景をどこでも見てきたのに、ひょっとして根本的に駅からの方角が間違っているのではないか…。

 そんなとき、前を比較的にゆっくり歩いている3人組がいた。そのうちの1人が着ている年季の入ったジャンパーにレスターの狼だか犬だかのマークが付いている。よっしゃ、この道でOKだ。その人は、どう見ても60歳はだいぶ越えていそうだ。こんな人が着古したジャンパーに身を包んで、アウエーゲームに来る。なんとなくうれしくなった。

 3人連れに続いて道を右折すると、スタジアム発見。道で売っていたマッチデー・プログラム(2ポンド)を買って、チケット売り場を探す。「Tikcet Office」と書かれた窓口には誰も並んでいない。もしかして売り切れ? などと思いつつ、聞いてみると何も問題なく買えた。ここは24ポンド。

 時計を見ると6時35分。まだ1時間以上ある。やや拍子抜けしながらスタジアムの周りを回ってみる。ホットドッグで腹ごしらえするが、2ポンド? 昨日のチャールトンでは1.8ポンドだったぞ。

 ショップに入ってみるが、これといって面白いものもない。店を出て、何かないかとうろつくと、「For Collecters」と書いたオフィスがあった。のぞくとマッチデー・プログラムのバックナンバーらしきものが売っている。これはいい、と入ってみると、右手に去年以前のプログラムがワンサと置いてあり「5 for £3」(5つ3ポンド)と書いてある。安いけど、古いマッチデーならだいぶ持っているし、僕はそれほどのコレクターではない。それに掘り出し物を見つけようと一所懸命探している人が2人いて狭かったので、そこは切り上げて左手のコーナーに行った。そこにはサウサンプトン以外の今季のプログラムがたくさん置いてあった。おう、これはいい。

 MDP2001バージョンの参考にするため、新しいプログラムはなるべくたくさん欲しかったところだ。今回行けないところや、これまで持っていないクラブのものを5冊ほど買った。ここは値段の表示が何もないので定価なんだろうな。11ポンドかかったが、経費になるかな?

レシートはもらえなかったぞ。

 7時15分。あと30分だというのに活気がない。昨日のチャールトンと比べると、雲泥の差だ。人も少ない。とりあえず中に入ろう。500mlのペットボトルはOKだった。キャップも取られなかった。

 僕の席はゴール裏にあたるエリアで、ゴールとコーナーの中間ぐらいの位置。Mだから、前から13番目だった。15個ぐらいイスがつながっている列の一番左端。すぐ横にはカップルが座っているけど、その右側がズラリと空いている。ということは、試合が近付くと人が詰めかけてくるということで、そのたびに一々立つのは面倒だから、下の休憩所で待つことにする。そもそもこの休憩所がすいているのが信じられない。どこでも試合前は飲食物を買ったり、談笑する人でごったがえしているのに、サウサンプトンでは壁のテーブル(駒場のバックスタンド側コンコースについているようなやつ)でメモを書きながら、コーラを飲んでいられた。

 7時43分になったので、さすがに席にいった。おお、30分前とは比べ物にならないくらい埋まっている。やはり平日だからギリギリになるのか。

 レスターは7位。うまくいけばUEFAカップ出場権も得られる。サウサンプトンは下手をすると降格ゾーンに引っ掛かってしまう。上と下で同じような立場にいる2チームの対戦ははっきりいって退屈だった。個々の選手のプレー(トラップやキック、ドリブル)は非常にうまいのだけど、どっちも決定的な場面がない。とくにスルーパスが出ない。左右からのクロスは割と上がるが、正直すぎて危なげなくクリアされてしまう。

 だいたい特にサウサンプトンが好きで来た訳じゃないのだ。サポーターはおとなしいし(おとなしくて何がいかんのだ?)、成績は鳴かず飛ばず(今季は14位)、知っているのは監督(元イングランド代表監督のグレン・ホドル)と、今季チェルシーから移籍したペトレスク(俳優の河原崎健三に似ている)ぐらいのもの。今日のプログラムの中に、ユニフォームではなくアップスーツを着て「ペトレスクは、まだ彼の力をセインツのために発揮する機会を得ていない」とキャプションがついた彼の写真があった。出場数を見ると、少なくはない。とすると結果が出ていない、ということだろうか?前半は0−0で終わった。

 ハーフタイムにトイレに行ったが、あまり混んでいない。コーヒーも楽に買えた。ここのスタジアムは1万5千人くらいのキャパだからか?

 後半。試合は相変わらずだが、応援を聞いていれば楽しい。Jリーグでも同じだが、7割くらいは同じパターンの応援に各チームの名前を入れるだけで、3割くらいは各チームのオリジナルかな、と思った。サウサンプトンは、「セインツ(Saints=聖者)」というニックネームがあるだけあって、「聖者が町にやって来る」の歌が盛んに歌われていた。

 そろそろ帰る時間が心配になってきた。スタジアムから駅までは早足で10分くらい。9時51分の電車に乗るには40分には出る必要がある。後半が始まったのが8時50分で、ロスタイムを計算に入れても9時40分には試合が終わるはずだ。しかし帰りはさすがに混むだろう。昨日のチャールトンは、スタジアムを出るまでノロノロ歩きだった。1人でスタスタ歩いていくのとは訳が違う。

 試合終了の5分くらい前に出よう。そう決めたものの、スコアは0−0のまま。行った試合で点が入らないのも寂しいが、自分が出た後に点が入ったらもっと悔しい。ホームチームが得点した瞬間の「イ〜エイ(イエ〜イじゃないんだな、これが)」という歓声は、残念ながら日本では聞けない種類のものだ。これを聞くのはお金には代えられない楽しみだ。

 時計を見た。8時30分。後半40分だった。しょうがない、もう出よう。腰を浮かせかけたとき、サウサンプトンがFKを得た。ハーフラインより10mばかり相手陣地に入ったところの右サイドだった。直接狙える角度ではないが、得点の可能性はある。僕は座り直した。ボールが上がる。ゴール前で競り合いがあって逆サイドにこぼれる。そこへ左から飛び込んできた選手が押し込む。頭だったと思うが、選手がブラインドになってよくわからない。

 イ〜エイ!スタジアムが大音響に包まれた。全員(たぶんレスターのサポーターをのぞき)が立ち上がっている。僕も立ち上がった。立たないとグラウンドが見えないのだ。ゴールを決めて走ってくる選手は、僕が唯一知っているペトレスクだった。「まだ力を発揮していない」と書かれた男が値千金のゴールを決めた。僕がプログラムの編集者だったら、「やったぜ!」と思うだろう。他人事ながら、うれしくなる。そして僕にとっても思い残すことなく席を後にすることができた、うれしいうれしいゴールだった。

 駅には9時45分くらいに着いて十分間に合った。発車時間近くになってだいぶホームが混んできたが、来た列車はやはりガラガラで楽に座れた。2日目の疲れか、ロンドンに近づいたころ熟睡してしまった。「ウェータールー(Waterloo=サウサンプトンからの列車が着くロンドンの駅)だよ」とイギリス人の若い男が肩をたたいて起こしてくれた。首にはセインツのものらしい赤いスカーフがまかれていた。

 ところで、チャールトンで悩み、その後もすべてのスタジアムで見かけた「Ticket Office for Collection」という窓口。日本に帰って「Collection」を辞書でひいたら、「収集物」という意味のほかに「徴収」「集金」という意味があった。こちらの方が先に書いてあるので、英語の意味としては強いのだろう。してみると、この窓口はシーズンホルダーのためのチケット交換場所というより、電話やEメールで予約した客がチケットを受け取り、金を払う場所、と解釈するのが正しいのかもしれない。東本貢司さんなら知っているだろうなあ。

(2001年2月15日)