さいたまと
ワールドカップ





COLUMN●コラム


#094
あいつの勤務先


 試合がなければMDPもない。MDPがないんだから、はみ出し話も休み…とはいかないか。
 昨日27日、都内で行われた結婚式の披露宴にお呼ばれした。新郎、新婦ともに親しいレッズサポーターで、レッズの初優勝と2人の結婚のどちらが早いか、などと思っていたのだが、レッズがグズグズしているもので、J1再スタートの2001年に、こちらも新生活をスタートさせたものだ。
 さて、新郎と新婦は同じ会社である。新郎が新婦をレッズに引っ張ってきた、という図式らしいが、今ではそんないきさつには全く関係なく、2人ともド熱烈サポーターになっている。同じ会社だからいわゆる社内結婚である。主賓のあいさつで、新郎の職場の先輩と新婦の職場の先輩が、それぞれ2人の仕事ぶりを披露してくれた。それを聞いて、ハタと思い当たった。
 (そう言えば、俺はあいつらの会社の名前知らなかった)
 一般の人に直接関係のない業種なので、名前を聞けば誰でも知っている、という会社ではないが、足掛け8年も付き合っていて2人の会社の名前も知らなかったのか、と意外な気がした。そう思って自分と同じテーブルについているサポーターの顔をあらためて見回してみた。
 (あいつは公務員だから知ってる。あいつの会社は他のチームのスポンサーだから印象が強い。あいつの勤め先は…名前は知らない)
 そこに来ていない、他の親しいサポーターの顔も思い浮かべると、有名な会社とか自衛隊とか消防士とかは知っているが、あとはほとんど知らない。しょっちゅう酒を酌み交わしていても、仕事の業種すらよくわからないサポーターが多い。年齢も正確には知らない。
 じゃあ、それで何か不都合があるかというと何もないのだ。同じ町内でも同じ会社でもないが、人柄はよく知っている。そういうサポーターの何と多いことか。
 披露宴で紹介された2人の仕事ぶりは、僕がふだんから彼らを見て感じている通りだった。レッズの応援を通じて伝わってくるのは、何もかくさない本当の人柄なのだろう。利害関係のない仲間のなかで、自分をさらけだせる、自分を解放できる場所、それがレッズなんだろう。あらためてそう思った。
 乾杯の音頭を取るように指名された僕は、あいさつでこう言った。
 「みなさんは、あまりサッカーに夢中になると、仕事や家庭がおろそかになるのではないかと心配されるかもしれませんが、そんなことはありません。Jリーグが目指すのは、サッカーを通じて豊かな社会を作ることです。自分の愛するチームに情熱を注ぐことで、その人の人間性はより豊かになっていきます。2人が結婚してますますレッズに力を入れることで、仕事や家庭により良い影響を与えていくことでしょう」。
 誤解のないように言っておくと、レッズが負けてプンプンすることがない訳ではない。いや多々ある。それは短いスパンで見ればレッズの悪影響かもしれない。しかし必ず笑うときがある。うれし泣きするときもある。チームを応援していて、毎日、毎年笑っていられることなどあり得ない。怒ったり、悲しんだり、笑ったり、燃えたり、気持ちの起伏が激しいこと。そして無償の絆で結ばれている仲間の存在が、どんなに人間性を豊かにしていくことか。そういう対象を持っている自分たちは幸せだとおもう。
 まあ、たまに呪いたくなることがないでもないが。

(2001年5月28日)