さいたまと
ワールドカップ





COLUMN●コラム


#111
オール・オア・ナッシング

 あれ、いつの間にか水曜日!
 レッズの成績が悪いと、何もかもやる気が下がる、なんて何でもレッズのせいにして はいけない。悪いのは僕だ。
 昔だったら、これで挫折してしまって、しばらく書かなかったかもしれない。100 %成功しないと、途端にやる気がなくなってしまう性格なのだ。でも、それを言ってい たら今の仕事はやってられない。レッズは、この9年間で僕を少し我慢強くさせてくれ た。

 小野伸二の写真集が出るらしい。いつまで小野で儲けるんだ?と思ったけど、お世話 になっている大住良之さんと「あすとろ出版」(拙著「浦和レッズの快感」の版元)の 依頼なので、僕も拙稿を出させていただいた。10月13日の発売をお楽しみに(大住 さん、原稿が遅れた分、宣伝しておきました)。
 さて、その原稿に書ききれなかったことを、少しここで書く。

 1000の目標に対して900まで到達すれば、達成率9割。分野にもよるが、まず まず合格と言っていい数字だ。ところがスターとファンの関係になると、そう単純には いかない。サインを求める1000人のファンに対して900人まで応じて、残りの1 00人には失礼してしまったらどうだろうか。
 サインする側としては9割までやったからまずまずだと思っても、もらえなかった1 00人のファンにとってはゼロだ。逆にもらえた人は100%だ。ファンにとっては、 サインをもらえたかもらえないかは、オール・オア・ナッシングであって、10%も9 0%もない。それはサービスする側とされる側の感覚の違いだろう。
 浦和レッズの練習場、さいたま市大原サッカー場には、毎日レッズファンが訪れる。 今は日曜日が基本的に休みになっているが、それは土曜日に試合があるからで、カレン ダーは関係ない。祝日には練習があるから、500人以上のファンが並ぶこともある。  サインするのに、ファンが50人程度の平日なら10分〜20分で終わるが、500 人なら1時間半はみておかなければならない。
 「10分ぐらいなら、よほど急いでいない限りサインしていきたい。でも2時間近く はできない。途中でおしまい、という訳にはいかないでしょう」
 福田正博がよく漏らす言葉だ。
 このあたりは、日本人と外国人選手の違いを感じる。94年から97年にかけて在籍 したギド・ブッフバルトは、ファンを大事にすることで知られていたが、気軽にサイン に応じていた代わりに、まだ待っているファンがいても、時間が来ると帰ってしまうこ とが多かった。
 毎日サインするけど、全員にはしない。たまにしかサインしないが、するときは全員 にする。サインを求める全員の希望には添えないということではどちらも同じだが、や るなら全部やる、やらないなら全部やらない、という方が日本人的なのかな、と思う。
 求める側はオール・オア・ナッシングなのだから、求められる側は9割やったからと いって満足してはいけない、というのは大事なことだ。選手もクラブもそれはいつも考 えてほしい。
 しかしファンの側も考えなくてはいけないことがある。選手が1人にサインするのに は10秒もあれば十分だ。だが6人で1分、60人で10分、360人で1時間…。  「時間がないのでサインだけにしてください」というお願いは、決して無茶なもので はないだろう。それなのに握手を求めたりツーショット写真を撮るファン。必ず「これ だけだから」と言い訳する。「これだけ」と言うなら、ほかの人がサイン以外のものを 求めるのを責任を持って止めなよ。確かに写真を撮る「ぐらい」は、「たった」10秒 よけいにかかるだけかもしれない。しかし全員がそれをやったら、1時間が簡単に2時 間になる。練習で疲れた選手に2時間(それもほとんど休憩なしに)サインをさせて、 いいの?

 求められる側が「全員に」と努力し、求める側は「少しずつ」と我慢する。人気が高 ければ高いほど、その関係がないとうまくいかないことを双方が理解する必要がある。

 かつて小野が、都内でテレビの取材があるため、サインせずに大原を出ようとすると き「すみません。取材があるので、今日は失礼します。食事もしなくちゃいけませんし 」と断ったスタッフに対して、「メシくらい5分で食えるだろ」と言った若い女性がい たという。ああ、そのとき僕がいたらなあ。

(2001年9月19日)