さいたまと
ワールドカップ





COLUMN●コラム


#120
逮捕

 10月13日の埼スタでも思ったけど、いくらワールドカップの予定会場を使うからといって、Jリーグの試合でワールドカップの練習をしないでほしい。
 プレスの導線とか、輸送の流れを見るのはいい。これは本番と大きくは変わらないだろうし、拙いところがあったら直せばよいからだ。
 だけどワールドカップとJリーグの決定的な違い。それは前者が全席指定なのに対して後者にはかなりの数の自由席があるということだ。この条件の大きな違いを無視して「本番さながら」にやっても意味はないし、「実験台」にされるサポーターもクラブもはっきり言って、いい迷惑なんである。
 全席指定席ならば、開場の何時間も前から大勢が並んだりしないし、いい席を取るために気が急いたりすることはない。荷物チェックやボディチェックもやればいい。
 しかしJリーグでは、どのカードにも自由席があるし、自由席に入る人がもっとも熱いサポーターである。大人数のグループもある。自分たちが好きなポジションで応援をしようと席取りにも励む。横断幕も張る。張る場所も「指定席」などないから、競争になる。そのために早くから並ぶ。こんな観客を相手に、ワールドカップと同じ基準で警備や入場システムを当てはめればトラブルが起こるのは当然だ。
 ワールドカップ仕様のシュミレーションが必要なのは、Jリーグの主催クラブではない。その土地のJAWOCと警察だ。当然、Jリーグのときの警備員、係員よりはるかに多い人数が要求される。人数を増やすための経費は、主催クラブだ(少なくともレッズの埼スタ10・13はそうだったはずだ)。そして突然に入場規制を強くしたことによって起こるトラブルについて、警察やJAWOCが責任を取ることはない。なぜならトラブルとは、なかなか進まない入場の列に業を煮やしたサポーターが熱くなって物を壊すとか、係員につかみかかるとかがほとんどだから。列が滞りすぎて将棋倒しになってしまったというトラブルはまだ聞かない。もし将棋倒しが起きても、最初に押すか何かしたサポーターを限定できれば、責任はその人に取らせることができる。逆に、渋滞にイライラしたサポーターが何かを壊すとかしても、行為者を特定できなければ、「過剰警備」だという批判が警察やJAWOCやクラブに行くかもしれない。


 11月3日、札幌ドームで行われたコンサドーレ−レッズ戦で、入場の際のトラブルのため、レッズサポーターが1人逮捕された。あまりの手際の悪さ、入場の遅さに怒って鉄製の柵を蹴り倒して「北海道迷惑防止条例」違反に問われたらしい。その日は留置場に泊められ、翌日も解放してもらえなかった。
 実際にどういう状態だったかは、僕は直接には見てない。僕が現場、すなわちビジター側自由席入場ゲート(南側)に行った午後5時半ごろは、3つのレーンができていて、長蛇の列もなく、比較的スムーズに入場していた。だから、これは聞いた話を総合して紹介するしかない。
 まず午後4時の入場開始時間には、寒いなか大勢のレッズサポーターが並んでいたが、入場レーンは1ヵ所しか開いていなかったそうである。そして5人ずつ仕切って手荷物検査、入念なボディチェックがあった。その結果、入場の列は遅々として進まず、並んでいるサポーターのストレスは高まる一方だったらしい。そこでレッズの関係者が入場レーンを増やすように要請し、またレッズサポーターも後ろの方の列をコンサドーレ側の入場口から入るように指示した。こうして、僕が行ったころには入場レーンが3ヵ所に増えており、入場待機している人はほとんどいなかったという訳だ。
 件のサポーターが柵を蹴り倒したのは開場して30分後、まだ入場レーンが一つしかなかったころだ。とたんに待機していた警察官につかまったらしい。
 柵を蹴り倒したのはもちろん悪い。その日、並んでいたどのサポーターに聞いても、「最悪」「埼スタより悪い」と不満タラタラだが、みんな頭に来ても我慢している。物を蹴飛ばしたりしなかった。手際の悪さを批判、指摘したりするのはやればいい。特に改善できる余地のあることは言うべきである。でも暴力的な行為はいけない。彼がある程度のペナルティを受けるのは仕方がない。
 じゃあ彼の逮捕は仕方がないのか、というと全然次元の違う話だ。誰かを殴ったとか、物を盗んだという訳でもなし、いきなり警察が出てくる問題だろうか。主催者レベルで厳重注意、せいぜい始末書で済むことだ。JリーグにはJリーグの「相場」というものがあると思うのだが。


 ちょっと整理してみよう。
1・ワールドカップの会場だからといって入念な入場チェックをたった一つのレーンでやっていては、サポーターから文句が出るのは当然。→運営の改善の必要あり
2・文句があるからと言って柵を蹴り倒すのは正当化されない。→本人に反省の必要あり
3・柵を蹴り倒したからといって、主催者の要請もないのに逮捕は行き過ぎ。→早く釈放してほしい


 翌日の新聞にはサポーター逮捕の記事に絡んで「『入場が遅くなるのは困るが、情勢から言って安全対策は仕方がない』とほかの観客は納得していた」ようなことが付け加えられていた。そういう人もいるかもしれないが、僕が聞いたレッズサポーターからは不満しか出てこなかった。入口がいくつもあるのに、1ヵ所しか開けていない状況が見えてしまう列の前の人はもっとストレスがたまったはずだ。
 けっして逮捕されたサポーターを一方的にかばう訳ではないが、状況がわからない人達のために、取り急ぎ知り得た範囲のことと僕の考えを書いてみた。→明日以降に続く

(2001年11月5日)