さいたまと
ワールドカップ


●INDEX

●バックナンバー
●ご意見・ご感想
COLUMN●コラム


#132
個体識別・その2~サポーター

 サケは産まれた川に帰ってきて、そこで産卵をし、力尽きて死んでいく。
 という話を聞くが、僕は実際にサケの生誕から逝去までを追ったことはない。科学者や漁業関係者の観察、努力でそれが証明され、定説になっているのだろう。


 だけど初めてこの話を聞いたとき(いつだったか忘れた)、「?」と思った。


 サケがAという川でいっぱい産まれる。それはいい。観察も可能だ。A川にサケがいっぱい上ってきて産卵するのも見ることができるだろう。
 だけど、その産卵したサケが、A川で産まれたサケだということは、どうやってわかるんだ?サケが川の河口で1年をすごすならともかく海に出ていくのだから、どのサケが戻ってきたか、なんてわからないだろう。サケは川で産まれ、海に出ていき、川で産卵する、ということは事実でも「産まれた川に戻ってくる」なんてどうして言えるんだ?と。


 その後「個体識別」という、動物の生態調査では欠かせないシステムがあるのを知った。A川で産まれたサケなら「A川産」とわかるような印をサケの体に付けておき、1年後、川川に上ってきたサケにその名札が付いているどうかを見る。この場合は「A太郎」「A子」みたいに個別の名前ではなくA川で産まれたことだけがわかればいいから、個体識別というより「団体識別」かもしれないが、要するにそういうことだ。
 これを聞いて、専門家というのはそのことに関して大変な努力をしているんだなあ、と感じた。だって「A川産」の名札を付けたサケが産卵に帰ってきても、それは、サケは産まれた川「にも」帰ってくる、という証明になるだけで、その川「だけ」に帰ってくる証明にはならない。全国のサケが産まれるA川、B川、C川でいっせいに調査しなければならないからだ。


 以上、実態とはだいぶ違うかもしれないが、「サケが産まれた川に帰ってくる」ことの証明方法について述べた。専門家の方、間違っていたら指摘してください。


 この話を思い出したのは温泉旅行より前。1月7日にある人と食事しながらレッズのことを語っていたときだ。2002シーズンの指導体制も決まり、スケジュールも固まったようだ。どうなりますかね、などと話しているとき、相手の人が言った。


 「どういう体制になっても、どういいう選手を採っても、文句を言う人はいるんですよね。でも去年だってピッタが監督になったときはボロクソだったのに、最後は称賛の嵐じゃないですか。アリソンだって、そうでしょう。自分が数カ月前に言ったことをどう思っているんですかね。だいたい、文句ばっかり言ってる人は、スタジアムで応援しているんでしょうか…」


 ストップ。9月にピッタをこき下ろした人と、天皇杯で称賛した人が同一人物かどうかはわからない。「自分たちはこんなに応援しているのに」という人が、実際にスタジアムに来ているかどうかはわからない。「レッズサポーター」という括(くく)りで考えては、見えてこない。個体識別しないと。
 そう思って、僕が個体識別できるサポーターが何人いるか考えてみた。500人? いや1000人。顔と名前(ニックネーム含む)が一致する人は、もっといるだろう。でも、それでも個体識別できるとは限らない。
 スタジアムで「おす」と挨拶するA君が、かつてどんな主張をしていたのか、インターネットの掲示板やクラブへのメールで何を書いているのか、そこまでは知らないからだ。そういう意味では、その人のスタンンスやポリシーまである程度わかる人は300人ぐらいかな、と思う。これではとてもレッズサポーターの「生態調査」の科学的データにはならない。


 個体識別などせずに、言いたいことを言いたいときに言ってもらえばいい。それがサポーターの楽しみでもあり、応援の原動力にもなっているからだ。一つの考え方、やり方をずっと貫くポリシーも立派だが、過去の発言や応援に縛られす、そのときそのときで好きなことを言うのもサポーターのあり方だ。


 大事なのはクラブの姿勢だ。2002年、新しい体制になった浦和レッズに僕は以下の3つのことを望む。
 まずサポーターの意見は広く聞く耳を持ってほしい。間接的にも直接的にも。
 しかし、意見が大きく聞こえるからといって、クラブの方針を簡単に左右されないでほしい。
 そして、クラブがいま何を考えているか、常にサポーターに向けて発信してほしい。


 これまでの浦和レッズが上の3つのことをやっていなかった訳ではない。でも不十分だったとは思う。
 ファン、サポーターの数が少なければメールに一々返事を出すこともできるし、多くの人と直接話すこともできる。サポーターの側もクラブと一体感を持ちやすいかもしれない。しかし観客数日本一を誇るレッズが、多くのファン、サポーターとファミリーになって歩いていくのは簡単なことではない。広く、浅く。時に狭く深く。そして常に誠実にやっていくしかない。
 チーム強化については、スタッフ、選手ともに新体制が決まってスタートが迫ってきた。もう一つ。クラブとファン、サポーターとのファミリー化についても、新しい方針でスタートしてほしいものだ。

(2002年1月16日)