さいたまと
ワールドカップ


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COLUMN●コラム


#156
踏み荒らされた芝

 なんだ、あいつら。ふざけるのもいいかげんにしろよ!ひとの家に来て、土足で畳の上を走り回るような奴らは帰れ!

 今回は冷静ではない。きっと反発も多いだろう。でも敢えて書く。さいしんさん、すみません。

 昨日9日、日本−ロシア戦の後半、稲本のゴールが決まったとき、たまたま僕は駒場スタジアムの運営本部にいた。「盛り上げよう!2002FIFAワールドカップさいたま市民委員会」など主催の「パブリックビューイング」の手伝いに来ていたのだ。
 次の瞬間、僕は部屋のテレビではなく、表に飛び出してバックスタンドを見た。レッズの試合では指定席で比較的整然としている2階席が、この日は自由席で、しかもかなり動き回っているサポーターが多かったからだ。万一、2階からこぼれ落ちたりしては大事故になる。
 しかし僕は違う心配をすべきだった。バックスタンドの2階から落ちるサポーターはいなかったが、1階からフィールドに飛び降り、さらにピッチにまで入って駆け回るサポーターが30人〜50人いたのだった。続いてメインスタンドから下に飛び降りてピッチに入ろうとするサポーターが10数人出てきた。僕はメイン側にいたので、バックの連中には対処できなかったが、メインから飛び降りようとしたサポーターに怒鳴って止め、降りてしまった者がピッチまでいかないように制止するのに少しは役立った。

 昨日は取材のために駒場に行ったのだが、様子を見て大変そうだと思い、急きょ手伝いに回った。僕も運営委員を務めるレッドダイヤモンズ後援会のスチュワードが20人ほど応援に駆り出されていたのが理由の一つ。先日4日の日本−ベルギー戦のときに、さいたまスーパーアリーナで行われた同じ催しがかなり混乱したらしいことが理由の二つ目。そして実際に駒場に行ってみて、12時過ぎの段階でサブグラウンドが入場を待つサポーターでほぼぎっしりになっていたことが三つ目だ。
 そういうときは、どうも目の前の大変なことに頭が行ってしまう。まあMDPにとって、この日の取材はそこまで重要ではなかったということもあるが。結果的にレッズサポーターにはほとんど会わなかったし。

 午後1時半の開場と整理券配布については、はっきり言って主催者の不手際が目立った。サブグラウンドの列があいまいなまま入場と配布を始めたため、列の順番を無視して横から入ろうとする者が続出。サブグラウンドのフェンスをよじ登る者までいた。さらに整理券配布所への誘導を少ない警備員で行ったため、人が殺到して大混乱になった。整理券配布係の女性は「死ぬかと思った」ほどらしい。
 その混乱の中で整理券の束をつかんで持っていく者まで現れ、配布は一時ストップされた。当然、早くから並んでいたサポーターは怒る。また思わぬところから人の波が押し寄せ、ケガをする人も出た。
 「インフォメーション」にいた僕は、罵詈雑言に頭を下げ続けていた。サポーターから見れば僕は主催者の一員に間違いないから、怒りをぶつける手近な相手だ。僕としても、主催者の手際が悪かったのは事実だと思っているから反論の余地はないし、かといって実際の主催者には遠い存在だから、上から方針が出るまでは責任持った対処ができない。
 「順番を無視して入った奴らをいったん戻せよ!」という声が多く、いくらもっともな主張だと思っても、そんなことは約束できるはずもない。「今後どうするのか説明しろよ!」と言われても勝手に判断できる立場になかった。ひたすら頭を下げ「ごもっともです。申し訳ありません。もう少しお待ちください」というしかなかった。
 これらのことについては、どうすれば良かったか、主催者にちゃんと言うつもりだし、自分が罵倒され続けたことへの恨みを言うつもりはまったくない。
 結局、順番が前後したことの取り返しはつかなかったが、並んでいた人は全員スタジアムに入れた。このまま終われば、入場時の混乱は指摘されても、全体としては成功の部類に入っただろう。試合には勝ったのだから、参加者の大部分は満足して帰ったかもしれない(スタンドはレッズ戦より混雑していたから、不快な思いをした人もいるとは思うが)。

 だけど僕は思う。たとえ喜びのあまりとは言え、Jリーグのホームスタジアムの芝の上を走り回って平気な奴らが交じっていたのなら、この催しは成功とは言いたくない。 正直言って開場してからずっと、何だか自分の家で知らない人間が大勢遊んでいるようで気分的に良くはなかった。駒場のスタンドは、レッズサポーターにとっての戦場だから、そこを他のチームのサポーター(あるいは日本代表だけの、または「今回の」日本代表だけのサポーター)に我が物顔に入ってほしくはない。が、それはわがままというもの。我慢するしかないだろう。駒場は持ち主であるさいたま市からレッズが借りているスタジアムだから、レッズの試合がないときに、さいたま市がどういう催しをやろうが、どうこう言う立場にない。
 しかし芝は別だ。おそらくレッズサポーターなら誰でもそうだろう。駒場のピッチをサッカー選手以外の者に、しかも無意味に踏み荒らされるのは我慢ができない。あの2000年11月19日、Jリーグ復帰が決まった瞬間でさえ、レッズサポーターでピッチになだれ込む者は一人としていなかった(よね?)

 彼らはふだん、Jリーグのどこかのチームのサポーターではないのかしら?だから飛び降りてはいけないというルールはもちろん、サポーターにとってグラウンドの芝がどれほど大事なものか理解できないのかしら。それとも知っているけど、自分のチームのスタジアムでないから平気なのかしら。だから、最初に飛び降りたとき関係者がどれほど駆けずり回ったか知っているくせに、試合終了の瞬間にもまたやったのかしら。
 サッカーで言うと一発退場のような行為だけど、2回もやったらこれはもう駄目でしょう。

 主催者は14日のチュニジア戦、あるいは日本が決勝トーナメントに進んだときにも「パブリック・ビューイング」を予定している。ワールドカップの開催自治体は埼玉県だが、サッカーどころである地元自治体としても、盛り上げに懸命なのは当然だから、この企画があるのは理解できる。入場時の混乱も、次回はきっちりと態勢を取ればスムーズにいくはずだ。
 しかし、絶対にピッチに乱入したり、花火や爆竹を芝の上に投げたり(今回はなかったようだが、派手に鳴らしていたので、そうする可能性はある)させない手立てが取れない限り、継続するのは再考の余地があるのではないか。
 1回目の飛び降りがあった後、「私たちの駒場を何だと思ってるんですか。もうこんな企画やめてください」と涙を流して係員に訴えていた女性サポーターがいた。
 「パブリック・ビューイング」自体は意義あるイベントだと思うし、一生懸命、企画、準備してきた関係者や、これを楽しみにしてきたサポーターには申し訳ない提案だが、レッズサポーターとしての僕の気持ちは、彼女と同じ向きに傾いている。

(2002年6月10日)