さいたまと
ワールドカップ


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COLUMN●コラム


#160
カウンター


 6月19日。だから、日本が決勝トーナメント1回戦でトルコに敗れた翌日だ。久しぶりに試合がないということもあって、北浦和の居酒屋で友人と2人で飲んだ。
 10人ぐらいのカウンターとテーブル合わせて、20数人が入れる店で、カウンターは常連らしき人たちでいっぱい。ここは午後5時の開店とほぼ同時に客が入り始め、6時ごろには常連で埋まるようだ。隣のテーブルで飲んでいるとカウンターの会話が切れ切れに耳に入る。


「…、小野は利いてたよね」
「やっぱりオランダに行ってから体が強くなったな」
「向こうの試合見たけど、…」


「俊輔、出たらおそらく駄目だったね」

「フラット3が…」

「Jリーグでは…」

「埼スタの試合も行ったけど…」

「三都主の使い方が…」


 詳しく再現できないから、わかりにくいが、そこで交わされているのは「プロの会話」だった。「プロ選手」ではなく「プロの記者」という意味だ。
 僕はチラッと声の主を見たが、知っている記者ではない。というかジャーナリストっぽくはない。「普通の」方々である。年齢は30代後半から40代、50代といったところ。近所に住んでいる自営業の人、あるいは近所の会社にお勤めの人、という感じだ。若者はいない。2、3人の会話に隣の顔見知りが加わる、という常連のカウンターで良く見られる光景が展開されていた。


 この店はたまにしか来ないので、どういう人たちが常連なのか、サッカーファンがどこまで多いのかは知らない。ただ僕が常連にしているいくつかの店のように、レッズのサポーターが集まる店ではない。浦和のふつうの居酒屋である。
 「すごい」「ひどい」「かっこいい」といった情緒的な言葉が交じらない、日本代表評を久しぶりに聞いた。しったかぶる訳でも、興奮する訳でもなく、淡々とゲームを振り返っていく。その会話に、僕はなんだかホッとした。


 「にわか」ファン、と呼ばれる青い(精神的な意味ではなく、服装的に)若者たちが急増してきた、この数週間。大げさに言えば、日本のサッカーの応援がどういうふうに流れていくか心配でもあった。
 居酒屋でのたった一コマをもって断言するのは乱暴だが、やっぱり「ここは浦和」なんである。「代表だから」ファン、「勝っているから」ファン、「カッコいいから」ファンではなく、「サッカー」が好きな人が根づいている。ふつうの居酒屋のカウンターで、世間話的に日本代表が語られる町なのだ。


 うれしくなって、ついつい酒が進んだ。そしてJリーグの再開が待ち遠しくなった。この店では、レッズはどんなふうに料理されるのだろうか。

(2002年6月24日)