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COLUMN●コラム


#176
心情

 9月14日(土)午後5時50分過ぎ。東海道新幹線掛川駅上りホームに駆け上がると、揃いのスーツ姿のレッズ集団がいた(レプリカ姿のサポーター集団もいたが)。中村修三チーム統括CMを見つけて握手すると、彼はこう言ってニヤリと笑った。
「永井がね、清尾さんのコラムを読んで頑張れました、ってさ」。
 もちろん冗談に決まっている。本当はこう言いたかったに違いない。
「自分たちが話をしたら、すぐに結果を出してくれてうれしいよ」と。


 中村さんは素直な人だ。素直に怒り、素直に喜び、素直に悔しがる。森さんと二人で永井に期待の声をかけた翌々日に今季初得点、しかも決勝のVゴール。その次の試合で磐田相手に先制ゴール。「どうだ。俺が声をかけた結果が出ただろう」といばる人ではない。が、内心はどんなにうれしいことか。
 今は能力のある選手が、控えに甘んじている状態が続くと、すぐに他チームからレンタルの依頼が来る。「使わないなら貸してよ」と。永井についても、あれだけの実績のある選手だから、オファーがない方が不思議だろう。詳しい経過は知らない。僕には事実だけで十分だ。クラブは永井を必要とした。永井もレッズで頑張ることを決めた。そして、その選択が大正解だった(今のところは)。
 素直な人だからこそ、選手の気持ち、精神状態が良く分かる。そして素直に行動に移せる。この中村さんのフォローが、目に見えないところでチームを支えていることを実感した。


 さて本題。この磐田戦、サポーターのグループに誘われてバスで行った。車中で、あるグループのリーダー(Qさん、としておく)が聞いてきた。
Q「清尾さんは、涙もろい方ですか」
清「ん?場合によるなあ」
Q「J1復帰が決まったときはどうでしたか」
清「仕事に追いまくられて、そのとき泣いている暇はなかったと思うよ。そういうときには忙しいんだ。あ、でもね。試合中に、ふと涙が出てくることはあるよ。勝っていて、選手やサポーターの頑張りがすごく伝わってくるときとか」


 磐田戦の後半、当然ながら僕はレッズサポーターの前でレッズの攻めを撮っていた。磐田スタジアムの場合は、「前の方」ではなく「前」だ。ゴール裏とピッチが本当に近い。なにせ磐田サポーターの旗竿が頭に当たってケガしたこともあるんだから。
 近く用と遠目用の2台のカメラを備えていたが、使うのはほとんど遠目用だった。なぜなら45分間のほとんどがハーフウェーラインから向こうでの攻防だったから。磐田の速くて正確なパス回しがレッズ陣内を席巻していた。
 しかし得点は2−0。レッズがリードしている。どんなに攻め込まれようとも、このままゴールを割らせなければ、1stステージ覇者のジュビロ磐田に、向こうのホームで勝つのだ。押し込まれるシーンは多かった。だが、フリーでシュートを打たせる場面がほとんどなかった。守備陣は、この場合はFWも含めてだが、体を張って防いでいたし、1人が抜かれても別の選手が磐田攻撃陣の行く手を阻んだ。
 GK山岸が、藤田のPKを足先で止めた。7月13日、屈辱の股抜きシュートでVゴールを決められた相手だ。
 必死の守り。
 ここ3試合、ほぼゲームをリードしてきたレッズではなかった。当たり前だ、相手は磐田。1点取られれば2点、2点取られれば3点と、接戦を演じながらきっちり最後にはレッズより1点多く取って試合を終えていた往年のアントニオ猪木みたいなチームだ。
 だがバタバタした守りではない。中央を割らせず、サイドにサイドに追い込んでいく。サイドから上げられたボールが、これまた不安なレッズなのだが、「鬼門」のファーサイドも必ずカバーしていた。


 後半40分。普通なら2点差でまず大丈夫なはずだ。しかし相手は磐田。ここで1点取られたら畳み込まれてしまうかもしれない。踏ん張れ。
 そう思ったとき後ろから聞こえてきた。「アレオー」の声。
(あ、いかん)
 目が潤んできた。Qさんとの会話を思いだした。人にバレるような涙ではないが、写真を撮るには大いに差し支える。
(こんなことぐらいで泣いてどうする)
 わざと冷めた気分になって仕事に専念した。磐田戦の後、何となく僕が無愛想に見えた人がいるかもしれない。それは(レッズが磐田に勝って俺が大喜びすると思ってたら大間違いだぞ。当然、当然)と平静を装っていたのだ。周りの報道関係者に。


 MDPは新しいサポーターに不親切じゃないか、という話がある。言われてみればそうかもしれない。少し気をつけようと思う。これについては別のところで書くが、今回はこれだけ言わせてほしい。


 93年のナビスコカップで、当時まだJFLだった磐田に0−4で負け、磐田サポーターが「お前ら(磐田イレブン)、こんなチーム(レッズ)相手に4点しか取れないのかよ!」と叫んだ。
 その頃からレッズを応援しているサポーターの、9月14日の心情は言葉では説明しきれない。もちろん10年間の借りも返しきれてはいないが。


(2002年9月17日)


<追伸1>
 借りと言えば、柏レイソルの北嶋秀朗くん。僕は、99年12月19日の君の一言、忘れていないからね。明日はこの日のためにとっておいたTシャツを着ていくから、余裕があったら見ておくれ。

<追伸2>
 ランドガレージ社から「浦和レッズのしゃべり場・ 4」が発売になった。今回は土橋正樹×清尾淳。サブタイトルの「いいやつ」とはもちろん僕のこと…な訳ないか。一部書店にはもう並んでいる。950円+税。問い合わせは048−832−9977へ。「 1・土田尚史×田北雄気」「 2・西野努×大野勢太郎」「 3・石井俊也×吉沢康一」もよろしく。