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COLUMN●コラム


#178
「屈辱の」ダンマク

 関西方面のスポーツ新聞は、どうもサッカーの扱いが小さいような気がして、アウェーで勝った翌日も、あまり買う気がしない。
 しかし札幌戦の翌日は、ほとんどの新聞を買った。各紙ともJリーグの記事以外にコンサドーレを主役にしたページがあるからだ。要はスポーツ新聞がみんなレッズに関する埼玉新聞みたいなものと思えばいいか(さりげない宣伝)。コンサドーレのスポンサーでもある(株主だったかな?)北海道新聞と道新スポーツも買った。
 さすがに各紙とも、コンサドーレのJ1残留が風前の灯になったような書き方をしていて、僕としては少し胸が痛かった。胸が痛いのは、決して札幌出張がなくなるからではなく、やっぱり日本の隅々までJ1のチームがあったほうがいいと思うからだ。J2だって立派なJリーグだけど、ヨーロッパのようにチーム(クラブ)が先にあってリーグができたという歴史がないから、まだ日本ではJ1にあらずばJリーグではないような風潮が強い。日本に百のJクラブが活動するころになればともかく、今はやはりJ1のチームがあちこちにあったほうがいい。そういう意味では九州にも必要だ。いや、本当に出張が楽しみで言っているんじゃないよ。


 話がそれた。
 僕が買った9月22日のスポーツ4紙のうち2紙に、レッズサポーターが張った「札幌おまえはもう死んでいる!byエメルソン」というダンマクの写真が載っていた。それぞれ「屈辱の横断幕」「浦和サポーターに痛烈なメッセージを送られた札幌」というキャプションが付いていた。
 これを読んだ人の多くは「浦和のサポーターって、何と情け知らずなんだろう」と思うに違いない。まあ、レッズサポーターの何人かは「J2、サッポロ!」とか「グッバイ、サッポロ!」とやっていたから、「情け知らず」には違いない。僕らも99年当時は、アントラーズだのガンバだのに散々「Go to J2」とか言われて頭に来た。だから、ああいうコールはやっちゃいけない…か、どうかは人それぞれだ。少なくとも僕は99年当時、相手チームに「レッズ、J2に落っちまえ!」と言われて、「ふざけんな、今に見ろよ」と発奮したものだった。発奮しても結局落ちちゃったけど。
 サポーターがお互いをけなし合って喜ぶのは本質の一つだと思う。特に1部、2部の降格、昇格はサッカーリーグにおける最大の醍醐味なんだから、それをネタにして悪いことはないと思うけど。たとえば98年の横浜フリューゲルスの消滅のときに「グッバイ、フリエ」とやるのとは違う。
 もっとも「J2、サッポロ」じゃヒネリも何にもない。個人的には「グッバイ、サッポロ」(「ウィー アー サッポロ」のテンポで)の方が多少は面白いかな、と思う。その分、向こうはムカつくだろうけど。


 また話がずれた。
 その、札幌にとって「屈辱的な」ダンマク。よく見ると、「札幌」の部分は、新しい布を張ってあるのに、新聞記者またはカメラマンは気づかなかっただろうか。これはどういうことだ?レッズサポーターはJ2に落ちそうなチームと対戦するときには、いつもこのダンマクを出して、チーム名だけ付け替えているのか?そう言えば「札幌」以外の部分はかなり古ぼけて、年季が入っている。でも9月18日の柏戦では見なかったぞ。
 実は僕の手元にある、2000年7月29日厚別競技場でのコンサ-レッズ戦の写真にも、このダンマクが写っている。名前のところは「洋平」になっている。これはもちろん西部洋平ではなく、札幌のGK佐藤洋平のことだろう。おっと待った。「by エメルソン」?エメは、この年、札幌にいたんだぞ。何でレッズサポーターの出すダンマクが「洋平おまえはもう死んでいる byエメルソン」なんだ?


 いいかげんに種明かしをしよう。もう、うんざりしている人もいるだろうから。
 あのダンマクの「札幌」の布をめくると、そこには「田北」の字があるはずだ。だからオリジナルのフレーズは「田北おまえはもう死んでいる!byエメルソン」。田北は2001年の前にレッズをやめ、その後現役引退したGK田北雄気だ。
 そう、あのダンマクは2000年のJ2時代に対戦したときに、札幌サポーターが張り出したものなのだ。6月4日の駒場だったか、7月16日の室蘭だったかは記憶がない。札幌サポーターのそのダンマクを拾うか奪うか(!)した浦和サポーターは、「田北」の部分を「洋平」、つまり札幌のGK佐藤洋平のことにして、7月29日の対戦のときに張り出した。以来、浦和サポーターは札幌戦のときに必ずあのダンマクを出しているのだ。何も今回新しく「お前らはもうJ2行き決定だ」という意味で作った訳ではない。
 このダンマクが、もし新しく浦和サポーターが作ってきたものだとしたら。はっきり言ってヒネリも何にもない、単なる嫌がらせにすぎない。しかし元は札幌サポーターが作ったものを少し変えただけだということを知っていれば、かなり面白い。札幌のJ1昇格の原動力+牽引車だったエメルソンによって、札幌がまたJ2に落とされる。別にエメルソンに落とされる訳ではないが、今季の2試合とも得点して札幌の敗退に「貢献」しているのだから、因縁は十分感じる。
 あのダンマクにはけっこう奥深いものがあるのだ。


 そのスポーツ2紙に「そういう過去があるのを知らないのかよ」と言うのが今回の主題ではない。
 もしも僕が札幌のマッチデー・プログラムの編集者だとしたら、このダンマクのことをどう扱うかな、と思ったのだ。


 写真を載っけて
 「いつまでもしつこいぞ!浦和サポ」
 「人のものを再利用することしかできない浦和サポ」
 「返せ!ダンマクも、勝ち点も」
 「まさか、あのダンマクがこう使われる日が来るとは…」
 なというキャプションを付けただろう。


 札幌サポーターの中にも、いきさつを知っている人と知らない人がいる。知っている人は大きくうなずいてくれるに違いない。でも知らない人には上のキャプションは、どれもピンと来ないだろう。じゃあ、知らない人向けに背景を細かく説明しても、面白さが伝わる訳ではない。知っている者同士だけで通じることというのがある。それは、ある意味では知っている人の特権みたいなものだ。
 「楽屋オチ」のようなものだが、その時代を共有した人ならたいてい知っているというのは、特別な立場にある人だけがわかる「楽屋オチ」とは少し違う。


 MDPは新しいサポーターに冷たい、と言われているそうだ。気を付けなければいけないと思う。しかし、それがこういうことを指しているなら、それはごカンベン願いたい。北海道内でコンサに初めて勝った、という喜びは、ここ3年のサポーターなら誰もが同じかもしれない。しかし磐田のホームでジュビロにきっちり勝った、という喜びが、93年からのサポーターと、ここ3年のサポーターとで差があるのは仕方がない。言葉で「磐田のホームでPK戦以外に勝ったことはない」と説明しても、その悔しさは当時その場にいた人でないと実感できない。
 古くからやっているサポーターが偉い訳ではない。こんなことも知らないのか、などと言ってはいけない。ただ悔しい時間が長い分、報われてもいいとは思う。僕はそういうつもりでMDPを作っている。どのサポーターが読んでも100パーセントの面白さがあって、古くからのサポーターには、古い分だけプラスαがある、というのが理想だ。
 そのプラスαの部分を理解するために、自分で人に聞いたり調べたりすること。それも新しいサポーターの楽しみだと思うのだが、違うだろうか。


 平井堅の歌を聞いて思わず「クスッ」と笑うサポーターがいたら、その訳を尋ねてみるといい。MDPに書くときは、いちいち注釈を付けないはずだから。


(2002年9月24日)