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COLUMN●コラム


#191
煮込み料理の味

 夕べは疲れていったん帰宅したら動けなかった。もちろん精神的にもへこんでいた。しかし浦和の街へ出たかったし、東武ホテルの「キリンサポーターズナイト」も決勝の勝ち負けにかかわらず取材するつもりだった。
 しかし体が動かなかった。脚はパンパン、背中はギチギチ、腕はダルダル…。ちょっと脚に力を入れただけで、激しくつってしまうというありさまだった。変だ。僕が試合をした訳じゃないし、90分跳ねていた訳でもない。なのに、どうして?ここしばらくの仕事の疲れが急に来たのか。そういう訳で、11月4日の夜は家で休んでいた。


 そんなに疲れるほど仕事をしていたという自慢話じゃないよ。実際やっているときは全然平気だったんだから。トシ取るほど反動は後に来るってホントだね。
 そうではなくて、気持ち的には思ったより落ち込まなかったということだ。
 11月5日以降の予定は、以前から決まっているものを除いて真っ白。優勝を前提に仕事を進めるほど楽天的ではないけど、そうかと言ってほかの用事を入れる気にもならなかった。つまり頭の中では優勝以外考えていなかった。そんな自分が、敗戦直後は落下していく気分だったが、ビジュアル応援の片付けをするサポーターを多少手伝いながら時間を過ごすうちに、急降下していた気持ちが、操縦かんを引きなおし、また上昇を始めていくのがわかった。
 おかしい。俺はそんな強い人間じゃない。どちらかというと、この敗戦を理由にしてしばらく何もかもやめてしまうような弱い奴だったはず。この残っている火は何だろう


 あれか。99年か。あのときもそうだった。9月4日、磐田に追い付いたけどVゴール負け。11日、鹿島に先制したけどVゴール負け。15日、福岡にVゴール負け。18日、駒場で名古屋にVゴール負け…。
 18日の試合後、ゴール裏のカベにもたれながら座り込んでいるところを読売新聞に写真を撮られ、翌日デカデカと載せられたっけ。ポカンとした僕の顔がよっぽど当時のサポーターを象徴するものに見えたんだろう。百科事典の「呆然」という項の説明写真にぴったりだった。それほど僕は落ち込んでいた。
 でも、あのときは長く落ち込んでいるヒマがなかった。リーグ戦の真っ最中で、ボーッとしていれば降格というジョーズの口は後ろからどんどん迫ってくる。次だ次。何が足りない、まだ何が必要なんだ。サポーターと一緒に考えた記憶がある。そしてその5日後、万博で2ndステージ2勝目を挙げたのだった。


 あのときに比べれば今のレッズはどうだ。たしかにナビスコは負けた。決勝でだ。うれしくはなかったが、準優勝の表彰までされた。
 リーグ戦、残り全勝すれば2ndステージ優勝の可能性はある。
 そして天皇杯。モチベーションさえ落とさなければ、今年はいける。大みそかの明治公園で、また○○○を×××したい。
 99年のような、「守るための次」ではない。今は「タイトルのための次」がある。99年でさえ、すぐに次を考えて動いたのに、今落ち込んでいる暇があるものか。
 無理やりこじつけた訳じゃない。自分がどうしてこんなに強くいられるんだろうと考えて思い当たったのが99年のことだったのだ。あの厳しい戦いは、絶対に今に生きている。もっと言えば、磐田や鹿島のサポーターにはない強さをレッズサポーターは持っているんだ。優勝経験も強みだが、降格と戦う経験なんて頑張って得られるもんじゃない。


 僕がこんな普通のサポーターみたいなことを言ってはいけないのか?(「普通のサポーター」とは、僕のようにレッズを仕事にしているサポーターではなく、「純粋に応援しているサポーター」という意味だから誤解のないように。自分も不純なつもりはないが)
 しかし、多くのサポーターもそう思っているに違いない。
 煮込み料理は、グツグツ煮込んでいるときではなく、火を止めて温度が冷めていくときに味が具にしみ込む。前日に作ったカレーはおいしいというが、一晩トロ火で温めていたんでは駄目だということか。
 ここ10年間で、最高の温度まで上昇した11月4日のレッズサポーター。いったん熱が引いた後は、もっと濃厚な味になっていると僕は確信する。それが残りのリーグ戦と天皇杯で発揮されるのが楽しみだ。
 それにしてもまだ体が痛い。


(2002年11月5日)


<追伸>
 MDP特別号は試合前日に選手たちにも読んでもらいました。3日に僕が持って大原に取材に行くと「今回はマッチデーはもらえないのか」と聞いてきた選手もいました。みなさんの気持ちはMDPを通じても選手に伝わったと思います。
 発行に向けて運動してくれた方々、販売…違った!普及活動についてご協力をいただいた方々、メッセージをいただいた方々、レッドボルテージで40分間並んで買っていただいた方々、みなさんにお礼申し上げます。タイトルを取った場合、載せきれなかったメッセージをここで紹介することも考えましたが、今となっては投稿者も本意ではないでしょう。次の機会(そんなに遅くないことを信じて)にまた是非お願いします。
 なおMDP編集室のアドレスHAG03546@nifty.ne.jpは通常のMDP投稿兼一般通信用に戻します。携帯メールmdpseio@ezweb.ne.jpは清尾への私信、あるいは緊急連絡用ですので、お間違えのないようにお願いします。