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COLUMN●コラム


#218
巨人、マンU、玉子焼き


 昨日(月曜)の朝から、息子の機嫌が悪い。原因はわかっている。それがコラムの更新が一日遅れた理由でもあるのだ。


 もうすぐ中学校を卒業する僕の息子は、マンチェスター・ユナイテッドのファンだ。好きになった理由はおそらく「強いから」+「よく見るから」だろう。家でイングランドのプレミアリーグを見られるようになったのは、マンUが三冠(プレミアリーグ、FAカップ、ヨーロッパチャンピオンズリーグ)を達成した99年からだから、絶頂期と言ってもいいころだった。そして海外のサッカー中継の中で、イングランドプレミアリーグが、試合の見せ方、番組の作り方などで一番面白いから多く見る。その中でも数多く登場するのがマンUだった。
小学校高学年の男の子がファンになる要素は十分だったろう。ちなみに彼は野球ではジャイアンツの大ファンでもあるし、当然玉子焼きも大好きだ。昭和30年代に生まれれば、大鵬にあこがれたに違いない。素直なヤツである。もちろん(上野晃さん調)レッズサポーターだが、もし生まれたところが浦和でなければ、ジュビロファンになっていたかもしれない。


 僕はどうか。まずプロ野球で特に好きなチームはない。ジャイアンツは一時期大嫌いだった。1チームが強すぎるのはつまらないし、親会社が新聞拡張にチケットを使い、片方で新聞やテレビで人気を盛り上げる、というやり方が嫌だった。「空白の1日」事件も、正義感の強かったころだったから、憤りが激しかった。今はそうでもない。原辰徳さんが監督をやっているせいもあるし、去年まで郷土の「唯一の」星、松井秀樹選手が所属していたからでもある。やはりジャイアンツがある程度強くて、そこに他チームが挑戦してしのぎを削る、という図式がいいと思う。毎試合、毎試合が熱戦で、優勝の行方が終盤になっても定かでない、というぐらいが面白い。どこかのチームの熱烈なファンからは怒られそうだが、僕にとってプロ野球というのはそれぐらいの対象なのだ。


 プレミアリーグはどうか。見る気になれば週に3試合ぐらいは見られるし、最低でも週1のハイライトは見ている。チームでは、初めて生で試合を観戦したウエストハムに一番愛着があるか。フルハムも、前のスタジアムのロケーション(テムズ川沿いを歩いていく閑静な住宅地にある)がすごく好きだったから、稲本がいようがいまいが気にかけている。ロンドンへの帰りの列車の中でサポーター集団と仲良くなったリーズも、どちらかと言えば勝ってほしいかな。今年、調子がいいチャールトンも気になる。理由は、これまで2回試合を見に行ったのだけど、いずれも女の子と2人で行ったから、という些細なことだ。
 つまりプレミアリーグはサッカーとしては最高に面白いけど、どこかのチームの大ファンかと言われれば、それはないのだ。よく「国内ではレッズ、海外では○○」と言う人もいるけど、とてもそんな同列視はできない。僕にとってはプレミアリーグは、日本のプロ野球ぐらいの存在なのだ。チームへの思い入れ、という点では。
 したがってマンUは、僕が初めてイングランドに触れたころ、子どもが玉子焼きを食べるように自然に好きになった時期もあるが、今では好きではない。きっと強すぎるのに加えて人気がありすぎるのも、僕が腰を引く原因だろう。まあ今季はそんなに調子がいいとも言えないから、マンUとアーセナルがやるときは、マンUに勝ってくれと願う。そのほうがリーグが面白くなるから。


 相変わらず前置きが長いな。
 そんな僕と息子が日曜の夜、ワージントンカップの決勝、生中継をテレビで見ていた。日本時間の午後11時開始。カードはマンU対リバプール。僕はリバプールに対して直接強い思い入れはない。アンフィールド(スタジアム)の売店までは入ったことがあるけど、試合はアウエーで一度見たことがあるだけだ。地理的な意味でマンUの対抗馬として頑張ってほしい、という意識はずっとあった。それと、赤いユニのチームはイングランドにたくさんあるけれど、「REDS」と呼ばれるのはリバプールだ、という勝手な「連帯感」?もある。
 だから、いつも通り何となく、リバプールが勝つといいな、程度の心構えだった。前半、ジェラードのゴールでリバプールが先制した。その日、飲んで帰って来た僕は眠いけれど、我慢していた。1−0のまま後半になると、ますます眠い。何も無理をしてまで見ていなくてもいいのだが、何せ決勝なのだから、決着がつくまでテレビの前にいたい、と言う方が正しい。朝起きてみたら逆転だった、というのでは悔しいではないか。リバプールが負けることがではなく、逆転の場面が見られないことが。
 そして後半も終盤に近づき、オーウェンがGKと1対1になったのをきれいに決めて、2−0。やった!この時間で2−0なら、もうひっくり返るまい。もう寝れる。「よっしゃー!」と叫んで、僕は寝室に消えていった。


 何もリバプールが勝ったのを大喜びするほどのファンではない。やっと眠れる、という喜びの「よっしゃー!」だった。しかし朝起きたら息子は怒っている。母親に聞くと、つまりはリバプールファンでもないくせに2点目が入って「よっしゃー!」というのは、自分がマンUのファンなのを知っているくせにひどい、ということらしい。直接、本人から聞かされた訳ではないので、詳細は不明だが。
 ヤツがそこまでマンUファンだとは知らなかった。「あれは、眠れる喜びだったんだよ」と弁解して息子の機嫌を取る気はないが、気持ちを傷つけてしまったことは悪いと思っている。そのことを詫びた上で、レッズとマンU、それぞれに対する気持ちの違いを突っ込んで聞き、コラムの材料にしようと思い、夕方まで更新しなかったのだ。


 して、その結果は?
 いや。「夕べは悪かった。晩飯は、焼肉でも食いに行くか?」と言ったのだが、返事がないのだ。


(2003年3月3日)