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COLUMN●コラム


#220
遠足前夜


 遠足の前の日はなかなか寝られない。
 前日に寝られないほどワクワクするものの代名詞は遠足だった。45歳になって遠足はさすがにないが、ワクワクして寝られないことはいまだにしょっちゅうある。そして、この10年はその多くがレッズに絡んでいる。
 記憶に新しいのは去年の11月3日。ナビスコカップ決勝の前日だ。次の日、国立のピッチで展開される試合と、スタンドの応援を想像すると目が冴えて冴えて。そして、自分と同じ思いをしてこの時を過ごしているサポーターが何千人、何万人いるかと思うとうれしくてうれしくて。睡眠不足は健康に良くないが、眠れないほど楽しいことを持っているなんて、なんて素晴らしいことだろう。


 MDPの増刊号の最後のページに、「今年は、過去3年に比べて最も新鮮さを感じないシーズンだ」と書いた。
 「3年計画を」をうたう監督が2年目を迎え、昨年の土台の上に立って次のステップに挑戦することがわかっているのだから、2003年は二学期のようなもの。二学期が新年度ほど新鮮さを感じないのは当然。そういう趣旨だった。


 鹿児島に出発する前夜、3月7日。翌朝は4時半起床、5時出発の予定だったから早く寝なくては思いながら仕事が終わらず12時を回ってしまった。寝られるようになったのは結局2時近く。慢性的に睡眠不足の僕は寝つきが早い。床に入って10分もすれば眠りに入る。
その日もそうだったのだが、3時ごろ目が覚めてしまった。
 よし、あと1時間は寝られるな。そう思ってまた布団をかぶったのだが、なんだか変だ。
 明日の(厳密には「今日」だが)スタメンは誰だろう。やる気満々の長谷部はどんな活躍を見せるだろう。まだ本気を見せてもらっていないエジムンドはどうだろう。千島はまた福西とやりあったら、今度は黙って襟首つかませるなよ‥。
 スタンドの顔も浮かんでくる。鹿児島は遠いけど、シーズン開幕だから大勢来るだろうな。去年早く終わりすぎたからな。磐田のホームでも、こっちのほうが多いだろうな、絶対‥。
 目は冴える、体は熱くなるで、結局起きてしまった。
 床に入るまでは落ち着いていたのだ。それが急に遠足前夜になってしまった。もしかして去年の開幕、横浜M戦の前日よりもワクワクしたかもしれない。なぜだろう。


 ひょっとしてこうか?オフト元年の去年は、どんなサッカーを見せてくれるのか、今ひとつ見当がつかなかった。楽しみではあったが、データが少なくて、想像を膨らませることができなかった。今年は、去年のことが頭に残っている。それにエジムンド+若手が加わって、どんなふうに変わっていくのか、ある程度想像がつく。だから楽しみが膨らむのか。
 前言を少し撤回。いや補足する。
 今年が、新鮮さを感じないシーズンなのは間違いない。しかし多くのシーズンで経験した予想がつかない新鮮さにくらべれば、ある程度の土台を確信できる今年は、得られるものが「空想」ではなく「想像」の域になる。空想はすなわち夢見事だから眠りを誘うが、想像は現実に近いからその内容によっては眠気を覚ます。「トップ5」という言葉に、自分がこれほどワクワクするとは思わなかった。そういえば2学期というのは文化祭や体育祭などが加わる季節だ。楽しいに決まっているじゃないか。


 この分だと、リーグ開幕前夜の3月21日は何時間寝られるのか心配になってくる。
 貸し切り列車で鹿島入りだから修学旅行のようなものだし。


(2003年3月10日)