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COLUMN●コラム


#237
世間の見方


 昨日、確かに達也が入ってから流れが良くなった。それはそうだけど、あの清水戦で2人目のヒーローインタビューをするとしたら(僕はもともと1人、2人の選手を「ヒーロー」とするあのインタビューは好きではないけれど)、達也か?
 1-0の試合で、しかもどちらかと言えば攻められている方が多かったあの試合で、GKをはじめとする守備陣を取り上げなかったら、彼らはいつ「ヒーロー」になるんだ?いっそ「得点者インタビュー」とかいうネーミングにすれば?いや、エメルソンのゴールは確かに素晴らしかったし、何も達也が悪いと言ってるわけではなく。
 テレビ埼玉ではなく、全国放送の局としては日本代表や五輪代表で顔が売れている永井(坪井はまだ出ていないから)、啓太、達也を出したくてたまらなかったのだろうし、その中でも啓太ではなく点を取った永井と達也なんだろう。今季ホームで5試合中4試合が無失点(うち2試合はドローだけど)なんて地味な話は世間ウケしないのだろう。少なくともNHKはそう思っているんだろう。
 見ていた多くのサポーターの中では、あの試合での守備陣の奮闘ぶりは心に刻まれただろうから、別にNHKや「世間」に認めてもらえなくても構わないが、「ヒーロー」インタビューなるものがあって、そこに登場「しない」という「世間」の見方をこっちに押し付けてほしくないなあ。


 「世間」。「一般」とか「普通」と書くと、なんだか僕たちが特別、特殊な人間みたいだから、「世間」と表現するのが一番いいんだろう。世間の人たちから見ればレッズサポーターは理解しにくいと思う(しようとしてしないかもしれないが)。だって自分たちだって自分の行動や心情を合理的に説明しろと言われたら、はっきりとはできないだろう。たまに大学生で「卒論にレッズサポーターをテーマにしたいんですが、協力してもらえませんか」という人がいる。できることは協力するけど、無理じゃないか?と思う。レッズサポーターってリポートにはなるけど、論文にはならないんじゃないか?もし、これを読んでいる人の中で大学の先生がいたら(1人、確実に存在するのは知っている)質問してみたいところだ。


 だからゴール裏のサポーターのリーダーの1人が「引退」する、と聞いても理解できないかもしれない。「引退」とは世間向けに表現しただけで、正確ではない。応援をリードする活動から身を引く、そういうことだ。理由については詳しく聞いていないし、「引退表明文」が出た訳じゃない。でも何となくなくわかる。わかるような気がするだけかもしれないが、それでもいい。僕はわかる。
 レッズの応援をリードすることがどんなに難しいことか。ただコールの発生をするだけではない。それまでのシーズンの流れや選手の好不調、相手のチーム、試合の重要性、いろんなことを考えてまとめていく。しかも毎試合だ。時には思惑がはずれることもある。自分自身勝負をかけた試合で負けることもある。負けるだけでなく選手のふがいなさを目にすることもある。
 そして、スタンドにいるサポーターは、全部が全部自分を支持している訳ではない。「ヤツは好きじゃない。あのグループは嫌いだ。でもレッズが好きだから応援は合わせる」。そういうサポーターも少なくない状況の中でやっていく厳しさが想像できるか?僕が「レッズサポーターのリーダー」とは書かず、「サポーターグループのリーダー」とか「ゴール裏のリーダーの1人」とか回りくどい言い方をする理由はレッズサポーターなら容易にわかるはずだ。
 サラリーマンのような定年制がある訳じゃない。遠くに転勤になる訳じゃない。投票で選ばれた訳じゃない。任期が何年と決まっている訳じゃない。もちろんクラブから委嘱されている訳でもない。そんなゴール裏の応援のリーダーを降りる、ということは「世間」から理解されないだろう。


 清水戦のキックオフ前、いつものように選手の入場を待っているとき、「浦和レッズ」のコールが起きた。「うわっ、やかまし!」
 考えて見たら今季一番の大人数、しかもレッズのホーム。そしてトラックのないサッカー場。本当に大きな声だった。ゴール裏に目をやると、あらためて「埼スタってスタンドが近いなあ」と感じた。かと言って一人一人の顔が肉眼で見えるほどではない。でも「今頃あのへんで、ピッチを睨んでいるんだろうな」と、ゴール裏に彼の姿を探す僕だった。


(2003年5月6日)


<追伸>
  誰が「降りる」のかわかりにくい?でも、別に個人名を出すのが今回の趣旨じゃないのは読んでもらえればわかるでしょ。知るべき人はみんな知っているんだし、知らない人は個人名まで知らなくてもいいこと。そのうちわかると思うから。それでいいと思う。