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COLUMN●コラム


#268
固定読者とおまけ+追伸


 新聞業界にいると(といってもここ数年、新聞本来の仕事をあまりしていないが)、カクザイのことはどうしても意識に上る。
 角材ではない。拡材だ。一発変換されないから、業界独自の用語だ。そういえば何の略だろう。「拡張材料」だろうな。「新聞をとってくれたら○○を差し上げます」という、その○○だ。有名なところでは洗剤やビール券だったり、映画や野球のチケットだったり。
 最近は若干規制が緩和されたが、その法的な是非については長くなるから横に置く。


 新聞の読者はさまざまで、A紙あるいはB紙の長年の読者で絶対に替えないという人もいれば、A紙だろうがB紙だろうが何でもいいという人もいる。A紙、B紙の拡張競争が激しいエリアに住んでいる人は毎月のように新聞販売店の拡張担当者の訪問を受ける。そんなとき
何をくれると言われても今の新聞を替えない人と、拡材と引き換えに3ヵ月ごとにA紙とB紙を交替でとる人がいたらどうだろう。前者は1年間同じ新聞をとって何ももらえないが、後者は1年で4回分のビール券や洗剤がもらえることになる。新聞の価格はA紙もB紙も同じだから1年で払ったお金も同じなのに。
 新聞販売店、あるいは新聞社にとって前者の方がありがたいお客に決まっている。何も努力しなくても、ずっと新聞をとってくれるのだから。しかしより多くのサービス(この言葉は適切でないと思うが、業界ではそう使われている)をするのは後者に対してなのだ。この矛盾は何なのだろうか。


 なんだよ、くどくどと。業界の暴露か?
 いや、もうちょっと待って。

 最近、カップラーメンに「マイフォーク」や砂時計がついていたり、500ccのペットボトル飲料に携帯電話クリーナーとかミニマスコットなどのおまけがついている。あの、食べ物よりおまけの方が大きいやつの話じゃないよ。
 たとえば夏の暑い日など毎日のようにペットボトルを買っていたけど、昨日まで買っていた銘柄に、ある日おまけがついていたら、どうだろう。「何だよ!昨日まで毎日買ってて損した。今日から買えばよかった!」と怒るか?怒らないよね。「ラッキー」と思うだろう。
 だってペットボトルなんて、買っていつまでも机に置いて眺めていたり、頬ずりして慈しむものじゃないから。だいたい、その日のうちに消費しちゃうものだから。


 ペットボトルと新聞?何の話だよ。
 実は、これ。


 2003Jリーグ・ヤマザキナビスコカップ決勝進出にともなう、レプリカユニフォームの販売について
 期間中レプリカユニフォ-ムをお買い上げいただきますと、もれなく「2003 FINAL」ワッペンが付きます。
 このワッペンは、11/3の決勝戦において、選手が右袖につけるものと同じワッペンです。
 発売開始:10/24(金)よりレッドボルテージにて発売。
 価格:半袖・・・\11,800(税別)・長袖・・・\12,800(税別)
 ※ワッペンのみの販売はできません。
 ※カップ戦用のレプリカユニフォームはありません。(販売されておりますレプリカユニフォームの胸ロゴは「COLT」です。)



 去年も同じことがあった。そうだ、浦和レッズは2年連続決勝進出だ!いや、そうじゃなくて。


 決勝進出記念に、選手が決勝戦でつけるワッペンをサポーターにも分けるというのは、すごくいいことだと思う。だけど、どうして新しくレプリカを買う人だけにワッペンをあげるの?売り出すのが「MITSUBISHI MOTORS」のカップ戦用のレプリカならわかる。それが決勝用のユニフォームだから、「COLT」にワッペンを着けるのは違う、と。でもそうじゃないんなら、もう「COLT」のレプリカを持っている人には無料であげてもいいんじゃない?無料が無理なら1,000円なり2,000円なりの実費をもらってもいい。早々と今季のレプリカを買ってくれた人にも、そのワッペンを入手できるようにしてくれないだろうか。「また」10,000円以上出費しなくても。


 今は10月、シーズンも第4コーナーだ。レプリカを買うサポーターはほとんど買ってしまっている。そういう人はクラブにとってありがたいお客さんだ。そのレプリカを着てレッズを応援してきた。その応援の甲斐あって、レッズがナビスコの決勝に進んだ。そういうサポーターのレプリカの袖に「2003 FINAL」のワッペンがなくていいのか?
 レプリカを買う人はデザインが変わったら必ず新しく買うし、胸のロゴが変わっただけで買う人もいる。そんなサポーターは、新聞で言うと「固定読者」だ。レッズも新聞業界と同じく、おまけをつけなくてもレプリカを買ってくれる人には、何のサービスも必要ないと思っているのか?
 「2003 FINAL」のワッペンは、「おまけ」というにはあまりにも重い。言わばサポーター自身の今季の闘いの象徴でもあるのだ。レプリカを持っているサポーターは何としても袖につけて決勝に臨みたいだろう。そのワッペンを、新しくレプリカを買おうかな、という人の購買意欲をあおるために利用するのを「儲け主義だ!」と批判するつもりはない。シーズンも終わりに近づいて、レプリカを売ってしまいたいという営業の立場も十分理解できる。
 でも「これでレプリカ常連サポーターがまた買うだろう。しめしめ」と思っているだけなら、僕の大好きな浦和レッズのやることとは違うんじゃないか?去年は初めての経験で混乱していたのかもしれないが、今年はもっと落ち着いて、サポーターを大事にする浦和レッズらしく対処してくれると思っているのだが。


 せっかく決勝進出で盛り上がっているときにクラブ批判みたいなコラムで終わるのも嫌だから、最後に前向きな提案を。
 レプリカの話題だったから、すでに買っている人だけが「固定読者」のような言い方をしてしまったが、それは違う。レッズに限らず、Jリーグのサポーターがグッズを買うのは、カップラーメンやペットボトル飲料を買うのとは違う。「お、マリノスのマフラーはレッズのより安い」「おまけがついてる」「デザインがいい」から、マリノスのものを買う、なんてサポーターはいない。その存在自体が「固定読者」のようなものだ。普通の消費者心理や市場原理で測ってはいけない。そんなことはクラブも十分知っているはずだ。
 たとえば今回なら、決勝進出というこれまでの道のりを確かめるもの、みんながそれを着けて国立に行く(あるいはテレビの前に座る)というものを何か作って広く売る、のもいいかもしれない。バンダナでもピンバッジでも、何でもいいから300~500円のもので。ファイナリストになって大はしゃぎするのではなく、「あと1勝」という気合が入るものならいいだろう。
 つまりは、サポーターのそのときのニーズに合わせて、売るものを考える。デザイン優先か、機能性優先か、あるいは気合最優先か。そして、あるときには「固定読者」たるサポーターへの感謝を込めて、儲け度外視で(採算度外視、とは言わない。赤字が出ない程度の廉価で)何か作る。たとえ、そのときは儲けが出なくても、必ず将来プラスになってクラブに跳ね返ってくるはずだ。
 今回は間に合わなくても、次回はぜひ。次回って来年じゃないよ。11月4日以降かもしれないんだから、準備しといてね。


 それにしても、このままだと今年もナビスコカップファイナリストのメモリアルグッズは、「2003 FINAL」ワッペンと、MDP特別号(SPECIAL ISSUE)しかないのか‥。
 あ、決勝でMDP出るから。


(2003年10月14日)


<追伸1>
 レプリカの話だけど、ただでさえ今年は9月に長袖が発売された。僕の知り合いで、開幕前に赤の半袖「COLT」を買っていて、10月の5日に長袖を背番号入りで予約した人がいた。背番号入りだから手元に来るのは今月末になる。それでも決勝には間に合う。10月24日の「ワッペン付き」レプリカ発売より後になるのに、すでに「買った」人扱いだから、当然ワッペンはつかないらしい。今のところ。


<追伸2>
 このコラムがアップされた後に、クラブから情報があった。ワッペンをリプリカにつけて販売する場合に限って頒布を認める、というJリーグとの間での話があったとのこと。ワッペン自体はレッズがJリーグから有料で買っているそうで、そういう意味では、今後レプリカを買う人のために、サービスしてくれている、と言える。すでにレプリカを持っている人にとっては残念な情報でしかないし、話の本質に変わりはないけれど、レッズとしてはこれ以上どうしようもないらしい、と補足しておく。