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COLUMN●コラム


#279
ホームじゃないんだよな…


 BSiが映らないので、仙台−京都を見ていた。「崖っぷち」という言葉は何となく好きじゃないが、他にふさわしい表現が見つからないほどの必死さをテレビからも感じた。もちろん勝った仙台だけでなく、京都からも。勝敗にはホームの利が大きかったと思う。特に仙台スタジアム(しばらく行っていないなあ)はピッチとスタンドとの間が狭く、屋根があることで、まるで室内でやっているような感覚になる。キャパ19,694人に19,332人という超満員のスタジアムの中で、圧倒的なホーム状態が、両チームの選手の士気を大きく左右してもおかしくないだろう。


 いまさらこんなことを僕が言うのもおかしいが、スタンドを埋めるサポーターの数そして応援が選手に与える影響は少なくない。よく他チームの選手がレッズとやるときに、「敵のサポーターであっても、満員のスタジアムでやるのはモチベーションが上がる」とか「相手のサポーターが多くても別に気にならない」と言うのを聞くたびに、僕は「まあ、そう言うしかないだろうな」と冷ややかに見ている。
 そういう言葉はたいてい、自分のホームなのにホームとアウエーが逆転したかのような試合とか、この間のナビスコ決勝のように中立試合だけど圧倒的なレッズホーム状態が予想される試合のときに発せられる。これらの発言の裏を返せば「ふだんはあまり満員のスタジアムでやったことがないから…」「できれば味方のサポーターが多い方がいいけど…」ということだが、味方のサポーターの感情を思えば、そうは言えない。深読みすれば「だいじょうぶ、だいじょうぶ。レッズのサポーターが多くても俺は気にしないから。みんなが来られるだけ来てくれればそれで十分だから」と味方のサポーターに向けて言っているようにも感じる。
 もちろん敵のサポーターが多い中で得点を決めたり、勝ったりすればそれはそれで快感だろうから「その方が気持ちがいい」というのはウソではないだろうが、それはゴールを決め「たら」、勝て「れば」であって、どっちの方がそういう状況になりやすいかと言えば、やはりホーム状態の方がいいに決まっている。
 ただ多くの選手は、ホームとかアウエーの区別をサポーターの数だけで考えているようだ。試合前は。


 ナビスコ決勝でレッズのサポーターが圧倒的に多かったことについて疑問を唱える投書が朝日新聞に載り、話題になった。話題どころか、当の朝日新聞社は抗議のメール、電話などでかなり大変だったと聞いた。
 あの投書の内容、それを載せたことの是非は置いて、一つ思ったことがある。みなさんは、あの投書の人物が当日国立にいたと思いますか、テレビ観戦だったと思いますか(って、投書を読んでいない人はわからないか)。
 あの投書の主が一般のサッカーファンなのか鹿島ファンなのかはどうでもいい。しかし、もし国立にいたとすれば、あの7−3(8−2?)の席割りと同時に、選手入場のときのビジュアルパフォーマンスについて言及しないはずがない。「なぜレッズのサポーターにだけああいうことが許されるのですか!」と。


 まさか、これを読んでいるレッズサポーターで知らない人はいないだろうけど、一応繰り返しておくと、ナビスコ決勝で選手が入場するとき、鹿島側ゴール裏を除いたすべてのスタンドが赤・白・黒のレッズカラーのストライプで染まった。座席の縦通路に沿ってきっちり色分けされていた。それは座席に置かれた大判のビニールシートを観客が1枚1枚上げて成立したパフォーマンスだった。
 当日のテレビ中継では、その間ずっと日本代表監督様のありがたいお言葉をいただいていたので映っていない。わずかに放送ブースの窓越しに、偉大なる日本代表監督様の肩越しに赤と黒の模様が見えたが、それしか見ていない人には何かわからなかっただろう。テレビ局としては懸命だった。中立たるべき放送で、選手入場時のスタンドを「公平に」まんべんなく映したら、とんでもない不公平を生んでしまっただろうから。大げさでなく日本国内で一生に何度見られるかわからない光景を流せなかったサッカー担当者のディレクターはさぞ残念だったろう。
 だから、あの投書婦人は当日、国立にはいなかったと僕は推測するのだ。ちなみに鹿島側のビジュアルパフォーマンスは、今季のリーグ開幕戦でカシマスタジアムで見たものとあまり変わらなかったような気がする。優勝常連チームとしては、カップ戦の決勝ぐらいで大騒ぎしない、ということだったのか。当日の予想される席割ではできることが少ないと思って準備しなかったのか。それとも「ピアノ線」がないとできないことが多いのか(ああ、また文句がきそう…。さいしんさん、ごめんなさい)。


 それまで何度もレッズサポーターの応援には感動させられてきた。しかし、その中のどれよりも激しく心を揺さぶられた。その光景の素晴らしさだけではない。一つのことに思い当たったからだ。
「ここ、ホームじゃないんだよな…」


 駒場、あるいは埼スタのホームゲームで、観客1人1人にお願いするビジュアルパフォーマンスをやるとき、彼ら「ロッソ・ビアンコ・ネロ」のサポーターはクラブの許可を得て開門前に座席に配らせてもらう。ビニールシートであったり紙であったり、小旗であったり風船であったり。そして開門時間の遅くても1時間前には終えて、それぞれのグループに戻りあらためて入場する。
 埼スタのデーゲームだったりすると大変である。3時の試合だと開門が11時半(会場は12時)。10時半には外に出ないといけないから、朝の7時ごろから準備を始める。「心臓破り」のアッパー最上段まで上り下りしている。しかも、中心メンバーはいるが、手伝うサポーターはその都度違うし、やることも毎回違うから、始める前のミーティングにも時間がかかる。特に、開門前に入場するという特別許可をもらっているのだから、してはいけないこと(こっそり座席に荷物を置いておいて場所を確保するとか、準備が終わっても退場しないでトイレに隠れているとか)を初めてのサポーターに徹底しないといけない。


 それを、あの日の国立でやったのだ。事前に許されたことと言えば、数万枚のビニールシートを代々木門の入場ゲート内に運び込ませてもらったことだけ。でないと入場に時間がかかり、千駄ヶ谷門の開門が遅くなるからだろう。あとはレッズサポーター内での話し合いで、数人が入場の先頭に入った。ただし席取りはしない。ビニールシートをエントランスに枚数分配るだけのためだ。代々木門から入場したサポーターなら、コンコースを回るときに「走るな!」「ゆっくり行こう、ゆっくり」と声をかけられた覚えがあるだろう。あれが「ロッソ・ビアンコ・ネロ」の先発隊(≠席取り部隊)だ。
 その後の経過はよくわからない。先発隊入場が10時、後発隊入場終了がだいたい11時半。本格的なシート配りは11時ごろから行なわれたのだろうか。とりあえず自分たちの席を確保してからだから、いつもみたいに何時に集まり、ミーティングしていっせいにスタート、という訳にはいかなかっただろう。
 あの混雑を極めたスタンドで、いつもよりはるかに短い時間での準備。そして出来上がった完璧な絵…。
 光景を見たときにこみ上げてくるものをグッと我慢した僕も、「そうか、ホームじゃないんだ」と思い出したとき、思わず眼鏡が曇ってしまった。そのときだけは、雨にちょっぴり感謝した。


 2003年11月3日の国立のスタンドで繰り広げられたパフォーマンスは、日本のサッカーの応援史上でも特筆されるものだったと思う。だけど忘れられてしまいそうだから、強く言っておく。
 あれはレッズのホームゲームじゃなかったんですよ!


 確かにレッズのサポーターは人数が多い。数が多いからできることもある。
 しかし人数が多いだけではできないこともあるんだ。


(2003年11月17日)


<追伸>
 「3試合すべて決勝」というのは、たとえ1試合目の決勝に負けても2試合目、3試合目の決勝に臨む気持ちは変わらない、ということでもある。「勝てば優勝」、というスタンスから「勝たねば優勝できない」という状況になっただけ。勝つことに変わりはない。さあ「2 FINALS」。


<追伸2>
 早いなあ、山中さん。もう本出したんですか。優勝が11月3日。僕の手元に送っていただいたのが14日。すごい早さですね。いや、優勝から発行までの早さだけじゃなくて、ナビスコ優勝だけで出しちゃっていいものか、と…。ご本人も序章で書いてらっしゃるじゃないですか。「かえって、この試合で欲が出てしまった。まだまだ取るべきタイトルはたくさん残っている」と。それとも今年あと2冊、期待してていいんですか?

 「REDS VICTORY 浦和レッズ 祝 優勝!!」山中伊知郎/1,400円+税/長崎出版

 山中さんらしい、安心して読める本でした。ありがとうございます。ところで日刊スポーツの号外の写真キャプションに「唯一の号外」とありますが、たしか埼玉新聞も出していたようなので(朝日も)、一部お送りしておきます。