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COLUMN●コラム


#282の3
俺たちは何をやってきたか(その3−終わり)


<11月3日(月)>

・4時30分
 北浦和駅。飛行機での遠征のときなど6時すぎに羽田、なんてことがあるから、始発電車には何度か乗ったことがある。人がいない訳ではないが、いつもならパラパラだ。今日は何よ、これ。ホームの端から端まで歩いて、レッズサポーターの多さに笑ってしまう。まあ自分もその中の1人なのだが。北浦和の京浜東北線南行始発は4時37分。
 ふだんの始発電車にも、思ったより人は乗っている(乗る人がいるからこの時間から動いているのだけど)。しかし、ゆっくり座って行けるのだが、この日は無理だった。北浦和でこれかよ、などと思っているうちに浦和に近付く。ドアの窓越しにホームを見るて、うわっ!
いるいる。電車がホームに入っていくと、「うおー!」というどよめきが起こる。さあ行くぞ、という気合か、それとも窓越しに赤い乗客を何人も見た喜びか。何にしても尋常ではない。この込み方は、たまに僕が乗る平日の朝8時30分ごろの電車より密度が濃いな。
 南浦和で、知っているサポーターが数人、乗ってくる。国立にいる「身内用に」MDPを100部買ってくれた人と偶然会う。明治公園で渡す約束になっていたが、ここで取引してしまう。MDP100部は決して軽くないので助かった。でも赤羽に着く前に電車の中で売れてしまうそうだ。もちろん電車内での販売活動は禁止されているが「身内」ならよかったかも。
 
11月3日「午前」4時35分、北浦和駅ホーム   浦和を過ぎると車内はこういう状態
 
 
・5時25分
 千駄ヶ谷駅。暗すぎて何人いるかわからない。この時間にこれだけの人が駅前に集まったことはあるんだろうか。もっとも、そんなに長くは続かないはず。午前6時の集合時間に間に合う電車はあと2本ぐらいしかないだから。一昨日、埼スタで抽選に集まったサポーターの数倍が明治公園の待機場所に押し寄せてくる。それを抽選番号順にどう整理するか。もしかしたら前代未聞かもしれない。この間、NHKの「プロジェクト]」で「史上最大の警備作戦」という大阪万博のときの観客整理をテーマにしていたが、この日の国立も十分ドキュメンタリーになっていいんじゃないか?などと考えながら明治公園に着く。まだ暗い。サポーターのリーダーたちと握手を交わす。もちろん今日の勝利を誓ってだが、僕の胸の中には、この数千人を仕切るところから始まる彼らの「闘い」の成功(「勝利」はヘンだもんな)を祈る気持ちもあった。
 
千駄ヶ谷駅「午前」5時26分
 
 
・6時
 明け始めると早い。闇のベールが徐々にはがされていくと、公園内の全貌が見えてきて、その人数に驚く。数えるつもりはないが、最近のメーデーより多いんじゃないか?少なくとも「動員」で来た人たちよりも熱いはずだ。朝の寒い空気がどんどん暖められていく。
 集合時間は6時。抽選番号50単位で並ぶように柵とヒモで仕切られており、名簿を持った係がグループ名を呼ぶ。それぞれに大変だったとは思うが、見ていてトラブルは感じなかった。
 7時を過ぎると、事前抽選組以外のサポーターが並び始める。これはプロが仕切る仕事。どうやら事前抽選をして実際に明治公園に並んだのは1800組ほどだったらしい。3000組が抽選し、2500組が登録し、1800組が並んだ、ということ。これがどういう数字なのかはわからない。何せ前例がないんだから。
 ただ言えることは、この人数の何倍かが国立の周りで寝ていたかもしれない、ということ。そして10月の中旬に僕が国立を回ったときは張り紙の最後は400番台の後半で、メインスタンド側の門の辺りだった。張り紙500枚でその程度だから、実際に各組2〜3人ずつが1600組並んだとしたら国立の周りはどうなっていただろうか。しかも、当日の朝からその後ろに続々と並ぶのだ。去年は列の最後尾に付くには、代々木駅で降りた方が近い、という現象まで起きたが。
 
明治公園、5時55分。明るくなると人の多さがよけいに目に付く   点呼を取る係のサポーター
 
 
・9時
 列の移動が始まった。代々木門の入場ゲート前まで先頭を引き入れる。これもほとんどサポーターが仕切っている。正直言って、プロの係員がやるより、手際や経験では劣るが、サポーターが素直に従ってくれるという点では上である。当たり前といえば当たり前だが。
 これまで入場の先頭は、だいたいよく見る「怖い」人たちだったが、この日は全然違った。もちろん、熱いサポーターには変わりがないが、知った顔はほとんどいなかった。
 開門時のようすを中から見るため、報道受付をして中に入る。ごめんね、並ばなくて。


・10時
 開門。1グループ2人ずつ「先発隊」として入る。いつも雄たけびがない。自然と足早になり、だんだん走るようになってしまうが、コンコースに入ったところで「走らないで!」「ゆっくり行こう、ゆっくり」と声がかかる。ビニールシートの準備のために入った「ロッソ・ビアンコ・ネロ」のメンバーだ。係員が注意しても止まらないが、サポーターから言われると足をゆるめる。
 さて、1600組が後発隊(先発隊以外のメンバー)も含めて11時までに入れるのかどうか。千駄ヶ谷門は11時開門の予定だが、それは混乱を避けるために、青山門(鹿島側)と代々木門から、両チームのコアサポーターがすべて入場してから、ということ。レッズ側の代々木門では、事前抽選組がすべて入場したら、ということになっている。イベント会社の読みでは「1時間で大丈夫」ということになっている。それが現実にうまくいくかどうか。
 入ってきた人に聞いてみる。「抽選番号、何番ですか?」「2×××番ですけど」。もう先発隊も終わりに近いということか。
 10時35分。どうやら後発隊の入場が始まったらしい。この分でいくと11時を少し回ったぐらいで何とかなるだろうか。
 
9時。先発隊の引き込みが始まった
 
代々木門のゲート付近。10時の開門を待つ    
 
 
・10時50分
 恐ろしいことに気が付いた!
 さっきまでと入場のスピードが全然違うのだ。先発隊は、50番ずつの区切りといっても間はほとんど空けず、それぞれが小走りに入っていく。それが後発隊になると、高校野球の入場行進のように、仕切りごとの間を長く空けている。しかも入場ゲートがある代々木門の2階に来てものんびり歩いている。グループのメンバーの席を確保し、ダンマクを張るという使命を帯びた先発隊と違って気分的に余裕があるのだ。URAWA BOYSは、この後発隊が全部入り終わった後に入るという。このペースで行くと何時になるんだ?それまで千駄ヶ谷門のお客を待たせるのか?
「あのさ、仕切りと仕切りの間を空けずにどんどん入れてよ。この分だとBOYSが入るの12時になっちゃうぞ」
 何をやってんだ、俺は?と思いながら、明治公園にいるURAWA BOYSのリーダーに電話する。そうしているところだと言う。なるほど明治公園から代々木門に入るまでの列に切れ目はなくなった。しかし一人一人のスピードはあまり変わらない。仲間と談笑しながらゆっくり入ってくる。
(チンタラ歩いてないで、さっさと入れよ!)と叫びたくなるのをこらえる。お前は何を考えてんだ?今になって、走れ、とでも言うのか。みんな決勝の舞台に入っていくのを楽しんでるんだぞ。


・11時10分
 レッズの運営担当者に聞いてみる。まさかJリーグに僕が聞くわけにはいかない。
「千駄ヶ谷門は待たせてるの?」
「うん、だいぶ苦情も出ているみたいだけどね。でもそれが初めの約束だから」
 状況によって開門時間が変わることがあります、とはアナウンスされているが、それでも門を前にして入れないサポーターはイライラするだろう。でも千駄ヶ谷門を開けるということはコンコースの仕切りを取っ払うということでもあるし、今それをやったらもっと混乱する。申し訳ないが待ってもらうしかない。1時間で事前抽選組が入れる、という警備担当者の読みは間違ってはいなかった。しかし、このスピードダウンは予想外だったろう。


・11時15分
 明治公園が何やら騒がしい。見ると代々木門の階段は途切れている。後発隊もすべて入ったらしい。ようやくURAWA BOYSが動く。100人?もっとか。意気揚々と階段を昇ってくる。コンコースから見ていたサポーターが歓声を上げる。
「待たせたな!今からそっちへ行くからよ!」
 BOYSの誰かが叫んだ。何を偉そうに、とは思わない。それだけのことを彼らはやった。それにしてもURAWA BOYSがこんなに歓迎されて入場するなんて初めてじゃないか?第二次世界大戦の終わり、フランスのドゴール将軍がパリに凱旋したときのよう、というと大げさすぎるか(お前、知らないくせに)。そもそも、「凱旋」はまだ早い。
 
11時15分。後発隊の最後にURAWA BOYSが入る。
 
 
(終わり)

(2003年11月27日)

<追伸>
  別にURAWA BOYSを褒め称えるために、MDPの編集で忙しい最中にこのコラムをアップした訳ではない。レッズの応援がURAWA BOYSだけで行なわれているのではないように、この入場を成功させたのはURAWA BOYSだけでも、仕切りを手伝ったサポーターだけでもなく、この日入場したすべてのサポーターの力だと思う。ただ提案し、説得し、実行の中心になったBOYSのメンバーは胸を少し大きめに張る権利はある。
 URAWA BOYSは決して品行方正な集団ではない。僕も「それはないだろ」と思うこともあるし、実際に本人たちに言うこともある。でも、そのことと応援は別のものだと思っている。個人、あるいはグループがトラブルを起こしたとしても、それによって応援の素晴らしさが損なわれることはない、と思っているのだ。ずるい考えかもしれないが。
 今回のナビスコ決勝にあたって、彼らが提案し、実行した入場案は日本のサッカーサポーター史上画期的なことだ。当初は賛否両論あっただろうし、今でも意見は分かれるところかもしれないが、この大人数で、しかも統一組織のないレッズサポーターを整然と入場させる方法が他にあったら教えてほしい。
 このドキュメントは僕の視点でしか書かれていないから、知らないところでドラマやトラブルがあったかもしれない。「きれいごとすぎるよ」と言う人もあるだろう。しかしコトの本質ははずしていないという自信はある。
 タイトルにある「俺たち」に、自分自身を入れていいのかわからない。そういうサポーターも多いだろう。しかし今回の入場に限らず、レッズサポーターの応援に関することは、リーダーだけでなくサポーター全体でやってきたこと、と言っていいと思う。だから「俺たちがやってきたこと」として最終戦の前に確認したかったのだ。
 そして「俺たち」の端っこに自分も入れてもらおうと…。