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COLUMN●コラム


#286
投稿と事実


 昨日9日、「サッカーマガジンに間抜けな投稿が載ったらしい」
というメールをサポーターからもらった。うーん、最終節が終わったら朝イチで買いに行かなくなってしまって出遅れたか。
 夕方、買って読んでみた。問題の投稿は、11月29日の埼スタへ行ったという、都内在住の鹿島サポーターからのもの。「最終節の試合結果を教えてほしかった」というタイトルが付けられた、その投稿を抜粋すると…。
(1)「他会場の得点経過などはハーフタイムを含め一切、知らされません」
(2)「途中で、周りの人から1-0で磐田が勝っていると聞いた以外、試合が終了し、帰りの電車の中まで状況はわかりませんでした」
(3)「せめて横浜の試合経過・得点状況ぐらいスクリーンかアナウンスで知らせるべきなのではないでしょうか」
(4)「試合後も一切そのことには触れず、伝えず、浦和のあいさつが始まっていました」
(5)「自分のことしか考えないプロ野球の某チームのようです」
 最後に
(6)「埼玉スタジアム・浦和の関係者、もう少し目を開いてください」


 文頭の番号は僕。これに続いて編集部のコメントとして
「ホームグラウンドではホームチームびいきになるのは当然といえば当然かもしれないが、史上まれに見る混戦で最後の最後まで読めない展開だっただけに、試合結果の告知に関しては、鹿島サポーターがそう感じるのは致し方ないかも」
 というのが載っていた(要旨)。


 まずいです、これ。だって事実誤認が勝手な言い分の前提になってるもの。
 投稿というのは、投稿者の思い込み、悪く言えば勝手な言い分であることが少なくない。だから、「なんだ、こいつ。何言ってんの?」というものがあっても仕方がない。浦和レッズの試合運営について、「選手紹介のアナウンスがレッズのときだけカッコ良すぎ」とか「アップ中にレッズの選手の抱負だけ披露するのは不公平」とか「選手入場のとき、レッズ側だけ子どもが手をつないで来るのはおかしい」という投書がサッカー雑誌に載っても、それはその人の「カッコ良すぎ」「不公平」「おかしい」という見方がヘンなのであって、事実は事実だから仕方がない。
 だけど、それが事実でないことを基に書かれていたら、さすがに載せてはまずい。
(1)ハーフタイムに「他会場の経過」として「横浜国際のマリノス-ジュビロは0対1でジュビロがリード」というアナウンスと、オーロラビジョンによる投影は間違いなくあった。
(2)横浜国際が1-0になったのを「途中で周りの人から聞いた」のなら、終わってからも聞けば良かったのに。「帰りの電車の中まで状況はわか」らなかったのは、自分が聞かなかったからでしょ。
(3)これって試合中に、ということ?浦和-鹿島の選手が必死で戦っているときに?冗談でしょ。僕は「スクリーンやアナウンスで知らせるべき」ではないと思うね。
(4)最終節がホームスタジアムで終わって、すぐに場内一周に入ったのは事実。ただ、約30分後、チームが引き上げてから「他会場の結果」がハーフタイムと同様、画面と声で紹介された。この人はレッズが場内を回り終わる前にスタジアムを後にしただろうから、それが見聞きできなかったのだろう。しかし「一切そのことには触れず、伝えず」というのは間違い。
(5)「他会場の結果紹介」よりも先に場内一周をしたことを言うなら、的外れもいいとこ。チームがサポーターにあいさつしている最中にそんなアナウンスはできないし、場内一周スタートを待たせるのも愚の骨頂。投稿者こそ「自分のことしか考えない」典型だね。ちなみのレッズの「他会場の経過・結果」は(J1は)1試合ずつ前後半のスコアに得点者に得点時間も入れて紹介する、日本一詳しいもの。
(6)大きなお世話。あなたこそ、あとほんの少し目を開き、耳を澄ませていればハーフタイムの「他会場の経過」がわかったのに。


 はあ。間抜けな投稿にムキになってしまった。でも活字になって全国媒体に載ってしまったら反論しない訳にはいかない。だって、あの日埼スタにいた51,194人の観客(この人を除く入場者ってこと)は事実を知っているけど、他の人は(1)の部分を本当だと思っちゃうかもしれないから。
 思い込みの激しい人はどこにでもいるから、この人がこういう投稿をしたこと自体は仕方がない。昨日、マガジンを読み自分の主張が載っていることで、1人悦に入っているだろう。特に編集部が肯定的なコメントをつけてくれたことに大満足しているだろう。


 どうして載っけちゃったの?こんなの。
 あの日、埼スタにいた記者に「こんな投稿来たけど、間違いない?」と聞くだけでよかったのに。その記者の記憶になかったら(ハーフタイムは記者室にいてわからなかったかもしれないから)、レッズの広報か運営に聞けばよかったのに。日曜、月曜がクラブ休みだったのなら、僕に電話くれてもよかったのに。
 マガジンも、その仕事内容や量に比して大所帯とは言えないが、10数人のスタッフですべてをやっているから、全員がJ1クラブのことすべてを知っているはずがない。投稿掲載のシステムがどうなっているかは知らないが、担当者の知らない事実が基になっている投稿を載せるときは、知っていそうなスタッフに確認すべきだった。特に事実が「あった」と言い切るのは簡単だが、「なかった」と断じるのは難しいんだから。
 同じ号に別の2つの投稿が載っている。2つともサポーターのマナーについて述べられたもので、1つはガンバサポーターの一部が降格したサンガサポーターに対して「J2!J2!」というコールが起こった、ということ。もう1つは、FC東京のサポーターの一部が最終節でグラウンドになだれ込んだということ。これらの事実が基になって書かれている。もし、この事実がウソだったとしたら、この投稿自体、成立しなくなってしまう。この2つについては関係者に確認したのだろうか?


 5時過ぎ。サッカーマガジンの編集部に電話してみた。話し中。10分後、また話し中。この電話が話し中だったことは滅多にない。これはもしかして…。3回目でスタッフが出た。やっぱりレッズサポーターからの抗議の電話とメールが殺到しているらしい。スタッフは電話口で平身低頭していた。レッズのクラブにも早々にお詫びの電話をし、次号でお詫びも出すらしい。抗議の電話に対しては以下のように説明しているそうだ。


「事実関係を確認せずに掲載した私どものミスです。クラブへ確認し、お詫びをした上で、次号の同欄でお詫びと訂正を掲載させていただきます。今後、このようなことのないように、細心の注意を払い、誌面作りを行なっていく所存にございます。クラブ、スタジアム関係者、およびサポーター、ファンの皆さまにご迷惑をおかけいたしましたことをお詫びいたします」


 なぜ、こんな「お詫び文」をここに載せたかというと、直接編集部にアプローチしたサポーター以外は、来週の火曜日まで「お詫び」に出会えないからだ。こういうことは早めに伝えた方がいいだろう。
 その上で、お願いがある。このコラムを読んでくれた人は、サッカーマガジンの編集部が今回のことについて、こういう姿勢で対処している、ということがわかっただろうから、とりあえず抗議や質問の電話、メールはやめたらどうだろう。マガジンは、これまでもこれからも日本のサッカー文化を支える雑誌の1つなんだし、広い範囲においてレッズサポーターと同じ仲間だ。いい誌面を作っていってもらわなければならないから、その妨げになるようなことはなるべく避けたい。レッズサポーターが一斉に抗議の電話やメールを送ったらハンパじゃないのは誰しも想像がつくはず。「可哀想だから」というのではなく、「仕事に支障をきたすから」だ。


 こういうとき、編集スタッフは激しく落ち込む。それは、自分がミスをしたことについてだ。そのことが明らかになった時点で、強く後悔し、深く反省する。抗議電話が殺到するから反省するのではなく、プロとしての自分のミスを自ら責めるのだ。抗議の数はもはや問題ではない。
 編集部が非を認めている以上、これ以上の抗議電話や抗議メールはペナルティにしかならない。気分をスッとさせるには1つの手段かもしれないが、上に述べたように広いサッカー文化という点ではマイナスになる。このコラムを「お詫び速報」として、次号の「正式お詫び」を待とうじゃないか。


(2003年12月10日)


<追伸>
 今さら何を、という感じだがMDPの取材・撮影・編集作業はほとんど僕1人でやっている。別に1人でやりたい訳ではないのだが、会社が「お前1人でやれ」というのだから仕方がない。
 1人でやっていることの良いところをあえて挙げると、「内容の全部に目が届く」ということか。
 MDPに僕の目を通さずに印刷されるページはない。だから載っていることについては、すべて僕に直接の責任がある。僕が「これを載せよう」と思って載せているのだ。だから選手の意見でもサポーターの投稿でも、僕が「事実と違う」と思うことが載ることはない。もし何らかの理由で載せるとしたら、フォローする。ただ下手をすると誌上でその人を批判することになりかねないので慎重になる。
 今回のマガジンの投稿も「カッパ」という匿名だった。MDPの投稿が匿名、ペンネーム無条件OKだったら飛躍的に数が増えると思うが、絶対にそれはしない。その気持ち、わかってもらえるだろうか。