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COLUMN●コラム


#289
是々非々


 「サッカーを知らない人がいろいろ言って来るのでやりづらさはあったが、良い2年間だった」(byオフト/12.16)


 おいおい、そりゃ俺のことかよ!と一瞬思ったが、たぶん違う。僕はいろいろ口は出していない。
 この2年間で、特別号を含め42冊のMDPが発行されたから、それと同じだけの巻頭メッセージを掲載した訳で、そのたびに20〜30分の監督インタビューをしたことになる。それ以外にロングインタビューもしたから、思えばずいぶんお世話になった。
 サッカー評論家ではない僕に、いろいろと詳しく説明してくれた。ときには「これは書かないでくれ」という話が大半で、終わりかけてから「さて、MDPには何を書けばいいんだ」と気づき、あわてて「すみません、あと10分。書ける話で」と引き止めたこともある。通訳の手島さんにも本当に迷惑をかけた。


 本人が監督をやめたからって、「書くな」と言われたことは書いてはいけないだろうから、具体的には言えないが、オフトが「ドント ライト」と釘を刺すのは、選手の評価に関することがまず一つ。そして、もう一つが「これは相手の選手や監督も読むんだろ」と言うことだった。
 相手も読むから戦術や、こちらのウイークポイントについては言えない。確かにそうかもしれないが、試合直前にそんなこと知ったってどうしようもないんじゃないか?何もCKのサインを、手を上げたらファー狙い、手を腰に当てたらニア狙い、とバラす訳じゃなし。気にしすぎなんじゃないの?オフトのことを「チキンハート」と批判する人がいるが、僕も同意したくなる瞬間だった。
 でも思い直した。少しでもチームの不利になるかもしれないことは極力排除する。そういうことなんだろうと。
 負けているのに選手交代が遅い、リスクを冒した攻撃をしない。現象的には確かにそうだ。それを評して「面白くない」「サプライズがない」と言われた。僕も「痛快無比、胸躍るサッカー」を90分間見た、とは思わない。ただ、評論家には敗北の責任はない。勝負の責任はすべて監督にかかってくる。負けることを恐れて、リスクを冒さないことを「チキンハート」と言うのはたやすいが、勇猛果敢に攻めて負けたときには誰が責任を取るのか。
 そういうことを考えると、「相手が読んでこちらが不利になるかもしれないから書くな」と言われることも納得してしまった。


 サッカーとはこうあるべき。そういう自分のサッカー理論をしっかり持った人にとっては、オフトのサッカーはつまらないし、許せなかったかもしれない。僕は幸か不幸か、そこまでのサッカー理論を持っていないから、かえってあるがままを受け入れられたのだろう。もっとも「こいつは、こんなこともわからないのか」とあきらめ顔に、紙にフォーメーションを書いて説明してくれたこともあったから、僕がMDPを担当していたことが、オフトにとって良かったのか悪かったのか。


 #278で、風間八宏さんがサッカーマガジンに「フロントが退陣するときに、応援している人たちから『頼むから辞めないでくれ』と言われるクラブが、日本にはどれだけあるか」と書いていることを取り上げたが、監督だって似たところはある。成績が良いまま辞めるというのは稀で、やはり成績が振るわず解任、というパターンが多い。
 オフトの場合は、どっちだろう。正直言って、よくわからない。その混沌としたところが正解なんだろうと思う。オフトが全面的に正しい、あるいは全面的に悪い。そのどっちかに決めないといけない訳じゃないんだから。
 是々非々。物事にはすべて両面あるのだから、それぞれをきちんと見ていけばいい。さらに大事なことは、我々には常に次がある、ということ。天皇杯が早々と終わったレッズにしてみれば、2004シーズンはもう始まっているとも言える。新しい指導体制も決まった(細部を除いて)。新体制の決め方、あるいは旧体制の終わらせ方については是々非々があるにしても、新体制そのもの、つまりギドとエンゲルスに対しては、今の段階では期待しかない(不安も期待の裏返し、ということで)。2003シーズンの是々非々を2004年も引きずるのはやめよう。


 さて、ではオフトの是々非々。これがまた立場によって違う。選手といっても、使われなかった選手と使われ続けた選手によって違うし、フロントと言っても社長とGMでも違うかもしれない。
 少々乱暴に言えば、フロントとオフトの間に何があろうと、サポーターには関係のないことだ。多くのサポーターにとっては、ヨハン・マリウス・オフトというレッズの第10代監督は、初めてのタイトルをもたらしてくれた人。これが最大の「是」なのだ。選手を鍛えてくれた、とか土台を作ってくれた、という「是」もあると思うが、それは見る人によっては「面白くないサッカー」とか「選手を規制に縛り付けただけ」と否定的かもしれない。だがナビスコカップ優勝は、誰も否定できない事実だから。


 じゃあ、サポーターから見た「非」は?
 ある。最後に機会があれば僕は本人にこう言いたかった。


 ナビスコ決勝の前に、あんたはこう言ったじゃないか。「たとえ優勝したとしても、すぐにリーグ戦があるから浮かれていてはいけない。まあ、その日1日ぐらいははしゃいでもいいだろう。しかし1日だけだ」と。1日どころか、俺は夕方の5時ごろまでしか喜べなかったぞ!あんたの辞任発言のおかげで。たとえ、どんな理由があっても、あの日だけは浴びるほど飲ませてくれても良かったじゃないか!


 まあ、「是」がなければあり得なかった「非」なんだけど。 


(2003年12月22日)
 
12月16日、最後の練習の後で
 
 
<追伸>
 あら、フロントの是々非々は?
 オフトはもういなくなるけど、フロントは現存するので、それはおいおい。取材でなくて聞いた話を書くのはフェアじゃないし。ただ、気になったことを一つだけ。犬飼社長は雑誌のインタビューで「レッズのフロントはサポーターからまったく信頼されていない」と発言されていたけど、僕はそうは思わない。
 11年の間には「フロント、よく頑張った」とサポーターが思ったこともある。「この部分は下手くそだけど、こういう面はJリーグの中でもよくやっている」という部分もある。やはりこれも是々非々だ。全幅の信頼を寄せている訳ではないが、まったく信頼していない訳でもない。
 特にこの2年間は、スピードは早くなくてもチーム力は向上し、選手補強も「ほぼ」成功し、ついに初優勝も果たした。この11年間の中で、最もフロントが信頼された時期かもしれない。それが今回の監督交代を巡って、また少し後戻りしてしまった、というのが僕の考えだ。たとえ、それがレッズのためを思ってした措置であり、フロントだけの責任ではないにしても。
 今後、サポーターの信頼を得ていかなければならないのは間違いないが、それは「獲得」ではなく「回復」だと思う。

<追伸2>
 「井原正巳引退試合」まであと10日あまり。井原さんのことは、また日をあらためて書きたいが、今日それに関して記者会見があるそうだ。そこで出場選手や試合方法、チケットの販売状況などが発表されるのだろうけど、2年間という短い期間でもレッズのために全力を尽くしてくれた井原さんに、国立をいっぱいにしてお礼を言いたいものだ。仕事始めの前日で厳しいかもしれないけれど、ぜひ多くのレッズサポーターに来てほしい。