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#328
親善試合



 「私は日本が大好きだ」
 そりゃ、そうだわな。日本ほど殿様扱いしてくれる国はないだろうから。そもそも、遠征で来て完全にガードされた日々を過ごしただけで「日本が好き」と言われても、どのあたりがどう好きなのかだいたい想像がつく。真にリスペクトしてくれるかどうかは関係なく、とりあえずは悪口を言われない時間を過ごせるし、金も入ってくるんだから。まあ「嫌い」と言われるよりはいいが、そんな人にほめられても、太鼓持ちがバカ社長に可愛がられるようなものじゃないか?
 いやベッカムをバカと言っているんじゃない。この場合はサッカー選手をそんな存在にしてしまう、日本のマスコミ(サッカー以外の)を「バッカじゃないの?」と言いたい。


 昨日、埼スタでインテル戦のキックオフを待っているときに控え室のテレビで、某局の女子アナが「ベッカム様」と呼び、その局の社員、アルバイト総出で騒いでいる様子が流れた。ここ1年、クラブチームでも代表でもタイトルから遠ざかっている選手に対して、だ。なんだか国辱的な感じがした。ベッカムが日本に来たときは当たり前の光景なのかもしれないが、昨日はいつもにまして嫌な気持ちがした。
 もしかして埼スタにいたからかもしれない。埼スタで、レッズのホームで、親善試合の相手への尊敬の念とはだいぶ違う次元の「インテル万歳」という騒ぎっぷりを見たからかもしれない。
 僕がちょっと過剰なのかもしれないけど、親善試合とはいえレッズの試合で、相手のチームとサポーターに親しみを持つことがなかなかできない。Jリーグの他チームに対するほどではないが敵愾心を持たざるを得ない。だから昨日のスタジアムの、いつもと違うムードは何だかちょっと居づらかった。
 それと、チームに対しては「遠いところをお疲れ様」という気持ちが少しはするが、日本人のインテルサポーター(とりあえずレプリカを着ている人たち)に対しては、ちょっと奇異な目で見てしまう。97年にレッズがマンUと試合したときは漠然としか感じなかったが、もし彼らがJリーグのチームをどこも応援していないのなら気の毒だなあ、と思うのだ。大きなお世話かもしれないが。
 昨日はビジター側ゴール裏に陣取ってまとまって応援していたインテルサポーター(…なんだろうな、やっぱり)たちは、あの日限りの集団なんだろうか?ふだんは「けっ、日本のサッカーなんてつまんなくて見てられっかよ」とか思っているのだろうか。たしかにJリーグの試合は、応援するチームへの思い入れ、という味付けなしには食べられないような試合も少なくないが、それはイタリアでも同じだろうし、その味付けがあるからサッカーって面白いんじゃないか?
 海外のサッカーが好きなのこと自体はおかしなことではないし、海外の中でもイングランドが最高だ、イタリアが一番だ、いやドイツだ、もちろんブラジルだ、と好みが分かれるだろうけど、だからって自分の国のリーグを無理に貶める見方をしなくてもいいはずだ。昨日は日本のチームがイタリアのチームに勝ったのだし。結果だけでなく内容も。


 まあ僕の思い過ごしかもしれない。昨日、インテルのレプリカを着ていた日本人たちは、ほとんどがふだんはJリーグのどこかのチームを応援しているのかもしれない。「いくらふだんはライバルでも、相手が外国のチームのときは日本のチームであるレッズを応援しろよ」と言う人もいるだろうが、そこまでは求めない。自分だったらどうか。鹿島やFC東京や横浜Mが海外の強豪(有名)チームとやるときに(これからいっぱいあるけど)、心情的にどっちに片寄って見るか。6・4で日本のチームのような気がするが…、ま顔ぶれによるかな。
 もう一つ、昨日のスタジアムで違和感を感じたのは、全員に配られた赤と青のスティックバルーン(バルーンスティック?どっちだ?)があちこちでうち鳴らされたことだ。
 さいたま市の担当者は、来場者に何か記念のグッズをと苦労して考え、予算措置をしてくれたのだろう。決して代理店が「これ流行ってますよ」と簡単に決めたわけではないと思う。だけど、いくら親善試合でもレッズの試合なんだから、あれはいかがなものか。
 理由の1番目。応援にこれを使ってください、と言わんばかりのグッズはレッズっぽくない。
 理由の2番目。色というのはサッカーの応援にとって、かなりのウエイトを占めるもの。親善試合とはいえ両方のチームの色を配って応援に使え、というのはもらった人も悩んでしまうだろう。そして実際に振られたら、スタンド全体が同じ感じにベタっとしてしまってメリハリも何もなくなってしまう。
 理由の3番目。中割れメガホンみたいに、そもそも音が出る応援グッズというのは逆効果のことが多い。途中「浦和レッズ」コールが起きたときに、手拍子や声の代わりにあれをたたいている人の多かったこと。中割れメガホンもうるさいだけで、応援にも何にもなりゃしないと思っていたが、あのスティックバルーン(バルーンスティック)をたたく音は間抜けなこと甚だしい。


 いいじゃない、親善試合で、しかも「さいたまシティカップ」でそこまで言わなくても。みんな楽しんだんだし。
 そう。だから僕の過剰反応かもしれないと断っている。でも昨日の試合で、いつものレッズ戦の雰囲気が出せたらどうだったろう。もっと面白かったんじゃないか?初めて来た人は、サッカーの醍醐味をより深く知ることになったんじゃないか?インテルの選手たちに、「ありゃ、舐めてるとまずいかも」と思わせることができたんじゃないか?(これはレッズの選手がプレーでやってくれたと思うが)
 昨日は平日の夜に58,000人近くの人が入ったのだからすごいが、お客さんの層はいつもとだいぶ違ったらしい。ピッチではレッズのサッカーを十分見せることができたと思うが(GKがトルドでなければ、あと2点くらい入っていたかも)、それに加えてレッズを応援することの面白さもわかってもらえたはずだ。つまり「日本のサッカー(もしくはレッズ)大嫌い派」を除いて、新しいレッズファンを開拓するチャンスだった。
 もっとも僕自身も、松本での試合を終わって少し気が抜けていたことは事実。そんな気持ちで臨んでいて、いざ始まってみるとスタンドがどうの配り物がどうの、というのも勝手な話だった。ごめんなさい。

(2004年7月28日)

<追伸>
 昨日のビジター側のゴール裏のインテル集団。コールするときに「インテる!」「インテる!」と「ル」が巻き舌の発音になっていたのには少し感心したぞ。でも、そのあと「♪レコバのゴールが見た~い、見た~い」とやったのには笑えたぞ。あの応援もイタリア産だったのか?