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#337
鶏口


 「鶏口となるも牛後となるなかれ」
 レンタル移籍のときに、特にJ2への移籍のときに頭に浮かぶ言葉だ。
 (価値の低い)鶏のトップになる方が、(価値の高い)牛の後ろの方になるよりはいい。


 僕はこの中国産の諺には諸手を上げては賛成しない。何も僕が鶏肉が苦手だからではない。たとえ話だと面倒だから、そのままJリーグに当てはめて考えると、「J2のチームで試合に出場している方が、J1のチームにいて試合に出られないよりはいい」という言葉になるだろう。なるほど、そう考えることは間違いじゃない。つまり個人の道の選択肢として、そういう考え方もあっていい。
 しかし逆の考えも間違いではないはずだ。つまり「試合に出られなくともJ1のチームに在籍している方が、試合に出ていてもJ2のチームにいるよりもいい」というポリシーもあっていい。なぜなら、J1のチームにいないとJ1の試合には絶対に出られないからだ。
 どちらを大事にするかは、その選手の年齢、チームでの序列、チームの位置、そういうものによって変わってくるし最後は本人の考え方次第なのだから、なんでもかんでも「鶏口牛後」と周りが言うことではないと思う。


 梅田直哉も相当悩んだと聞く。レッズでは今のFWを押しのけて公式戦に出場するほどの位置にはいないが、選手がそろわなかった4月29日のナビスコカップ清水戦では先発出場した。ふだんでもリザーブには入ることがあるし、その結果途中ながら出場したこともある。そして何より今年のレッズはナビスコカップ、2ndステージとタイトルをとれる可能性が少なくない。9月4日発行のMDP243号のインタビューで彼はこう言っている。


 「レベルの高いチームにいれば自分も伸びていくと思います」

 (ボカ・ジュニアーズ戦に出場したことについて)「あんな場所で試合ができるというのも、レッズに来て良かったと思いますし、あれだけの相手とやれることもなかなかないでしょうから」

 (ナビスコカップの決勝トーナメントや2ndステージでの決意を)「均衡していて残り10分とか、チームが苦しい状況のときに僕が出る可能性もあるし、チャンスをもらったときはたぶん僕自身が必死でアピールしなければいけないときだと思うんです。もちろん得点を取って結果を出したいですし、勝利に貢献したいです。そのために常にいい準備をして、いつでも出られるようにしておきます」

 「優勝するときにその場にいたいという思いはあります」


 このインタビューは8月25日に行った。実は山形からレッズにオファーがあったのはその前後らしい。そして本人に話が行ったのは9月4日の横浜M戦の後だった。彼の名誉のために言っておきたいが、レンタルの話がありながら梅田はこんなことを話したのではなく、この時点では本当にレッズで頑張ろうと決意していたのだ。だからかなり悩んだ。
 その前にレッズのフロントと監督も悩んだ。今季獲得した選手、しかも試合のメンバーにある程度入っている選手をこの時期に出していいものか、と。しかしJ2が新しく選手を獲得できるのは9月17日までである。これがほとんど最後に近い機会だ。試合に出場してレベルアップして帰ってきてもらう方が本人とレッズのためだ、ということで決断したのだろう。


 Jリーグのシーズン半ばでの移籍は即戦力として考えられていることが多い(GKなどは即バックアップ、ということもあるが)。梅田に限らず、先に京都に行った三上卓哉、大宮に行った西村卓朗らを見ても、公式戦に出る機会は間違いなく増える。しかしJ1での出場機会は今回は絶対になくなった。それよりも僕は、J1屈指の選手層の中で練習する機会がなくなったことの方が大きいと思う。紅白戦でエメルソンや達也、永井とマッチアップするDF、山田、山瀬、長谷部、啓太らと対峙するサイド、闘莉王、アルパイらを抜かなければ得点の可能性がないFW。いわゆるBチームのメンバーがどれほど鍛えられるかは想像に難くない(この練習はほとんど非公開なのが残念だ)。梅田と同じ日のMDPに載った堀之内聖も「練習でエメルソンのスピードを見ているから、サテライトではまず慌てることはない」と言っていた。それが3試合連続先発出場勝利(ナビスコA市原、2ndステージ神戸、東京V)にもつながったはずだ。


 小さくないものを捨ててJ2にレンタル移籍したのだから、それ以上のものを得てほしい。J2で試合に出ているだけでは「鶏口」になったとは言えない。レンタル期間が終わる今シーズン終了時には、そのチームの柱、しっかりとした「鶏口」となっていてほしい。そのときに「牛後」とどっちを選ぶか、あらためて選択ができるように。


(2004年9月8日)


<追伸>
 レッズからレンタル中の選手にはもう一人、西部洋平がいるが、J1のチームである清水を格下という意味の「鶏」に例えるのは失礼だから、敢えて本文では名前を出さなかった。忘れていた訳ではない。