Weps うち明け話
#026
天知らず、地知らず、己知る
 麻雀は強くはないが、好きだ。と言ってもここしばらくやっていないが。
 好きなので、時間がないという以外の理由で断った記憶がない。すでに始めていたら、どんなに負けていても「もうやめよう」というのは時間がなくなったときぐらいだ(眠くてアウトのことはあったが)。
 どんなに負けが込んでも「やめよう」と言わないのは、好きだということ以外に、麻雀は4人でやるもので1人欠けたりすると成立しなくなってしまうからだ。逆の立場で、誰かが抜けて3人になって困ってしまった経験はある。だから、自分が抜けて他人に迷惑をかけるのが嫌なのだ。

 その話とはまったく関係がなく…。
 いま、日本でサッカーの審判をやっている人で、「やめたいけどやめられない」という人もいるのではないか。
 体力や動体視力、多様化するプレーや審判を欺こうとする試み…。それらについていけず、審判そのものは違うカテゴリーで続けるけれど、Jリーグはもはや手に負えないので卒業させてほしい。そう思っているが、毎週土日でプロの試合が15もある現状では、Jリーグから「いま、あなたにやめられるとJの試合ができなくなる。後進が育ってくるまで、もう少し頑張ってほしい」と請われて、続けざるを得ない、という人たち。
 気の毒と言えば気の毒である。
 ゴールを認めたら、はっきりハンド。PKを取ったら、スライディングが足に当たってもいない。そんなところがビデオではっきり残ってしまうのだから。
 おまけに有利な方(ゴールが認められたり、PKをもらったりしたチーム)の選手が「あれは手に当たった」とか「自分の足に当たっていない」とかブツブツ言ってしまうのだから。
 誤審したことが自分だけでなく世間にも露になってしまうのに、「審判の判定は絶対」という金科玉条のテーゼの下、守られてしまうことの逆に居心地の悪さ。
 いま審判を目指して頑張っている若い人たちは日本にも少なくないようだ。目指しているのはJリーグではなくワールドカップの試合で笛を吹くことだろうが、ふだんのフィールドとしてはJリーグになるはず。
 今日、9月1日、大原で記者に囲まれたレッズの犬飼代表は、31日の千葉戦について判定についての意見書を出すことを表明した後に、「審判を海外に研修に出すなどして、審判の質を向上させないと、興行としてのJリーグが成り立たない」と言っていた。自動車教習所の高速教習ではないが、Jリーグで笛を吹かせる前に1年間イタリアやイングランドに研修に行かせるとか、現在Jリーグの主審として登録されている人も毎年2人ぐらいずつ海外に派遣するとか、これまでにない手をうつべきときだと思う。
 もちろん一朝一夕にはできないことだ。だから、それまではクラブも選手もサポーターもJリーグも少しずつ我慢するしかない。それと審判自身も。
 審判が何を我慢するかというと、以前にも書いたけど、誤審が明らかになっても判定を覆す必要はないが、誤審は誤審としてJリーグが認めることだ。

 ところで、「天知る地知る己知る」というが、天(主審)も、地(線審)も知らなくても、己は知っているはず。たとえば選手のどこに当たってゴールしたのか主審も線審も見えなかったのなら、本人に聞く、というやり方もあっていいんじゃないか。自分から「今のハンドでした」と申告することは難しくても、審判に聞かれれば「いや、手でした」と答えやすいだろう。その上で「もちろん頭です」と胸を張って答えたなら、それはそれで信用すればいいし。

 そう考えると、31日のナビスコカップ準決勝第1戦で、先制点を挙げた(とされている)巻は、どういう心境でガッツポーズしていたのだろう。あれを見た子どもたちは、スポーツの試合から何を学ぶのだろう。
 もしも、あそこで巻が、レッズの選手に取り囲まれたレフェリーのところに行って「今のは手に当たりました」と言っていたら、僕は彼のことを一生忘れないだろう。そして、その数分後に今度は文句なしのヘディングシュートを決めていたら…。レッズサポーターからも一目置かれる存在になったかもしれない。
 こういうとき僕はいつも、パウロ・ディカニオがウエスト・ハム時代に1点を争う試合の終盤、相手の選手が深刻そうなケガで倒れているのを見て、自分のところに上がってきた絶好のクロスをシュートせずに手でキャッチして試合を止めたシーンを思い出す。あの行為は、今の日本ではどう受け止められるかわからないが、それほど痛くもないのに味方に不利になりそうだから倒れて痛がる選手などいない、というコンセプトがないと、できないことだ。
 昨日の後半22分過ぎ、レッズのカウンター攻撃の場面で、巻が闘莉王のスライディングで倒れているのを見て、試合を止めた長谷部に対して、巻自身はどう思ったのだろう。

 先日、テレビ埼玉の解説で信藤健仁さんがそういう場面で「勝負より大切ことがありますから」とおっしゃっていたのが胸に落ちた。だから、今回の「ハンドゴール」が、立場が逆になっても同じことを言えるようでありたい。
(2005年9月1日)
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