Presented by 埼玉縣信用金庫
Weps うち明け話
#031
それが何か?
「いや、当日は来られないから。だから今日来たんです」

 3日の夕方、友人からメールをもらって浦和の伊勢丹前に行った。5日のナビスコ準決勝第2戦に向けて、多くの人から選手へのメッセージを横断幕に書いてもらい、チームに渡す、という活動をサポーターがするという。6時半ごろ現地に行ってみると、レッズの選手の大型集合写真の前に10人ぐらいのサポーターが立ち、前に「去年の悔しさ忘れてないよな?」というダンマクを広げて道行く人々に協力を呼びかけている。
「水曜日、大事な試合が試合があります。3点差で勝たないといけない試合です。レッズの選手たちにメッセージをお願いします」
 若いサポーターが声を上げる。少なくない人が立ち止まり、ペンを受け取って一言書いていく。ダンマクにはすでにまんべんなく文字が散りばめられている。見たことはないが「耳なし芳市」ってこんな感じだったのだろうか(てか、実在の人物じゃないから)。
 ある人は携帯の画面を見て一文字一文字確認しながら書いている。下書き?と思ったがそうではない。友人からのメールを書き写しているのだ。
「ここに来られないヤツの分も思いを込めて書きました」
 そう言えば携帯でメールを打ったり話したりしている人が多い。
「…だって。なんか書きたいことある?」
 こうやって活動はネズミ算式に広がっていく。

 そんな中、富山から飛行機で来る人がいる、と聞いた。10時ごろになるという。
 仕事を済ませて10時前にもう一度伊勢丹前に着いた。呼びかける方も応じる方も、だいぶ人が増えている。その富山から来る人は誰も顔を知らない。まさか全員に聞くわけにもいかないけど、どうしても話を聞きたければそうするしかない…。と困っていたら、サポーターの一人が「あの人らしいです」と教えてくれた。追いかけて呼び止める。
 富山からいらしたんですか?
「そうですけど」
 どうしてですか?――その問いに対する彼の答えが冒頭の言葉だ。5日の試合当日は来られない。だから、この話をサイトで知って今日来ることに決めた。口にこそしなかったが、「それが何か?」という言葉が続きそうな感じだった。遠い富山から矢も盾もたまらず駆けつけた熱い思いが語られるだろうと期待していた僕だったが、それは記事を作りたがるライターの良くない習性だ。
 応援に行けるなら今日は来なかった。当日は行けないから今日来てメッセージを書いた。レッズサポーターとして、そのことに何の不思議がある?同じサポーターとしてわかっているはずのことなのに、取材する構えになるとオマヌケな質問をしてしまう。
 富山でなくても、東京からでも群馬からでも、春日部からでも川越からでも同じ。東上線や伊勢崎線に乗る人が浦和経由で帰る。大宮まで帰る人が浦和で途中下車する。浦和の駅から歩いて帰る人が立ち止まる。みんな、レッズがナビスコカップで決勝に行くために少しでも力になるなら、と大小の差はあるが自分のお金と時間を割く。それが何か?
 レッズサポーターとはそういう人種だし、レッズとはそういうチームだし、5日はそういう試合だ。

 赤地に白の文字、そしてメッセージで真っ黒になったダンマクは今日、選手たちが練習の後集まるフロアに張られ、みんなの思いを胸にしっかりしまってチームは市原へ向かう。
(2005年10月4日)
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