Weps うち明け話
#034
さいたまダービー
 たしかに今のJ1で、「市」という最小行政単位の中でのダービーマッチというと、さいたまダービーしかない。あとは「都道府県」単位のダービーマッチだ(道はないけど)。だから注目されるのはわかるが、当事者にとっては「何か違うな」という思いがあった。
 外部の人と内部の感覚が一番違うのは、レッズとアルディージャができて活動が軌道に乗ってから、それぞれのホームタウンである浦和と大宮が合併したということ。両チームとも、今は「埼玉県/さいたま市」をホームタウンエリアに定めているけれど、かつては「埼玉県/浦和市」と「埼玉県/大宮市」だった。
 例えは変だが、親同士が再婚して兄弟になった子どもみたいなもので、今は「さいたまダービー」だが、かつての(J2のとき)「埼玉(県)ダービー」と感覚はなかなか変わらない。「さいたま市」になって5年目。市民の感覚がまだ住所を書くとき以外は「さいたま市民」だと自覚できないのと同じだろう。少なくとも僕は。

 とは言え、さいたまダービーには、東京や大阪のそれとは違った緊張感がある。それは浦和と大宮の間に元々あるライバル意識だ。
 浦和に四半世紀しか住んでいない僕が言うのもおこがましいけど、この地域には、それがある。大宮は昔から商業が盛んで、交通の面でも中心の都市。夜の盛り場もにぎやかだ。しかし県庁所在地は浦和。新幹線はもちろん止まらないし、中距離列車(高崎線・宇都宮線)が停まるようになったのも、やっと25年前という、浦和が政治や文化の中心みたいになっている…。根っからの浦和っ子、大宮っ子に聞けばもっといろいろ出てくるのだろうけど、市長から市民にいたるまで、「こちらの方が向こうより上」というプライドが強く、かなりのライバル意識があったようだ。僕は浦和の住人ではあったけどネイティブではないから、あまりそんな気はなかったが。そう言えば大宮っ子のレッズサポーターとアルディージャのことを話すときに「大宮なんてさあ…」とか言うと「ちょっと待て。大宮じゃない。アルディージャだ」と口をとがらせる。サッカークラブとしてはレッズがナンバーワンだが、街としては大宮が上、と言いたいらしい。

 そういう土壌がある中に、2つ目のサッカークラブが大宮にできた。ライバル心に拍車をかけることになる。J2時代はともかく、今年になってJ1でのダービーが実現してからは、これまでとは違う関係になってきたと思う。
 その一つが埼玉スタジアムの使用だ。大宮の埼スタでのホームゲームに行ったことのある人なら知っていると思うが、大宮はサポーター、ベンチともメーンから見て右側(南側)に陣取る。日本での通常の位置とは反対だ。京都の西京極、神戸の神戸ウイングのようにスタンドの広さなど物理的な要因でそうなっているのとは違い、これは埼スタが完成した2001年にはすでに決まっていたこと。レッズがホームスタジアムとして使うのは当然だが、当時はJ2だったアルディージャもJ1昇格の暁には埼スタをホームで使うことになる。相手のホームゲームのときはふだんと逆側のロッカールーム、ベンチ、スタンドを使用するのはお互いに嫌だろう、ということで、レッズは常に北側、アルディージャは常に南側を使うということになった。
 2002年ワールドカップで使用したスタジアムはみんな、スタンドエリアを表わす地図などでメーンが青、バックが緑、左サイド(メーンから見て)が赤、右サイドが黄色になっているはず。しかし埼スタだけは右サイド、すなわち南側がオレンジ色になっているのはそういう訳なのだ。

 今季は3試合のさいたまダービーが埼スタで行われた。レッズホームが1回、アルディージャホームが2回。レッズのホームゲームのときは、まあ普通のホームゲームとして問題はなかった。試合結果は大いに問題があったが。
 残りの2試合では違和感があった。だって圧倒的に赤が多いのはいつもの埼スタの光景だが、ホームはたぶんお互いにそうだったのだろう。それが今回10月22日、バックスタンドの横断幕をめぐっての一連の騒動につながったのかな、と思う。
 細かい経緯を述べると長くなるので要点だけ紹介すると、この日、埼スタのバックスタンド1階の北側寄り約3分の1はビジター側つまりレッズゾーンとして売られていたのだが、手すりにはオレンジ色の横断幕(文字が書いてなくても「横断幕」というのかどうかわからないが)が張られていた。観客が入ると、レッズゾーンだから席は真っ赤。でも横断幕はオレンジ色。これはないだろう、とレッズサポーターが、自分たちの横断幕を張らせてほしいと言い出した。クラブのスタッフを通じて交渉したが、なかなか結論が出ないうちに時間が進み、そのうち焦れたレッズサポーターがオレンジの幕を外しだし、自分たちの横断幕をつけてしまった。

 張ってあるものを勝手に外すのは、そりゃ良くない。
 でもレッズ側と言ってチケットを売っておいて、入ってみたらすでに応援の言葉も何も書いてないオレンジ色のダンマクが張られているのはどうなの?という言い分ももっともだ。
 しかし主催はアルディージャなのだから決めたことに従え、という理屈も成り立つ。
 とは言え、3万人の観客の比率が8:2でレッズの方が多いことは前回(ナビスコ)の経験でもわかっていたはず。スタンドの8割をレッズで埋めさせておいて、ダンマクを張れるのはゴール裏だけ、というのはそもそも無理がないか?そもそもナビスコのときはバック、メーンも半分ずつ、という決まりだったはず。

 どっちが正しいの悪いのと一概に言えない。サポーターも運営スタッフもJ1での「さいたまダービー」、特にアルディージャホームのそれに慣れていなかったのだ。次回はスタッフ同士の事前折衝と、お互いのサポーターへの告知を十分やってほしい。
 「同じさいたま市のチームとしてお互いに頑張りましょ」なんてきれいごとは表面上でしか通用しない。特に同じカテゴリーに2チームがいるうちは。激しいライバル意識やお互いのプライドが試合を盛り上げることは確かだ。特にレッズ側はアルディージャなんて問題にしてねえよ、みたいな素振りをするサポーターもいるが、それだけに絶対に負けたくないという気持ちが心の底にはある。いや、心の底でなくアルディージャに対するライバル意識を露にした「ANTI OMIYA」というマフラーをわざわざ作って掲げるグループも当日はいた。アルディージャのスタンドを見ると「0486」(かつての大宮の市外局番)などというゲート旗もあった。さいたまダービーは「さいたま市同士の戦い」ではなくて「浦和対大宮の戦い」なのだ。
 J1での対戦成績は1勝1敗の五分。来年もまたメディアは、日本唯一の本来の意味でのダービー、と盛り上がるだろう。初めは「ダービーって言われてもなあ…」と思っていた僕だが、実際の試合では鹿島戦やF東京、横浜M相手の試合とは違った匂いの盛り上がりを感じた。やはり、それがダービーマッチなのかもしれない。
(2005年10月28日)
〈EXTRA〉
 明日の柏対大宮は「野田線ダービー」というらしい。と言っても東武鉄道が言ってるだけのようだが。ポスターまで作って盛り上げたいのはわかるが、そこまでこじつけなくても…。
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