Weps うち明け話
#057
方向音痴
 僕は方向音痴のほうだ。最悪、ではないが1度通った道は忘れない、という人にはかなわない。そういう人にはたぶん東西南北を知る磁石みたいなものが体に埋まっているのだろう。うちの息子などは家の中だろうが、初めて行ったレストランだろうが、「埼スタ、どっちだっけ」と聞くと普通に「あっち」と指差す。僕なんか、階段を昇り降りしただけで、もうどっちが西か東かわからなくなってしまうというのに。だからカーナビは必需品だ。

 先日、レッズの練習試合でレッズランドに車で行くのに、途中で食事をして行こうということになった。あまり時間がないので、簡単なところがいい。大宮、与野方面からレッズランドへ行く道沿いに「すき家」があるのは知っていたから、そこへ行こうと思った。ただし、そのときに走っていたのが、その道にぶつかる道路。「T字路」の下から上に向かっていくところだった。さて、突き当たったら右か左かどっちに行けば「すき家」があるのかはっきりしない。レッズランドは左である。だから「すき家」が左にあればベストだが、右だったら困る。たしかほかにはすぐ食べられる店がなかった。時間のロスは避けたいし、昼抜きで2時間試合を見るのも耐えられそうにない。
 いよいよT字路の信号に突き当たってしまった。ふと車の外を見ると停留所でバス待ちをしている高校生がいる。ウインドを降ろして声をかけた。
「ねえ、このへんにすき家があったよね?どっちだっけ?」
 1人が即座に自分の後ろの方を差して
「右です」
 だれた口の利き方をした大人に対してなんて礼儀正しいんだ!というのも感激したが、僕が驚いたのは「右です」という言い方だ。僕は両手でそれぞれの方向を指差して「どっちだっけ?」と聞いたのだから、「こっち」と言えばいいのである。それが自分の体の向きとは違う僕の立場に立って、しかも間髪入れず「右です」と答えたそのことに感心した。
 相手の立場に立つ。これってパスを出すときに出し手が考えなければならない大事なことだと思う。相手だったらどこへ走るか。どこでもらいたいか。その考えが一致して、考えどおりパスが出せればビッグチャンスになる。もちろん、日常生活の中でも大事なことだが。

 彼の立っていた場所から見て、内舘秀樹の後輩かもしれない。もし部活も後輩だったら彼はゲームメーカーかな。
(2006年3月24日)
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