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Weps うち明け話
#065
初タイトルを作り上げたピース
 サッカーで、ゴールを挙げた選手だけを褒め称えるのは間違いだ、ということは今さら言うまでもないだろう。
 とは言え、球技のうち最も点が入りにくいスポーツだから、点を取った選手が注目されることは当然だ。そういうことを十分わかった上で話を進めると、一番注目されるのはまず決勝ゴールを挙げた選手、かつてのVゴール時代なら、間違いなくヒーローインタビューのお立ち台だ。
 逆転勝ちの場合は同点ゴールも大事だ。また1試合複数ゴールも滅多にないからヒーロー扱いされても当然。早い時間に2−1でリードしたが、その後は押されまくりで、終了5分前に3点目を挙げた、などという設定ならだめ押しゴールの主も値千金の活躍と言える。
 ちょっと気の毒なのは5−0で勝った試合の4点目、5点目を入れた選手で、場合によっては「あれ、誰だっけ?」と忘れられかねない。しかし、リーグ戦などは得失点差が順位を決める重要な要素だから、1点もおろそかにはできない。去年のレッズで言えば、勝点59で4チームが並び、鹿島を得失点差で6上回って2位になったのだから、その価値はみんな忘れていないだろう。去年は東京Vに7−0、柏に7−0、新潟に4−0と大差で勝った試合が3試合あるが、そのどれか途中で「まあ、このへんでいいや」と力を抜き、5−0、4−0、3−0で終わっていたら、レッズは3位になっていた。賞金では2千万円の差があるし、「2年連続リーグ2位」という(あまり有難くはないが)肩書きもなくなる。東京V戦の平川や柏戦の酒井、横山のゴールは貴重だったのだ。
 6−3で勝った試合など、4点目や5点目が注目されがちで、1点目、2点目は結果として勝負に関係ないように思われるかもしれないが、サッカーは1点取った取られたで試合の流れや戦術が変わってしまうことがあるから、どの得点も大事なのだ。
 またナビスコカップの決勝トーナメントのように、実質的にホーム&アウェイ2試合の合計点で勝ち負けが決まるような場合(今年から少し要素が変わったが)、1試合目の結果は大きな問題ではないように思うが、2試合目が1点リードで始まるか、タイで仕切り直しか、ビハインドを背負ってスタートするか、その違いは戦い方に影響を与えるから、第1戦で1点でも多く入れておくことは、リーグ戦の得失点差以上に直接的な関わりがある。
 1つの試合の結果にはすべてのゴールが関わっている。そして一つの大会の最終的な結果は、一つひとつのゴールなしではあり得ないものなのだ。

 レッズが初めて手にしたタイトルは、2003年ナビスコカップ。鹿島に4−0というスコア。坪井とエメルソンの負傷。ニューヒーローにふさわしい達也のゴール…。決勝での思い出は数多くある。
 準決勝でも、アウェイで清水に0−1と敗れながら、第2戦のホーム駒場であっさりと逆転したのみならず6−1の大差で勝ったこと。6−0の後、相手のうまい倒れ方に都築がPKを取られ一発退場になったことも印象に残る。不満そうにピッチを去る都築を当時清水にいたアレックスが「決勝には出られるんだからさ」となだめていたこともエピソードの一つだ。
 だが、あの年のナビスコカップで僕が忘れられないもの。それは準々決勝のゴールだ。相手は当時「苦手」としていたFC東京。なにせ公式戦5試合全敗だったのだから、あの年のレッズがいかに好調でも、トーナメントで当たるのは嫌なチームの筆頭だった。結果は第1戦ホームで2−2の引き分けの後、アウェイで勝利。アウェイの味スタでは2−0だったから、数字だけで見ると第1戦に1−2で負けていてもトータル3−2でベスト4に進んでいたことになるが、それは暴論。もしホームの第1戦を落としていたら「また東京に負けた…」という気分は拭えなかっただろうし、第2戦で東京は守りに守る戦術に出たかもしれない。そうさせなかったのは、第1戦でのロスタイムの同点ゴールだ。FKから室井が折り返し、空中にあるボールに飛び込んで頭で押し込んだのは千島徹。これがプロ公式戦初ゴールだった。
 そしてレッズでの最後のゴールとなった。
 2003年ナビスコカップでレッズが挙げた全18ゴール。どれも初タイトルを形作り上げるピースの1つだ。価値に差はないはず。だが僕が「最も重要だったゴールは?」と聞かれたら、たぶん迷わずこれを挙げる。
 ありがとう、徹。元気でやってくれ。もちろん、ピッチでだぞ。
(2006年6月20日)
〈EXTRA〉
 先週、同じ問いをされたとしても、2003ナビスコで最も重要だったのは徹のゴール、と答えただろう。だが、愛媛FC移籍の話を聞いた今、先週の自分にはもう戻れないから「たぶん」と付けざるを得ない。「レッズでの最後のゴール」と書くのも少し抵抗があった。気持ちのどこかに「J2で活躍して、またレッズに戻ってきてくれ」というのがある。だがレンタルではなく完全移籍。そんなことを言うのは本人にも愛媛FCにも失礼だろう。
 レッズに入ってくる選手、去っていく選手。僕の立場からすると誰でも区別はないはずだが、初めて小学生のころから注目していた選手がチームを離れるというのは心が乱れる。レッズが好きでたまらなかった徹にとっても、他のチームでプレーするというのは複雑な気持ちかもしれないが、まずは自分のサッカーを見てもらうのが第一だ。中盤の攻撃的選手が上にも下にもひしめいている今季のレッズ。怪我が治り、練習試合などでのパフォーマンスも完全に戻ってきてはいるが、徹の出番は?と聞かれれば可能性は低いと答えるしかない。一方で25歳という、目立った実績のない選手が移籍するには決して早くない年齢。総合的に考えて、愛媛への移籍は正解だと思う。大正解になるかどうかは、本人次第だ。
 今季はもう厳しいが、徹がチームを引っ張ってJ1に上げ、埼スタに戻ってくるつもりで頑張ってくれ。もしそのとき僕がピッチでなくスタンドにいたら、うれし涙を流しながらブーイングしているような気がする。
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