Weps うち明け話 文:清尾 淳

#849

北からやってくる仲間たち③

 考えてみれば青森県に行ったのは初めてだった。2月23日の夕方17時から翌朝10時頃まで10数時間だったが、あれで全国制覇に一歩近づいた。
 翌日は青森から秋田へ。ホテルで時間をつぶして、暗くなってから出かける。やはり雪との戦い。しかも少し降っている。青森より積雪は多そうだった。

 目指すのは居酒屋「二合半」。
 では、まずプロフィルを。

 Kさんが、秋田に転勤になったのは03年。転勤を繰り返していると会社以外の友人が少ないので、Kさんは行きつけの飲み屋を作るようにしている。秋田市内でたまたま小さな飲み屋に入ると、壁にレッズの初期のポスターとフラッグが飾ってある。その他、三菱サッカー部やレッズ関係のものがいっぱいある。
「何だ、これは!」
 びっくりした。店の主人に尋ねる。
「レッズ好きなんですか?」
「いやあ、息子がいたんだよ」
 息子とは、三菱サッカー部から浦和レッズと進んだDF、佐々木善。その実家だったのだ。自分は、落合弘さんもいた浦和市高サッカー部出身でレッズサポーターだという話をすると、すっかり意気投合。秋田でレッズに会えたのがうれしく、翌日も来ると約束して帰った。

 実は佐々木夫妻は、そのとき夫婦喧嘩をしていた。いつもは店に出ている奥さんが、奥の自宅に引っ込んでいたのはそのためで、「もう離婚する!」というぐらい激しい喧嘩だった。
 しかし店が終わって自宅に帰ったご主人が「今日、浦和レッズのことに詳しい人が店に来たよ」とボソッと言うと、奥さんが食いついてきた。それで夫婦の会話が復活した。それまで店にレッズファンが来たことなど一度もなかったのだ。

 それからKさんは、週に2〜3回は店に通った。佐々木さんと話をするうち、しばらく遠ざかっていた浦和愛がよみがえった。
 当時のテレビ中継は、NHK−BSでたまにある程度。試合はもちろん二合半で見た。試合はたいてい土曜日。土曜日と言えば居酒屋は忙しいが、試合中は別だ。
お客「ビールください」
ご主人「ちょっと待ってろ」。
 3人で大騒ぎしている。
 顔見知りになった常連とカウンターで話していたKさんが、試合が始まるとテレビに釘づけになってしまう。
「そんなに面白いの?」
「だまって一緒に見ろ」
 だから他のお客もテレビを見るしかなくなり、みんな、だんだんハマってくる。「次、試合をテレビでやるのはいつ?」。それまでサッカーを1試合見たことがなかった人たちにとって、サッカーといえば、レッズしかなかった。Kさんは家でいろいろ選手のことを調べて、試合を見ながら薀蓄を語る。

 そのうちユニフォームを作ろうということになった。サッカーチームを作るわけではない。二合半常連サッカー好き仲間のユニフォームだ。「二合半サッカークラブ」。ボタンダウンのシャツに胸に「二合半」、背中に背番号。サッカー中継がある日は、それを着た常連がカウンターにズラリと並ぶのだから、入ってきたお客さんはびっくりする。
 日本代表の応援から仲間になった人もいる。
「本当のサッカー好きは、代表でなくクラブを応援するんだ。自分の愛するクラブを持てばもっと面白いよ。代表はたまにしか試合がないけど、クラブは毎週あるんだから」
 そう説いて回ると、みんな「ああ、そうか」と納得する。二合半の常連ならレッズだろ、とレッズサポーターを増やしていった。二合半でレッズ好きになった人は全部で20人くらいいる。
 みんなお酒を飲みながら一つになって盛り上がる楽しさを、この店で教えてもらった。

 06年9月、ご主人が亡くなった。
 リーグ優勝を見せられなかったのが悔やまれた。Kさんもその後、青森に転勤。しかしテレビ放送のあるときは、秋田まで行って二合半で見た。ふとKさんは「この人たちを埼スタに連れていったら、どうなるんだろう」と思った。Kさん自身、埼スタデビューは06年の夏。妻子が妻の実家に遊びに行くというので、たまたまやっていた清水戦に行ったのが初めてだった。
「みんなで埼スタ行こうか」
 07年の10月、マイクロバスで埼スタに行った。名古屋戦だった。
 夜に秋田を出て、朝大宮のスーパー銭湯で風呂と朝食、仮眠。その後、レッドボルテージを経由して、埼スタへ。レッドボルテージへ行くときには浦和市役所の駐車場に止め、「埼玉サッカー発祥の地」の銅像にみんなで手を合わせる(笑)。
 それから毎年1回秋の埼スタツアーは定番となった。

 最初のツアーには二合半の常連だけでなく、仲間の飲み友達も参加した。行きのバスからしこたま飲んでいる、その3人は往復バスの酒飲み旅行のつもりだった。
「俺たちは試合は見ないでバスで寝てるから」
 しかし無理やりレッドボルテージでマフラーを買わせ、せっかく来たんだから、と埼スタのスタンドまで連れて行った。
 当時はアッパースタンドしか取れない。しかし俯瞰して見る満員の埼スタに感化され、他のメンバーはもちろん、チケットをもぎった辺りから鳥肌モノの興奮。
「これが埼スタか」
 その3人も一緒に歌まで歌うようになった。
「あそこに連れていくと、みんな虜になる」
 Kさんは、昔、大宮サッカー場の隙間から見ていて興奮していたのと同じ思いを、この人たちは味わっているんだな。帰りのバスでは、初めてサッカーを見た人も「あのシュートが決まっていれば」とレッズの話題で盛り上がっている。その人たちも二合半でレッズ戦を見るようになった。

 レッズあっての出会い。大宮に鞍替えしていたら、きっとあり得なかった。浦和への恩返しと言うと大げさだが、あんなに興奮して熱くなれるものは他にない。仲間を埼スタに連れて行って、勝っても負けても文句を言われたことはない。みんな埼スタへ行って喜んでいるし、負けたら本気で悔しがっている。
「来年こそ勝ち試合に行こう」

EXTRA
 以上が、Kさんの話を基にした秋田のレッズサポーター拠点「二合半」のプロフィルだ。
 長いので、#850へ。

(2014年11月22日)

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