Weps うち明け話 文:清尾 淳

#869

受動態

 時間が経っても、思い出すときに必ず憤りを伴う言葉がある。この感触は生涯忘れないだろう。
「かつては『Jリーグのお荷物』と言われた浦和レッズが…」
 レッズが優勝など良い成績を挙げたとき、挙げそうなときの修飾語として、昔はそんなに弱かったのに今は…という対比で使われることが多い。
 憤りを感じるのは「お荷物」という表現ではない。実際、93年、94年のレッズはすごく弱かったから、そのことを揶揄する言葉として何をどう使用されても我慢するしかなかった。心の中では「『お荷物』じゃなくて、『お客様』だろ。あれだけアウェイにサポーターがたくさん行ってお金を落としてるんだから!」と思っていたが。

 引っ掛かっているのは「言われた」という表現だ。スポーツ新聞もテレビも川淵チェアマン(当時)も、みんなが「言われた(言われている)」と、受身の表現をしていた。
 じゃ、最初に言ったのは誰だ?
 犯人探しをしたいわけではない。自分もそう思っているなら「Jリーグのお荷物、浦和レッズ」「Jのお荷物と言ってもいい浦和」と言葉の主体者になって、はっきり言えばいい。それを「自分が言い始めたわけではないが」というニュアンスで逃げるのはずるい。マスメディアは自分が主体となる表現をあまりせず「成り行きが注目されている」などと受動態で締めるのが一般的ではあるが、こういう揶揄する言葉を使うときまで、その手法なのか、と言いたい。
 僕が、この言葉を使用することはあまり考えられないが、使うとしたら「スポーツ新聞や川淵チェアマンから『Jリーグのお荷物』と言われた浦和レッズ」と正確に表現したい。

 最近、このことを思い出したのは、5月16日(土)のJリーグ第12節・FC東京戦のころだ。
 当時、レッズは1位でF東京は2位だったので「首位攻防戦」と言われた。たしかに順意表では1位対2位で、F東京が勝てば逆転する勝点差だったが、ACL組は1試合消化が少なかったので、レッズの首位もF東京の2位も、3位のG大阪との関係で、暫定順位だった。もしここで順位が引っくり返っても、F東京は暫定首位でしかない。
 正確を期して「暫定首位攻防戦」というのも間抜けだから、MDPでは極力「上位対決」という言葉を使っていた。必要以上に煽ることはない、と思ったからだ。ただ暫定2位のF東京が、「首位攻防戦」という言葉で自分たちのモチベーションを上げるのは、どうぞご自由に、と思っていた。

 結果は4−1でレッズの勝利。大差だった。
 ちょっと不思議に思ったのは、「前半5分の李の先制点でF東京のゲームプランが狂った」という論評が多かったこと。そりゃ、たしかに前半5分に失点するゲームプランを立てるチームはないだろうし、今季の東京は堅く守り鋭いカウンターで点を取って勝つ、というカラーを出しているようだから、あの時間の失点に慣れてはいないだろうが、前半5分で誰かが退場したとか、立て続けに失点したというならともかく、早い時間に1点取られたぐらいで、それで負けが半分決まったみたいに言うのはおかしくないか、と思ったのだ。
 去年のアウェイF東京戦でも前半6分にレッズが先制したが、その後ポンポンポンとF東京に点を取られ1−3と逆転された記憶はまだ新しい。
 今回も、同じような早い時間の先制だったので、僕は「ここからまた4−4になるんじゃないだろうな」という懸念も抱いていた。あるいは逆転されないまでも、1−0のまま推移して、最後に同点、逆転されるのではないか、という懸念。身体に染み付いた過去の失敗体験は、書いていることとは裏腹に、なかなか払拭されない。

 しかし試合が進むにつれて、「F東京はなんであんなに落ち着かないんだろう」と不思議だった。僕はふだんのF東京の堅守ぶりを知っているわけではないのだが、1点取られたぐらいであんなふうになってしまうものなのだろうか、と。
 後日、思ったのは、地力の差がそれほどない両チームの対戦で思わぬ大差がついた背景には、もしかして「首位攻防戦」という言葉から受ける思い入れの違いもあったのではないか、ということだ。レッズの選手たちは「守備の堅い東京とやるのが楽しみ」と相手に対してモチベーションを上げていたが、「首位攻防戦」というのはあまり意識していなかった。たとえこの試合で順位が逆転しても、レッズは1試合未消化なのだから、ということがあったかもしれない。
 対してF東京の選手たちは、どうだったのだろうか。前日や当日のメディアに載ったコメントを見ると、十分意識しているように思えた。ただし、直接の取材はしていないので、本当のニュアンスはわからない。この対戦を煽りたいメディアの意向が加味された報道だったかもしれないのだけれど。

 他のチームのことに、深く突っ込む余裕はない。だが、試合翌々日の月曜日、あるメディアの一文に目が止まった。
 F東京の敗因を探る記事の中に「試合前、首位攻防戦、と煽られた」というくだりがあった。
 煽られた? F東京の選手の立場からは「煽られた」と言って間違いないが、煽った先頭集団には、当のこのメディアもいたはずだ。もし、「首位攻防戦」という煽りがF東京の選手たちのメンタルに微妙な影響を与え、それが負けた遠因でもあったというなら、ここでこんな受身の表現をするのはずるいのではないか。
 正直に「本紙を始め周囲から『首位攻防戦』と煽られた」、あるいは潔く「本紙も試合前には『首位攻防戦』と煽った」と書いてくれていたら、僕は逆にそのメディアに対する信頼をより深くしただろう。

 一つの試合を「すごい試合になる」「○○ダービーだ」と煽るのは、1人でも多くの人に試合に来てもらうために有効だという側面もあるから、そういう表現を否定はしない。
 だがそのために、選手から言葉を引き出そうとして、それほど意識していない選手にまで質問(というより記者の意見)をぶつけて無理やりコメントを取るようなことはいただけない。レッズで言うと、武藤雄樹にF東京の武藤嘉紀選手へのライバル意識のようなコメントを求める風潮が一時すごかった。それは理解できるが、先日など武藤本人が「特にない」と言っているのに、記者本人が発した言葉を挙げて「じゃ、これでいい?」とコメントにしようとしている場面に出くわした。
 プロ選手は、メディアの取材に応じるのも仕事の一環だから、そこは仕方がないが、取材そのものに煽られて、プレーに影響が出るようでは困る。はねつける、受け流す、というサッカーのようなテクニックも身に付けないといけない。取材が結果に何らかの悪影響が出たとしても、当のメディアは何も責任を取ってくれないのだから。
 
 今週は、日本代表戦が終わったら、大原を訪れるメディアが増えるだろう。
「次で1st優勝を決める」という選手たちのコメントを期待されるのは仕方がないし、もし優勝が決まったとしたら、それはそれで今に倍する取材が殺到するだろう。それによってメンタルを左右され、結果に悪影響が出ることのないように、ピッチ外でも選手はうまく闘わないといけない。

 騒いだ人たち自身が「1st優勝、と騒がれた」と受動態で書くに決まっているのだし。

(2015年6月15日)

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