Weps うち明け話 文:清尾 淳

#883

記録に刻みたい

鈴木啓太の16年間の写真を探していると、案外少ないことに気がつく。

 自分の撮影技術はさておき、啓太は試合中の写真が撮りにくい選手の1人だった。
 ボールを持って真っ直ぐドリブルしてくるという、ゴール裏にいるカメラマンにとって撮りやすいプレーをあまりしない。ボールを保持する時間が短く、しかもよく顔を振っているから正面からのカットが少ない。
 試合中、啓太だけをずっと追っているなら、そうでもないだろうが、試合の流れを写真で振り返ることができるようなボール中心の撮り方をしていると、僕には難しかった。

 そんなことを思いながら写真を探していた。僕がカメラをデジタルに替えたのは、2002年の12月。それまではポジフィルムだったから、ルーペで1枚1枚見ていると、当時のことがいろいろと思い出され時間がかかってしょうがない。今はスタジアムにいないサポーターの顔を発見しては、必要もないのに拡大して焼いたりしている。
 そうか、啓太って約3年間も俺のフィルム時代にいたんだ。あらためて彼のレッズ歴の長さを思いやる。

 11月18日(水)に、天皇杯の準々決勝以降のスケジュールが発表された。
 また、長居かよ!
 C大阪がJ2だから、今季は長居に行かないなと思っていたら、15日(日)のJユースカップ決勝が長居。そして12月26日(土)の天皇杯準々決勝が長居。ちなみに今季は、ノエスタにJリーグで1回、なでしこリーグで2回行き、万博にJリーグで1回行っているから、1年に6回も阪神地区に出張する計算になる。過去最多かもしれない。
 天皇杯は、ここ4年間ずっと埼玉県内で終戦を迎えている。しかも昨年と一昨年はリーグ戦の最中に終わってしまった。今回は、12月末まで試合があることが確定している。あと3回勝てば優勝という状況を無駄にはしたくない。

 元日まで、と考えて、あることに気がついた。
 今年、浦和レッズが天皇杯で決勝まで進むことには、いつも以上の意味がある。
 2000年にレッズの一員となった鈴木啓太に、2016年まで浦和レッズの選手でいてもらいたい。シーズンとしては2015だが、レッズのユニフォームを脱いだ日は2016年。そんな記録が残るように、レッズには頑張って欲しい。

 そして、記録に残して欲しいことがあと2つある。
 ナビスコ杯、リーグ戦のステージ(2回)、天皇杯(2回)、Jリーグ、ACLと、浦和レッズがこれまで獲ったタイトルのすべてに貢献してきた啓太が、獲り逃がしたもの。チャンピオンシップの制覇。
 考えると面倒くさくなる今季の2ステージ制だが、一つだけ良かったと思えるのは、11年前あと一歩で手が届かなかったものを、啓太がレッズにいる間に獲るチャンスが巡ってきたことだ。
 さらにはクラブワールドカップ。Jリーグ勢で最初に2度出場するクラブがレッズであって欲しいし、選手として啓太の名を刻みたい。レッズには8年前以上の成績を挙げ、ACミランに敗れた借りをFCバルセロナに返す、という大きな目標もある。

 チームの中心にずっと存在し、今の浦和レッズを作り上げるのに啓太が大きな役割を果たしてきたことは疑いようがない。2011年、チームをJ1に残留させた、この功労者がいなければ、翌年から今日までの4年間は違うものになっていたかもしれない。
「鈴木啓太」。その名前が選手やサポーターのモチベーションをかき立てる。

 22日(日)のリーグ最終節。笑顔で場内を一周する啓太を、大きな拍手で送ろう。お別れではなく、その後に待っている多くの試合へのスタートとして。

(2015年11月20日)

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