Weps うち明け話
#112
国共合作
「国共合作ってこういうことか…」

 上海の源深スタジアム。両チームの選手入場をメーン側のタッチライン沿いで待っていたら、正面に見えるバックスタンドで上海申花サポーターの大移動があった。
 それまではものの見事に二つに分かれて応援していた上海申花の球迷(サッカーのサポーター)たち。間違いなく僕から見て左が旧上海聯城(ユナイテッド)のサポーターだろう。そして右が旧上海申花のサポーターたち。じゃ右が主流派かというと、そう単純ではない。
 両クラブは合併したというものの、実質的には下位の聯城が上位の申花を買い取った形。しかし新しい名前は申花。だけど監督は旧聯城のヒメネス。一度ではよく分からない関係で、しかも旧2クラブの融合は決してうまくいっていないようだ。試合前日の監督記者会見で、中国人記者からはヒメネス監督に厳しい質問も飛んでいた。
 クラブやチームがそうなら、サポーターだって簡単には一つになれないだろう。Jリーグでも見ることがある「割れた」状態で試合前のコールをしていた。
 ところが、さあ選手入場だ、というそのとき、旧申花側から旧聯城側へ1人、また1人と走っていく。最後はなだれをうつようだった。
 何があって、誰が何を言ったのかはわからない。しかし2,000人以上はいたと思われるレッズサポーターのコールを聞いて、「ただでさえ、こっちの方が少ないのに、2つに分かれていてチームを勝たせることなんかできない。ここは行きがかりを捨てて、一緒にやらなければ」と感じたことは容易に想像できる。彼らが合併後ずっと分かれていたのか、最近そうなったのかは知らない(調べておこう)。
 でも強大な敵(レッズサポーター)に対して、諍いをやめて協力し合おうということになり、これが機会で彼らが今後もずっと統一して応援していくとしたら、4月25日は何と記念すべき日であり、レッズとの対戦がなかったら、ありえなかったことだろう。
 こういう話を戦争に例えてしまうのは良くないかもしれないが、第二次大戦中、中国国民党と中国共産党が、日本に対して統一戦線を組んだとされる「第二次国共合作」という言葉が浮かんでしまったのだ。

 しかし、そんなことよりも、あんな試合してちゃいかんじゃないか!レッズ。1人足りなくなってようやく火がついたか、と思ったのは僕だけか?
(2007年4月27日)
〈EXTRA〉
 シマちゃんとの対談の続きです。前回「ビッククラブ」が多かったらしく、恥ずかしい限り。

★ダイジェストの記者になる前は、自分でチケット買って試合に行ってたの?

島崎 駒場とかには行って見ていました。でもサポーターというよりは、試合を見るという感じでしたね。だからレッズだけでなく横浜とかにも見に行きましたし。

★お金出してサッカー見るのと取材で見るのは違いますよね。

島崎 ぜんぜん違いますね。記者席というのは周りが静かなんですよね。やはり職務上あまり公に喜べないというか、心の中で喜んではいても、冷静に見るじゃないですか。たまに大声を上げる人もいますけど。やっぱりバックスタンドやゴール裏で見ると迫力が違いますし、そういう意味ではお金を払った方が楽しんで見ていたと思いますね。

★そうだよね。お金を払うとスミからスミまで見逃すまいとするし、楽しみたいという気持ちがあるから、ノるよね。だから悪い試合だと金返せということになる。

島崎 そうですね。お金を払った試合で悪いプレーをされると腹が立ちます。そうした部分では違いますかね。

★この本を書こうと思ったきっかけは?

島崎 サッカーダイジェストを勤めているときは週刊誌をいかに良いものにするかということで仕事をしていましたが、フリーライターになるとどうしても目標が必要で、形として残るものがほしいと思ったのがきっかけですね。

★週刊誌だとほとんど休みもないから、1つのチームを系統的に見ることなんかできないものね。

島崎 それはもちろんありますね。自分の中ではやっつけ仕事にしたつもりはないですが、サイクルがあって必ず出さなければならない仕事をしていると、出してから不本意に思ったことも多々ありました。たとえばレッズに対してもここまで言わなければいけないのかということも脚色して書いた部分もありました。やっぱり読者に伝えるためにちょっと細かいことでも大きくしなければいけないところがあったし、それは雑誌としては“あり”でも個人的にはどうなのかなという部分がありつつ書いていたという感じですね。ちょっと厳しく書きすぎているという部分はもちろんあったと思いますけど、僕のスタンスとしては、ほかの雑誌の編集者さんとか、ライターさんとちょっと違うアプローチをしようかなと思っていましたけどね。

★レッズに良くなってほしいというのは感じることができたので、腹は立たなかったけど、「シマちゃん、ここまで書くかあ?」としょっちゅう思ってた(笑)。

島崎 よくレッズのサポーターの方に言われたのは、ただ批判するだけではサポーターも感じ入ってはくれない。やっぱりチームをいかに良くするかというのが大前提にあって、それはチームを愛している、愛していないに関わらず、建設的な意見でないと受け入れてもらえないということはありましたね。
一方、毎週買ってくれる人ばかりではないので、たまに目にしてもらって、僕の名前があまり浸透していないこともあったと思いますけど、ちょっと肩入れしすぎなんじゃないのとか逆に思われたりして。その辺の難しさはありました。

★週刊誌時代に書きたくても書けなかったこと。ちょっと書きすぎてしまったという不満足な部分があって、この機会に自分の思ったことを素直に書きたかったということ?

島崎 それももちろんあったと思います。ただダイジェストというのは本当に自由に書かせてもらったというのがありました。公的なものだとなかなか主観的な部分で書きづらいという部分があると思うんですけど、あの週刊誌は本当にそういう社風というか雰囲気がありましたね。よくダイジェストの人間はフリーになる人が多いとかよく言われますけど、もしかしたらそういう社風があの編集部にはあるのかなと思いますけど。

★マガジンの方が先にあって後発という意味では同じことをやっても仕方ないということはあるよね。

島崎 よく上司に言われたのは、マガジンは体制だと。ダイジェストは反体制でいるのが読者にアピールする唯一のものだと言われていました。それが良いか悪いかは別にして、そうした形で書いていましたね。
ただ先ほどの話ではないですけど、反体制だからといって批判しているだけでは誰も理解してくれないですから、その題材に対してしっかりと真剣に向き合いつつ書くことが重要なのかなと思っていました。
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