Presented by 埼玉縣信用金庫
Weps うち明け話
#121
ルール
 ルールというものの成り立ちには、いろいろな経緯がある。
 たとえば他人を傷つけてはいけないとか、他人のものを盗んではいけない、他人をだましてはいけない、などというルールは太古の時代から洋の東西を問わず、それも明文化されるまでもなく、当然のこととして認識されていただろう。
 一方、社会が発展するにつれて、ルールが必要になってきて、みんなで考えて合理的に決めたこともある。交通ルールなども、その代表的なものだ。だから国によって、交通ルールが違うのはある意味当然かもしれない。車が道路の右を通るのか、左を走るのか、という基本的なことはもちろんのこと、人が道路を横断していて車にはねられたらどちらに責任があるか、などというかなり重大なことも日本と他の国では違うようだ。それはルールを決めた国民の思考の違いなのだろう。また日本では、信号無視はそれ自体罰せられるものだし、白昼堂々とそれを敢行する人はあまりいない。しかし、事故らなければ信号を守らなくても構わないというムードの国があることを、今年体験した。

 あとから作り上げたルールは、決めてしまえばそれですぐに守られるとは限らない。それが習慣や常識を少し変えるようなものならなおさらである。
 たとえば禁煙。僕の子どものころから映画館は禁煙だったが、昔は平気で吸っている人が何人もいた。しかし今は映画や演劇、コンサートの最中にタバコを吸う人はまずいないだろう。時代とともに徹底されてきたのだ。
 また今は駅のホームでも喫煙所を除き禁煙である。こちらは映画館に比べれば厳格に守られているとは言い難い。数年前まではOKだったから、というのも徹底されない理由の一つだろうし、駅のホームは基本的にオープンエアーだから、というのも気分として「いいじゃないか」と思ってしまうのだろうか。地下鉄のホームで吸う人を見ないのは、そこが「室内」の感覚だからかもしれない。
 スタジアムもそうで、20年前のルールがどうだったか覚えていないが、たとえ禁煙だったにしても周りを気にするほど混んでいなかっただろうし、何よりもやはり煙が空に散っていくから「罪悪感」も少ないのだろう。それが今でも完全になくならない理由の一つかもしれない。

 受動喫煙の問題や、火事や火傷の危険性から言ってもスタジアム内の禁煙は理にかなったルールであり、守られなければならない。それ以外でも、Jリーグの試合運営上、必要なルールはあるし、それは守るべきものだ。
 だが理にかなっているかどうか疑問が残るようなルールを突然制定し、守れ!というのはいかがなものだろうか。
 Jリーグが始まったころ、チームや選手を応援する横断幕はそれほど多くはなかった。だから、どこのスタジアムでも試合運営に支障があったり、スポンサー名の露出を妨げたりすることがなければ、割と自由に張れていた。もちろん外した後に傷がついたりする張り方はNGだったが。それが、「ビジターの横断幕が張れるのはビジターサイドのゴール裏だけ」というクラブが増えてきたのはいつごろからだろう?これは、短い間とは言えそれまで習慣となっていたことを変えるものだから、「今年からこうなりました」だけでは済まないものだと思う。
 試合によってはメーンスタンド、バックスタンドのビジター側半分が真っ赤、という場合がある。僕はレッズ戦しか知らないが、他のカードでもビジターのファン、サポーターがメーンやバックのかなりの部分を占めるということがあるかもしれない。そんなときでも「あなた方のいるエリアでもダンマクを張れるのはホームのものだけね」と言うのが、スムーズな試合運営のために有効なことなのだろうか。

 2003年だか04年だかのある試合で、ホームクラブがそういう「ルール」は作ったものの、赤いメーンスタンドの前が空いており「空いているんだから張らせてくれ」とレッズサポーターが主張してすったもんだがあった。そのクラブのサポーターは、メーンスタンドを全部飾るほどのダンマクを所有していなかったのだ。ところが翌年は入場してみたら、その部分に文字も絵も書かれていない、ただ向こうのチームカラーの布が張られていて、唖然としたことを覚えている。
 レッズファン、サポーターがほとんどを占めているメーンやバックスタンドのフェンスにはレッズのダンマクが張れる、というルールを作れ、とまでは言えない。でも、どんなに真っ赤でもホーム側のダンマクしか張れない、というのも正しいルールとは思えない。基本的にその場所はホームとビジターのファンが混在するところだから、その割合や境界線などが微妙だ。そこを事前調査し、ホーム、ビジターのクラブ双方で協議して、その試合がスムーズに運営されるように努力するのが、クラブの役割ではないだろうか。一方的にルールを作ってそれで終わり。現状がどうあろうとルールだから守れ!と決め付けるだけでは努力したとは言えない。

 6月23日の日本平の件では、「初めに清水側のダンマクを外して自分たちのダンマクを取りつけたレッズサポーターの行為が騒ぎの発端だが、その後の事態の責任をすべてレッズのサポーターとクラブに負わせるのはおかしい」という見方もある。僕もそう思うし、清水のクラブが主催者としての運営責任について何ら言及していないのは、不思議に思う。
 だが、それと同時に、「メーン、バックはたとえビジターのレプリカで埋まっていてもホーム側のダンマクしか張れない」という「ルール」なるものが、騒ぎの発端の誘因となったことは間違いなく、ぜひこの機会にJリーグや各クラブ間で議論してほしい。
 今回、レッズのクラブはオフィシャルサイトやMDPで見解を出した。それは単なるお詫びではなく、今後のスムーズな試合運営のためにサポーターの立場にも立って努力していく、と前向きに宣言している。それにはクラブ対クラブという土俵の上でやるべきことも多いはずだ。
 「ルールだ、ルールだ」と言っても、それが「生類憐みの令」なら撤廃すべきだと思う。
(2007年7月13日)
〈EXTRA・1〉
 こういうふうに言うと「またレッズは『数の論理』かよ」という人がいるかもしれないが、「数の論理」とは数の多い方の意見がすべて正しい、というもの。僕が言っているのは、「数に応じて」ほしい、ということだ。

〈EXTRA・2〉
 「ルール」と言われても、それが現状に合わなければ改善するなり、その場で柔軟に対応するなりするべきだ。ただ、そう主張して説得力があるのは、他の守るべきルールをきちんと守っていての話。でなければ、自分に都合の悪いルールは守らなくてよい、と言っているように思われてしまう。そこのところは履き違えてはいけない。とりあえずは、スタンドでの喫煙をやめるところから始めようよ。
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