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Weps うち明け話
#138
ムラさん
 昨季までレッズのアカデミーセンター長として、下部組織育成と普及活動を担当していた村松浩さんが、今季から浦和レッズレディースの監督に就任する。

 ムラさんとの付き合いは長い。
 レッズが浦和に来るときに、当初の下部組織という位置付けで指導することになった浦和スポーツクラブのユース部門の監督として、当時三菱サッカー部のコーチだったムラさんが派遣されてきた。浦和スポーツクラブは91年の秋に発足し、92年の春から本格的にスタートしたから、レッズがナビスコカップでプロ初大会に臨む9月よりも早く、僕は村さんと顔を合わせていた。同クラブの発足時、僕は事務局の仕事をボランティア的に手伝っていたから(会社の仕事も少しはしろよ!)。
 その後、レッズのコーチとなり、サテライト監督を務めたこともある。埼玉県サッカー協会の指導者養成担当、日本サッカー協会のナショナルトレセン関東担当などを歴任している間も、レッズユース、レッズジュニアユースに気を配っていた。2004年にレッズユースの監督が諸事情で退任したときは、残りの期間を監督として現場指導にあたり、年末のJユースカップでベスト4まで進んだ。その後は育成部の統括責任者として総合的な指導に当たってきた。一昨年からはアカデミーセンターという組織ができて位置付けがさらに強まり、その初代センター長に就任した。

 何度も言われているが、レッズが下部組織をプロ選手育成の場として本格的に位置付けて、活動を方針を大きく転換したのが2002年だ。体制を強化しよう。小学生年代から選手をスカウトしよう。ジュニアユースからユースに全員上がるのではなく、プロ候補としての可能性がある選手に絞ろう。中学校や他のクラブチームからも優秀な新高校1年生をユースに勧誘しよう。選手にプロを目指す意識を徹底させよう。サテライトの練習や試合にユースの選手を積極的に参加させよう…。
 1年をかけてそういう準備をしたから、クラブとしての変革は2002年でも、下部組織がそういうシステムで走り出したのは2003シーズンからだった。この6年間は、ある意味で過渡期だったともいえる。この期間にもユース、ジュニアユースの選手たちは頑張ってきたし、トップに昇格した選手もいた。J2やJFL、関東リーグ、大学で活躍している選手は多い。もしトップチームがこれほどハイレベルでなければ、もっと昇格した選手は多かっただろう。しかし今年は、2003年にジュニアユースに入った選手がユースの高校3年生になり、レッズの下部組織はすべて新方針の下で育ってきた選手たちだけになる。過渡期は完全に終了した。そう思うと、下部組織の育成という仕事に長い時間がかかることをあらためて実感する。

 6年前から始まった努力が、花を咲かせようというとき、その第一人者であったムラさんが、下部組織の担当を離れるのは、心残りもあるだろう。特に今年の高校3年生にはU−17日本代表としてアジアの大会、世界の大会に出場した選手が多くいるし、そうでなくても実力的に彼らと遜色のない選手がひしめいている。その選手たちが最後の1年で、プロへの階段をどう昇っていくのか、あるいはユースのうちから二種登録選手としてトップに出場することもあるのか。その過程にムラさんも直接関わりたかったに違いない。
 とはいえ、浦和レッズの一員であることには違いない。レディースの監督という、これまでとは畑の違った仕事を任され、初優勝という大きな目標に挑戦することになるが、下部組織やトップの動向にも必ず目や耳を向けているはずだ。
 ムラさんは、高い峰に到達するにはどういう道筋をたどらなければならないかがはっきり見える人だ。同時に現在の自分たちの力を過不足なく認識できる人だ。だからチームの何が武器で、何が足りないかを的確に把握できる。いつかレッズレディースを、ベレーザとの優勝争いに導いてくれるに違いない。そこでの仕事を取材しながら、たまにユースのことを語り合って楽しむ。今季はそういう付き合いになりそうだ。

 ムラさんが耕し、種を蒔いてきた畑の大豊作と、新しい土地への鍬入れが成功することを祈ろう。
(2008年1月30日)
〈EXTRA〉
 つぶやき。
 素質のある若手や少年のことを「金の卵」ということがあるが、この「金の卵」とイソップ童話に出てくる「金の卵を産むガチョウ」の「金の卵」とは全然別のものだ。
 若手を指す「金の卵」は、将来大物になったり才能を開花させるであろう人のこと。つまり今は金ではなく、将来金になる卵、ということだ。一方、イソップの「金の卵」は、金でできている卵。将来金になるのではなく、そのままで大きな金銭的価値があるものだ。まったく異なるもののはず。
 しかし前者の「金の卵」という表現は、もともと高度経済成長時代、地方から都会に集団就職で出てくる中学卒の若者たちを呼んだ言葉であって、個人を指して「将来の大物」という意味では使われていなかったはず。斜めに見れば、経営者にとって「金」を生んでくれるありがたい労働力、という裏の意味があったのかもしれない。
 だから、「あいつはレッズの将来を担う、金の卵だ」という表現をするのは、もしかしたら間違いなのかもしれない。言葉が時代と共に変化することは百も承知だが。
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