Weps うち明け話
#142
レプリカ
 いつの間にか3月。Jリーグ開幕が目の前だ。試合以外の話は今のうちにしておかないといけない(そんなことないが)。
 グアムキャンプ中の話。
 2月23日にグアム代表とレッズが練習試合をしたことは報道されている。その話を聞いたとき、土産にグアム代表のレプリカユニフォームを買っていこうと思い立った。だけどスポーツショップに行ってもそれらしいものがない。試合日の前日、レッズの練習を見に来ていた築舘範男代表監督(日本の人です)に尋ねてみた。

「あのぉ…、グアム代表のユニフォームのレプリカって買えるんですか?」
「…(一瞬、迷った様子)…、うーん、買えますよ」
 何だろう?この間は。
「ベースの色は何ですか?」
「青ですね」
「そうですか。じゃあ大きいスポーツショップに行けばありますか?」
「いやいや(きっぱり!)。そこにはありません。1ヵ所だけ買えます」
 変だな?
「その店に行きたいんですが…」
「えーとね。○○○○○○(目印のマーケットなどを言って道を教えてくれる)。そこに看板とか出てないけど、コリア(韓国人)がやってるサッカーショップがあるから」
「そこへ行けばあるんですね」
「あるというか…。何着いるんですか?」
「友達へのお土産なので4着ほど」
「試合のときに持ってきてあげてもいいけど…4着かあ」
「いや、とんでもない。買いに行きますよ。ところでメーカーはどこですか」
「アディダスもどき、かな」
 もどきぃ?
「…ちゃんとした店なんですよね?」
「もちろん、そうですよ。でも主人は出かけているかもしれません。そういうときはドアに張り紙がしてあって、携帯電話の番号が書いてあるから、電話すると『あと何分で帰る』とか返事しますよ」

 どうも怪しい感じだが、買えるというのだから午前練習と午後練習の合間を縫って行ってみた。幸い、泊まっているホテルからは車で10分程度のところだ。ようやく左ハンドル車に慣れて、曲がるときにワイパーを動かさないようになったころだった。
 言われた辺りを通った。道の反対側にサッカーボールの絵が見えた。どうも、そこらしい。Uターンして車を停め、店の前に立つと「ONLY SOCCER STORE IN GUAM」と書いてある。オンリィ?すごいな。ドアを引いたが閉まっている。やれやれ電話するのか、ボディランゲージが使えないから電話は苦手だな、と思って車に電話を取りに戻ったとき、ドアが中から開けられ、年の頃は60歳くらいの韓国人らしいオジさんが顔を出した。胡散臭げに僕を見る。白いTシャツ(というよりはアンダーウェア)とズボンだった。

 以下は全部英語での会話だが便宜上(正確さに自信がないので)日本語で書く。
「サッカーのグアム代表のユニフォームが欲しいんだけど」
「そうか、入りなさい。あんたは選手か?」
「(笑)とんでもない。日本のチームがキャンプに来ていて、明日グアム代表と練習試合をやると聞いて、ユニフォームを土産に欲しくなったんだ」
「わかった。サイズは?」
「Mで4着欲しいが」
「4着…?わかった。で、何色がいい?」
 なにぃ?何でそんなことを聞く?
「…青って聞いたけど?」
「青か、わかった」
 店のようすを説明しておくと、いわゆるスポーツショップのイメージはゼロ。アパレル関係の倉庫というか、クリーニング屋の工場というか、Tシャツやポロシャツがハンガーにかけられ所狭しと置いてある。確かにサッカーユニフォームもあったが、置き方に何の脈絡も感じられない。段ボールに入ったままのものもある。オジさんは、白地に青い襟のポロシャツを持ってきた。
「これでいいか?Mサイズだ」
 これでいいかって、これLOTTOじゃん!
「アディダスって聞いたけど…」
「いいや、問題ない」
 いや問題なくはないだろう!それに何のエンブレムも入ってないじゃん!
「これ、本当にグアム代表のユニフォーム?」
「こっちへ来なさい」
 オジさんは店の奥の方へ僕を連れて行った。作業場のようだ。そこで丸いシールのようなものを出してきた。
「これをプリントしてあげるから、問題ない」
 そのシールには「GUAM FOOTBALL ASSOCIATION」と書いてあった。
「これをプリントすればいいだろう。LOTTOは高いけど、25ドルにしてあげる」
 グアムの物価はビール以外は日本より高いくらいで、LOTTOのポロシャツが25ドル(3千円弱)なら確かに高くはない。
「でも本当のユニフォームはアディダスなんでしょ?」
「これで問題ない」

 なるほど。あのとき築舘監督は「このチームにはスポンサーなんてつかないからね。そこのオヤジが適当に見繕って作ってくれるんです」と言っていたが、こういうことか。デザインはもちろんメーカーもそのときそのときの在庫の都合で、まちまちなのだろう。僕が最初に尋ねたときの「間」の理由がわかった。
「わかった。それでいい。4着ください」
「15分くらい待ってくれ」
 グアムサッカー協会のエンブレム(らしきもの)を圧着している間にいろいろな話をした。オジさんはずいぶん前からグアムで商売をしているらしいが、韓国のサッカー界の情報もある程度得ているようだ。
「去年、ACLで2回韓国へ行きましたよ。チョンジュとソンナム」
「おおそうか。そういえば去年は、韓国のウルサンが日本へ行って試合をしたな」
 ウルサン?来たっけ?
「どこと試合をしたの?」
「なんて言ったかな。大阪のチームだ。ウルサンが勝ったよ(自慢げ)」
 そりゃ、一昨年のACLだろう!オジさんの情報はやはり「ある程度」だった。
「違う、違う。そりゃ一昨年だ。去年はウチのチームがACLで優勝したの!」
 ちょうどACL優勝の記事が載っているMDPを持っていたので、見せてやった。
「おお、そうだったか。ウラワね。ウラワ」
 うーむ。まだ、このオジさんの耳に届くほどレッズはビッグになっていないようだ。
 そうこうしているうちにエンブレムの圧着は終わった。僕は店に飾ってあったTシャツを何点か物色していた。
「全部、5ドルでいいよ」
 5ドル!そりゃ安い。僕は4着ばかりTシャツを選んだ。
「だいぶ待たせたから、それとそれはプレゼントだ」
 Tシャツ2着をタダにしてくれた。気前がいい。
 帰り際に名刺をくれた。
 Guam韓人蹴球協会会長という肩書きがあった。すごいな。グアムに韓国人のサッカーファンが何人いるのか知らないが。
「またグアムに来るか?」
「来年、またクラブがキャンプをやれば取材に来るかもしれない」
「そのときは、ぜひまた寄ってくれ。あんたはもう友達だ」
「ありがとう。今度は僕がプレゼントを持ってくるよ」
 来年、グアムに行くときはレッズのステッカーやMDPを持っていこう。そこには2008ACL優勝のMDPもまぜたいものだ。
(2008年3月6日)
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