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Weps うち明け話
#157
あの感触
 「あの感触はずいぶん久しぶりだったですからね。いつからだろ?」
 そう岡野雅行は言って、遠くを見るような目をした。10月26日の東北電力スタジアムビッグスワンで、新潟に1−0で勝ち、約1か月ぶりの白星を挙げた試合。岡野は後半ロスタイムに出場し、J1リーグ通算300試合出場を果たした。ピッチにいた時間は2分足らずだった。第13節、5月17日のガンバ大阪戦で299試合に達したあと、リーグ戦での出番はなし。時にはベンチからも外れた。リーチから17巡目でようやくアガリ。といっても本人はこれがアガリだとは思っていない。300という区切りだから、早くすっきりしたかったようだが、あくまでも通過点。これからも毎試合、出場することを目指して準備をするだけだ。

 さて新潟戦で岡野が呼ばれ、タッチライン沿いにスタンバイしたのは後半44分。しかし、なかなかボールがアウトにならなかったり、なっても新潟のCKだったりして、入るタイミングを待っていた。試合は1−0で勝っている。僕は、試合がこのまま早く終わってほしいと思いながら、岡野がこのままピッチに入れずに終わったらどうしよう、という複雑な気持ちだった。結局、ロビーと交代できたのはロスタイムを2分過ぎた後。入ってすぐに守備に追われ、相手のクロスをカットする場面やラフプレーで警告をもらう場面もあり、出場した確かな足跡も残した(笑)。
 だが、どう見ても時間稼ぎとしての交代。僕たち(MDP編集者)も、いつかいつかと待ちわびていた記念すべき300試合目が、こんな形で実現していいの?本人は納得してるの?とちょっと心配だった。

 試合後、選手たちがスタンドに挨拶に行く。バックスタンドの次にゴール裏。この時間が結構大変なのだ。選手たちがどのあたりで並ぶか予想するのが簡単ではないし、写真を撮っているのは自分1人じゃないから、いつでも好きな場所に陣取れるわけじゃない。サポーターが選手に声をかけるのに、あまり邪魔になるようなところにはいたくない。ある程度、このあたり!と決めてスタンバるしかないのだ。
 その日僕がいる真正面に岡野がいた。手を上げるその顔はスッキリした笑顔だった。どうなの?作り笑いじゃないか?本当は納得してないんじゃ?
 でも考えたら、300試合そのものを、大事な目標としていたわけではないから、300試合なのに!などと岡野が思うはずはないのだ。もちろん試合に出るときは、大事なピースとして出たいし、長い時間プレーしたいというのは常にあるが、それがかなえられないからといって、不満を顔に出すことはない。岡野のあの晴れ晴れとした表情は、純粋に「あの感触」を楽しんでいたからだ。

 あの感触。勝った試合で最後までピッチに立っており、サポーターと勝利の喜びを分かち合う。あのカメラマン泣かせの、時間のことだ。もちろん僕たちにとっても久しぶりだった。9月21日の大宮戦、24日のアルカディシア戦に勝って以来の勝利だったのだから。
 だが岡野が出ていた試合で、となるともっと前にさかのぼる。調べてみた。岡野が最後まで出ていて勝った試合。あった。3月30日、Jリーグ第3節。今シーズン、ゲルトが指揮を執るようになって初めてのリーグ戦だった。相手は?あ、アルビレックス新潟。因縁かな。
(2008年10月31日)
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