Weps うち明け話
#180
報道と浦和レッズ(2)
 #177の続き。前回、「続く」と書いておかなかったから、違和感あったみたいですみません。

 スポーツ紙やサッカー雑誌にレッズが頻繁に取り上げられるようになり、さらにインターネットの掲示板への書き込みが増えるのに連れて投稿が減ってくるようになって、MDPの作り方を変えていったことまでが前回の話だった。だが今回のコラムで言いたいのは、MDPの製作苦労話ではないので、念のため。

 インターネットの進化は、浦和レッズをめぐる情報環境をさらに変えていくことになる。
 まずはサポーターのフィールドから見ていくと、巨大掲示板は発展しつつも、個人が自分のサイトを作り、そこで自論を披露していくということが増えてきた。また、ある意味では玉石混交のフリー掲示板よりも、旗幟鮮明な個人サイトの方が読む人にとって「ハズレ」が少ないということもあるし、そのサイトにコメントを書き込めば、かみ合う議論ができるということもある。

 そしてレッズをめぐる報道の環境も変わってきた。
 数年前まで、レッズが自ら情報発信する媒体=オフィシャルメディアは、速報性に欠けるMDPと、取材力がほとんどないホームページだけだった。したがってクラブが伝えたい状況は、マスコミに協力を求めるしかなかった。しかしここ数年、レッズモバイル(オフィシャル携帯サイト)、レッズトゥモロー(埼玉県内の朝日新聞に折り込み)などがきちんとした取材・編集体制とともに作り上げられてきたことにより、レッズのオフィシャルメディアは質、量ともに一気に拡大した。また携帯電話の機能充実と普及、家庭でのインターネット環境の充実などにより、情報の受け手の態勢も整ってきた。

 今やクラブが伝えたい情報は、自前の媒体でかなりの部分が行き渡るようになってきた。
 クラブが伝えたいことと、ファン・サポーターが知りたいことは必ずしもイコールではない。イコールで結ばれる部分は、たとえばチケットに関する情報、試合日程、試合でのイベント情報などだろう。そしてここ数年の大きな変化は、そのイコールで結ばれる部分が増えてきたことだ。すなわち、ファン・サポーターが知りたいことを、クラブがどんどん流すようになってきたのだ。
 毎日の練習の内容、練習後の選手のコメント。試合内容の速報、試合後の監督・選手のコメント。キャンプ情報、こぼれ話などだ。さらに今季に入り、フィンケ監督の記者会見が非常に多くなった。これまで監督への取材は、公式戦後に記者会見という形で行われたが、それ以外の練習後などは、週に1回程度グラウンドの片隅で立ち話での囲み取材がほとんどで、時間にしても10分か15分程度だった。しかしフィンケ監督はかならず室内で着席して行う、完全な記者会見だ。時間も10分で終わることは滅多になく、30分を超えることもしばしばある。回数も多く、数えてみたら、1月10日の新体制発表会見を皮切りに4月8日までに27回の記者会見を行っている(27回に公式戦後の会見6回は含まれていない)。これに3月2日の「Talk on Together」もある。この監督会見の内容も、ほぼ一言一句もらさずホームページとオフィシャル携帯サイトにアップしているのだ。

 練習内容、試合内容、選手のコメントや監督会見の内容は、オフィシャル媒体によって、ファン・サポーターに伝達されることが普通になってしまい、そのままではネタとしての新鮮味がなくなってしまったのは、マスコミにとっては厳しいことかもしれない。しかし情報をめぐる環境がそういうふうに変わってきたのだから、マスコミの報道内容も変わっていかざるを得ないだろう。日進月歩で変わっていく社会で、変化に対応しなければ仕事がやっていけないのは、マスコミだって同じはずだ。
 練習内容を見て想定されるチームの変化、あるいは次節の展望。選手、監督のコメントから導き出されること。オフィシャル媒体に載っているのは、ほとんど手が加わっていないナマのものなのだから、同じ材料を使って料理するのが外部の報道機関の役割になってくる。その結果レッズに対し、好意的なことも批判的なことも載るかもしれないが、それは各媒体の個性であり、競争だろう。
 今季はそういう記事が増えていくのが楽しみだ。そして、こういう環境の変化は何もレッズに限ったことではないというのも楽しみの一つだ。
(2009年4月10日)
〈EXTRA・1〉
 クラブがマスコミに依拠する部分はまだまだ大きい。レッズファンではない人に「今季のレッズは面白そうだから見に行こうか」と足を運んでもらうことはオフィシャル媒体ではできない(レッズトゥモローにはそういう役割もあるが)。もちろん都合の良い記事ばかり期待するのは虫が良すぎる。そこがクラブスタッフの舵取りというやつだ。
〈EXTRA・2〉
 レッズのオフィシャル媒体が充実することによって、MDPも厳しい状況に置かれている部分がある。クラブから発信する情報の多くは、MDPを読む前に知っている人がほとんどだと考えれば、前節の試合後の選手コメントなどは内容的にダブってしまう。他のサッカー雑誌とも違い、他のオフィシャル媒体とも違う、MDPのオリジナリティをどこで出していくか。対応していくのに終点はない。
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