Presented by 埼玉縣信用金庫
Weps うち明け話
#186
美酒の苦味
 酒が好きだ。レッズとどっちが好きか選べ、と言われると困るくらい好きだ。僕にとって酒とレッズは似ているのかもしれない。

 初めてビールを飲んだとき、決してうまいとは思わなかった。炭酸が強く、そして苦い。コーヒーは中学生のころからブラックで飲んでうまいと思っていたが、あれはたぶん香りが苦さを上回っていたからだろう。ビールの苦さは文字どおり苦手だった。そのときの年齢?それは覚えていない。
  よく「酒は何が一番好きですか」と尋ねられるが、ビール、ウイスキー、日本酒、焼酎、ワインといった酒の種類で、何が一番好き、とは言えない。決して格好つけているわけでなく、ビールなら○○、ウイスキーなら□□、日本酒なら△△、焼酎なら◎◎、ワインなら▽▽と好きな銘柄が複数あり、それも何を食べるときならこれ、気分的に高揚しているときならこれ、ムカついているときはこれ、あるいは人と深刻な話をしながら飲むならこれ、1人でしみじみ飲むならこれ、とTPOによって飲みたい酒が違う。
  だから「いま一番飲みたい酒は何ですか」と聞かれれば、「冷えた天狗舞」とか「ワイルドターキーをストレート」とか「バローロ。冷やさなくていい」などと答えられるが、「酒は何が一番好きですか」という問いには答えにくい。
(うわ。これが他人の文章だったらキザったらしくて、自分が読んでて引くな、きっと)
  だけど、「酒は何を一番多く飲みますか」と尋ねられれば、おそらくビールだろう。まず手軽だ。居酒屋などでなく、食事のついでに少し、というとき、日本酒やウイスキーは置いてなくてもビールは置いてある店が多い。自宅で飲むにしても、コンビニで買ってすぐ飲める。それにアルコール度数が高くないから昼食のついでに一杯飲んでもそのあとの行動に影響は少ない(飲酒運転はしないよ。念のため)。さらに複数で飲むとき、最初はまずビールということが多い。そういうわけで僕の場合、量としてはビールの消費量が一番多いのではないかと思われる。

 だから「優勝するまでビールを断つ」というのは、僕としてはそれなりに意味があった。一番身近な酒を断つわけだから。最初にビールを断ち始めたのは2001年の9月。解禁までけっこう長かった。02年の11月4日に飲めるかと思っていたらお預けで、結局03年の11月3日の夜に浦和駅東口の居酒屋で飲んだ祝杯が、久しぶりのビールだった。
  うまかった。試しに1年間ビールを断ってみるといい(できれば解禁するのは夏がいいけど)。
  2年と1か月ちょっとぶりのビール。レッズ発足以来11年目にして初めての優勝。「空腹は最高のソース」という言葉があるが、僕にとってはダブルの「空腹」だったわけで、たぶんあんなにうまいビールはこれからもそうは飲めないだろう。
  ただし苦味はあった。今でこそビールは苦味があるからこそうまい、と思っているが、それとは違う苦味。優勝した直後の記者会見で「今季限りで監督を辞める」とオフトが宣言したことが原因だった。当時のクラブの、自分に対する扱いを腹に据えかねてのことだとは理解できる。だけど、あなたはそれで胸がすくかもしれないけど、2年以上ビールを我慢した俺の…、じゃなかった。11年間、優勝を待ち望んできたサポーターの気持ちにもなってくれよ。せめて今晩くらいは気持ち良く酔わせてくれてもいいじゃないか。オフトに対する感謝の気持ちと恨みがましさが同居していた、その夜の僕だった。

 だけどいま考えてみると、その日のビールには、もう一つ隠し味、ならぬ「隠し苦味」があった。そのときだけではない。04年のステージ優勝や、05年の天皇杯優勝、06年のJリーグ優勝、同天皇杯優勝、07年のACL優勝と、何度も味わった勝利の美酒には、そのときには気づかない苦味が隠されていた。
  多くの選手を移籍で獲得し、その力を最大限に発揮する。そういう方法でのチーム強化がなければ、あの短期間であれだけの数のタイトルは手に入らなかっただろう。とにかく長い間待ったファン、サポーターとホームタウンに優勝の喜びを、という目標達成のためには、当時として取り得るベストの方法でチーム強化を図ったわけだが、それは同時に将来どこかで強化のサイクルが止まってしまう可能性を包含していたのだ。当時は、周囲から「あんなサッカーで」と言われても「どこが悪い?」と思っていた。優勝しているときには、その美酒のうまさで隠されてわからない苦味だった。

 優勝という「旨み」がなくなって初めて、その苦味の要因がクローズアップされた08年。レッズは翌年から根本的に強化の方法をやり直すことにした。そして、結果も少しずつ出ている。タイトル獲得が最大の目標ではなく、チームの成長を最大の課題としたシーズンでも、優勝の可能性がないわけではない。今回は1試合の勝利というだけでなく、ナビスコ杯予選リーグ突破という、はっきりした前進があった。7年ぶりの決勝進出、6年ぶりの優勝への扉を一つ開けた。ナビスコ杯優勝はチームの終着点ではなく通過点だ。ただし決勝トーナメントを勝ち進むことによって得る自信、経験は、成長を加速させるに違いない。

 11月。もしナビスコ杯で優勝し祝杯を挙げても、僕はいまビールを断っておらず、久しぶりだから、といううまさは味わえない。それだけに本当の美酒の味がわかる。そこには何の苦味も隠れていてほしくない。
(2009年6月15日)
〈EXTRA〉
 「清尾さん、藤口さんは磐田戦の前に埼スタに来てましたよ」と言われた。#185のEXTRAで、藤口さんが「レッズ戦を生で見るのは、4月18日の京都戦以来だったはず」と書いたが、そうではなかったようだ。
  今年のレッズでは、うまい酒が飲めている。その試合を振り返って面白く、次の試合を予想して楽しく、数か月後を想像してワクワクする。そんなシーズンをスタートさせてくれた2人と乾杯する会に、あなたもぜひどうぞ。
http://thanks2009.web.fc2.com/
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