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Weps うち明け話 #1018

満を持して(2020年4月1日)

 

 大変な状況で4月1日を迎えますが、新年度もレッズに関する話を書き続けます。よろしくお願いします。

 

「満を持して」という言葉はよく聞かれる。

 今季のレッズにこの言葉を使うと「?」と受け止める人もいると思うが、僕はかなりの部分で当てはまると思っている。今日はそんな話を書きたい。

 

 まずは土田尚史SDが12月8日、公式サイトに載せた就任の言葉のこの部分だ。

 

「(前略)さらに、現在の浦和レッズには、チームをどうしていくかという中長期的なビジョンと、チームがどう闘うかという一貫した変わらないコンセプトが必要です。それが監督を選ぶ基準、選手を評価する物差しになります。それがないと、監督によってサッカーをまた一から作っていくことになります。これまで何度となくそういうことを繰り返してきました。(後略)」

 

 ファン・サポーターの中には、何を今さら、と感じた人が多かったに違いない。だけど振り返ってみると、これまでクラブ自身がこう述べたことは一度もなかったはずだ。

 タイトルを獲得したことは少なくないが、それが続かないのは、クラブに中長期的なビジョンがなかったり、あってもトップが替わると簡単に変わってしまったり、監督主導のビジョンだったりしたことが要因だったと思う。

 28年間の全てが間違いだったわけでなく、そもそも試行錯誤というのは成功のために必要な部分もあるから、これまでの歴史を否定はしない。だけど歴史を振り返ればわかる。

 

 レッズがビッグタイトル(国内三大+ACL)を獲ったシーズンが、03年、05年、06年、07年、16年、17年、18年と7シーズンある(06年は2冠だからタイトルは8つ)が、このうち05年を除いて「タイトルを獲ったときの監督が翌年指揮を取っていないか、途中交代している」というのは、どう見ても不自然だろう。

 ファン・サポーターが「おかしいだろう」と思っていることを、初めてクラブが「おかしい」と言った。それは「何を今さら」とスルーするのではなく、「やっとかよ」と言いながらも前進と見ていい。

 これを「満を持して」と表現しても許されるだろう。

 

 もう一つ。サッカーの継続ということについてだ。

 この言葉がクローズアップされたのは、2010年、フォルカー・フィンケ監督との契約満了が発表されたころではなかったか。

 09年から2シーズン指揮を執ったフィンケ監督は攻撃的なポゼッションサッカーを重視。選手たちは速いパスワークとそれを受ける速い動きが求められ、レッズのサッカーはそれまでと大きく変わった。09年の開幕前に非公開で行われた練習試合で、相手チームの広報担当は「レッズにあのサッカーをやられたら…」と絶句したという。

 

 実際、開幕戦こそ鹿島に敗れたが第2節から9戦無敗(7勝2分け)で首位にも立った。残念ながら、かなりの運動量を必要とするサッカーは7月から8月にかけて7連敗を喫するなど失速。秋以降はやや盛り返し最終的に6位で終わったが、95年の堅守速攻(オジェック監督)、02年の厳しい規律(オフト監督)に続き、久しぶりに「レッズのサッカーはこう」とはっきり見えるものができた時期だった。

 

 フィンケ監督との契約満了を発表する当時の橋本光夫クラブ代表は、こう述べている。

 

「(前略)フィンケ監督には、『レッズスタイルの構築』というチーム変革に2年間にわたり取り組んで貰い、いくつもの成果を挙げました。(中略)2011シーズンはこれまで進めてきた『レッズスタイルづくり』の次のステージに踏み出していきたいと思います」(2010年11月29日公式サイト)

 

「中略」の部分は同監督が挙げてきた成果と、マイナス面として夏場に勝点を伸ばせずファン・サポーターの期待に応えられなかった、ということが述べられている。これを読んだ人は、サッカーのスタイルは継続して勝てるチームにしていく、ということを期待しただろう。

 しかし翌年のゼリコ・ペトロヴィッチ監督は、決してパスワークを軽視したわけではないが、それぞれの選手が自分のポジションで対峙する相手に勝つことを重視した。ある中盤の選手が「自分はなぜ出られないのか」と監督に質問したところ、「自分のポジションのエリアからあまり動くな」と言われたという。ボールに合わせて全員が動く、という前年までとはだいぶ違っている。

 

 個々の監督の戦術を云々する気も資格もないが、前年までとの違いくらいはわかる。

「スタイルの構築」ということからすると路線転換なのか、とある強化担当者に聞いたところ、「変わってはいない。受け身ではなく自分たちからアクションを起こす、というスタイルは同じ」という返事だった。

 

 詭弁か、とムッとしたのは一瞬で、それはうがった見方だと思った。

 つまり、レッズはこういうサッカーのスタイルで行く、とクラブが考えているのは「自分たちからアクションを起こす」ぐらいまでであって、それより先のことは監督に任せる、ということなんだなと納得した。

 たしかにクラブがシステムなり戦術なりを含めたある程度具体的な部分まで枠を作るのか、大枠を定めておいてその範囲で監督と協議していくのか、その線引きは難しい。しかし前監督のサッカーが浸透してきた中で、まるで違う動きを求められるのは選手もきついだろう。そんなことを考えているうちに残留争いになり、何とか15位に踏みとどまったのが2011年だった。

 

 結局、そのことの総括がどう行われたのか明らかにならないまま、2012年は「クラブの信任回復とチームの再建、再生を目指し」「実績と経験があり、引き出しの多い監督に任せるしかない」(12年1月17日のミハイロ・ペトロヴィッチ就任会見)として、ミシャ監督にチームを託した。

 そして5年半の間に、ミシャ監督の戦術が「レッズのサッカー」と呼ばれるようになり、リーグ戦での優勝争いやルヴァンカップの優勝など、再び「強豪チーム」の仲間入りをした。

 

 すごく乱暴な言い方だが、レッズはこれまで危機的な状況になると「スタイルの継続を云々しているときじゃない。とりあえず勝てるチームに」と緊急避難的な手を打ち、比較的順調なときは「よし、これがレッズのあるべき姿だ」と現状に満足して、今後スタイルをどう継続していくか、そのために次期監督候補には誰がいいか、という政策を準備してこなかったのではないか。

 

 昨年12月13日に行われたレッズの新強化体制記者会見で土田SDはこう言っている。

 

「我々が抱えている課題は、一貫したコンセプトの不在です。そのチームの柱となるべき一貫したコンセプトがないため、監督選び、選手選びの基準、サッカーのスタイルがその都度変わり、短期的な結果を求め、求められ、今まで来ました。『浦和レッズのサッカーは何なの?』と問われたとき、答えられない自分がいました。これからはチームの方向性を定めて、来シーズンからスタートすることが最も重要だと考えています」

 

 チームの柱となるべき一貫したコンセプトをクラブとして定めることが大事、としたのはこれが初めてだと言っていい。

 過去は、監督を決めてから「これで行く」としたもので、長続きはしなかった。今季、大槻監督が続投したのは「コンセプトの共有ができたから」だというのが、本来のあり方だろう。

 

 これでうまくいくかどうかは別問題として、クラブ主導でサッカーの継続性を大事にしたチーム作りが、満を持して始まったと思う。


(文:清尾 淳)