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Weps うち明け話 #1022

今だからできる前向きなこと(2020年4月15日)

 

 今は4月15日(水)13時。2か月前は何をしていたか、ふと考えてみた。

 あの日の昼過ぎは、翌日のルヴァンカップ仙台戦MDPの最終チェックに追われていた。沖縄キャンプ中にできていたものもあったが、直前にならないと取りかかれないものも多く、さらに26日(水)にルヴァンカップ第2節の松本戦、3月1日(日)にJリーグ第2節の広島戦を控えていたので、その分のMDPも進めておかなければ連戦を乗り切れなかった。

 そんな次の2号分の段取りも考えながら、直近MDPのフィニッシュにかかっていた2月15日(土)の昼過ぎだった。

 

 今季、1度だけの発行で止まっているMDP 581号の表紙は西川周作だった。

 今回のように、シーズンの開幕がホームゲームの場合、少し悩むのは表紙の写真だ。

 誰を持ってくるにせよ、新しいユニフォームの試合写真はない。昨年の試合写真? いや、それはない。

 残る可能性は「練習中の写真」「新ユニフォームを着てもらって特別に撮影」「練習試合(練習試合用のユニフォーム)の写真」ぐらいかな、と考えていたが、どれも決定打にならなかった。そんな中、沖縄キャンプ中に、西川がテレビの撮影のためにボールを何回か蹴るということがあった。それをオフィシャルカメラマンの神山陽平さんが、芝に這いつくばって撮ってくれた写真を見て、それに決めた。

 ユニフォームではないし、練習着もまだ今年のものを使用していない。そして練習中や練習試合中でもない。それでも西川の表情と、空中に浮いたボールをまさに蹴らんとする体勢の格好良さに惹かれるものがあった。テレビの要請で蹴ったシーンではあっても「この瞬間の周作はマジ」。それが伝わってきたのだ。

 

 西川周作は30分のインタビューでも、立ち話の囲み取材でも、基本的に依頼された取材を断わらない。ほとんどの選手もそうなのだが、西川の場合は「取材を受けるのが好き」という雰囲気さえある。本人も「僕、自分が大好きですから」と冗談めかして言うほどだ。

 そんな西川だが、試合の翌日、試合に出た選手がリカバリーだけで早く練習を上がる日は、あまり取材を受けない。「すみません、明日でいいですか」と申し訳なさそうに断わる。それでも、今日話を聞かないと間に合わないから、と頼むと、決して渋々ではなく応じてくれるのだが。

 疲れているからではないと思う。おそらくだが、大原から早く帰れるときは、すぐに帰宅して家族との時間を大事にしたいのではないか。

 

 どの選手も家族を大事にすることはもちろんだが、西川はその中でも群を抜いていると思う。チームメートとのコミュニケーションはしっかり取っているが、特別なことでもなければ一緒に外で食事することはあまりない。家族と食事するからだ。キャプテンになって、どうしていきたいか、と質問したときも「僕の場合はこれまでご飯をみんなで食べることをしてこなかったので、キャプテンが呼びかけて食事会をするのはあまりないかな、と思っています(笑)」と語っていた。

 たまに練習が2日続けてオフになると、家族で温泉に行くか大分に帰省したりする。「連休」というのは直前になって知らされることが多いのだが、西川ぐらいのベテランになると、試合の日程やチームの調子などから判断して「この辺りで連休が来そうだ」とかなり確度高く予想ができるから、前もって家族には準備させておくそうだ。

 

 そんな西川だから、この長いオフをどう過ごしているのだろう。まさか大分には帰っていないよな、と思っていたら、4月13日(月)のテレビ会議記者会見の選手が西川だった。

 

 どうも大分への帰省はしていなさそうで、良かった(笑)。

 全体として印象に残ったのは「前向きに」「今だからできること」という言葉だった。西川のポジティブ思考は有名だが、この事態でどう前向きになっているのか、と思ったら「ふだんあまり取れなかった家族との時間ができている」ことを、今だからできる前向きなこと、ととらえて大事にしているようだ。この発想が周作イズムなのだろう。

 

 そしてもう一つ。今季は降格がなくなったことで「僕が監督だったら若手を使うチャンスだと考えるから、ベテランには危機感がある」という考えを示すと同時に「自分たちベテランが、危機感を持ちながらトレーニングを積むことによって、チームのレベルアップにもつながると思う」と、若手に負けないという決意を示した。

 一般的には、降格の恐れがないシーズンになれば、監督は思いきった選手起用をする際の懸念が一つなくなるから、若手を積極的に試すかもしれない。だが、世代交代で大事なことは、いま出ている選手を若手が実力で乗り越えていくことだと思う。そしてベテラン選手は、若手が乗り越えるべきハードルをより高くすることで、チームは強くなっていくはずだ。だから、西川には言葉どおり、より頑張って欲しい。なにしろ彼は「日本代表復帰」という目標を手放していないし、「年間最多無失点試合記録の更新」も常に頭においているのだ。

 レッズのゴールを守る赤い壁であると同時に、若手が目標とする高い壁、西川周作であって欲しい。

 

 テレビ記者会見では、聞きたかったことを他の記者が聞いてくれたし、「質問する」というコマンドがわからなかったITオンチなので、質問しなかった。ただ、終わってから音声で広報担当に質問した。

 

 質問:西川選手が「ファン・サポーターの方とのコミュニケーションの取り方も、広報と相談している」と語っていたが、近々何か発信があるのか?

 広報担当:いま準備している。お楽しみに。

 

 なるほど。では、楽しみにしていよう。

 チーム・選手からの発信が、レッズのファン・サポーター向けなのか、一般の人にも向けたものなのか、あるいは感染してしまって正にコロナウィルスと闘っている人への応援メッセージなのか、もしくは闘いの先頭に立っている医療関係者に対してなのか、わからないが、とにかくレッズがこの闘いに関わっていって欲しい、という気持ちは強い。自分が何か手伝えるなら、それも楽しみだ。

 

(文:清尾 淳)