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Weps うち明け話 #1024

あの2試合(2020年5月12日)

 

 このコラムで清尾の安否確認をされているみなさん。何事もなくやってます。

 大型連休中だし、さいしんのみなさんも在宅勤務の方がいて、あまり頻繁な更新は大変だと思い、遠慮しました。土田尚史氏と西野努氏のドキュメントは別にあるし。

 ということで、通常の週イチ+α更新に戻ります。

 

 阿部勇樹の「こちらは、ぼうよみ…」いや、「こちらは、ぼうさい、さいたまです…」という放送が5月7日(木)から始まった。さいたま市防災行政無線のアナウンスを今月末まで阿部勇樹が担当しているのだが、もともとあのアナウンスは情感たっぷりにされているものではなく、棒読みに近い感じがするので、あのアナウンスの仕方で正解なのだろう。大原にいると、あの放送を聞く機会が多いから、阿部も自然と「学んだ」のではないだろうか。

 阿部がこの放送を行うという発表がレッズからあったのは5月1日(金)だったのだが、そのリリースを見て「NHKさいたま」の放送(今は電話)でしゃべってから歩いての帰り、前を行くオジサンが「22 ABE」とプリントされた赤いナップサックを背負っていた。「あんたにオジサンと言われたくないなあ」と言うかもしれないが、僕より年配なのは間違いなかった。そして追い抜くときに「阿部がさいたま市の防災無線のアナウンスやるそうですよ」と話し掛けた。

「なんだ、こいつは?」と思ったかもしれないが、そんな表情ではなかったので、あらためて「こちらは防災さいたまです、っていう市役所のアナウンスがあるでしょう。あれを5月7日から阿部勇樹がやるそうですよ」と詳しく説明した。

「ほう、大変だ」と反応してくれたので、「毎朝10時かららしいですよ」と言って別れた。

 

 ふだんなら浦和の街でレッズサポらしき人に会って声を掛けることなどしないのだが、何だか今は少しでも人に伝えないといけない、という特別な気分になっているのかもしれない。

 そういえば、最近レッズのグッズを身につけている人が目立つような気がするのだが、ずっと試合がないので、せめて試合日の格好だけでもしようという人が多いのではないか、というのは考えすぎだろうか。考えすぎかもしれないが、そうあってもおかしくない。

 

 最近、ある取材で何人かのサポーターと話したのだが、中断の前に公式戦2試合があって、本当に良かったと思う。

 Jリーグ14位という昨季の成績からどう這い上がるか考えたときに、「監督は続投」「新しく獲得した選手は少なく」「システムは長年慣れた3バックから4バックに変更する」。

 こういう要素だけで見れば、今季は期待できる部分が少なかっただろう。僕は沖縄キャンプを取材していたから、こういう部分が期待できそうだよ、と言ってきたつもりだったが、MDPのないときの僕の発信力はミニコミに近いから(MDPでもミディコミぐらいか)、多くのファン・サポーターは不安を抱きながら、開幕の2試合に臨んだはずだ。

 

 そこで、あの2勝だ。

 計4失点は、2敗していてもおかしくなかったし、湘南戦はPKで先に勝ち越されるピンチもあった。仙台はケガ人が多くフルメンバーとはいえない状況だった。ラッキーな部分に助けられて勝ったのは間違いないが、2試合で奪った計8点は相手からプレゼントされたものではない。展開がそれぞれ素晴らしかったし、何度も言うが得点に絡んだ選手たちが今季の不安を払拭するに十分な顔ぶれだった。

 広島やFC東京、柏といった強豪との対戦まで進んでいたらどうだったかわからないのは百も承知だが、「どうせ負けていたさ」と自虐的になる必要もない。現実に戦った2試合の結果と内容を胸に抱えた状態で、我々は中断に入っている。再開を通常以上に心待ちにできているのは幸せなことだと思う。

 

 あの2試合があって良かったのはファン・サポーターの心情をポジティブにしたことだけではない。

 以前にも書いたが、あの試合で30人の選手たちの立ち位置が、先発、途中出場、ベンチ止まり、ベンチ外に分かれた。これも試合がもう2~3試合進んでいたら違う起用状況だっただろうが、2試合でそれぞれの選手に突きつけられた現状ははっきりしている。

 

 2試合ベンチスタートで、湘南戦の終盤に交代出場した槙野智章は、5月4日(月)に行われたテレワーク記者会見でこう言っている(要約)。

「今季、公式戦2試合が終わって中断になったが、個人的には思ってもいなかったようなスタートだったのは事実」「このまま終わる僕ではないと思っているので、再開したときに違いを出していかないといけない」「当たり前のように試合に出ることが続いていた中で、良い刺激と良い危機感になっている。再開したときにベンチでくすぶっているわけにはいかないというところは練習からも、試合で起用された時間の中でも出していかなければいけないと思っている」

 中断前に1対1で彼に話を聞いたときには、もっと強い口調で語っていたのを思い出す。

 こういう思いは槙野だけではないだろうし、逆に2試合に先発した選手が「俺は今季安泰」と腕を組んでいるはずもない。

 

 失点しても気落ちせず闘い、必死の思いで得たあの2勝は、ファン・サポーターにとっても選手にとっても、中断期間を過ごすにあたって非常に大きなものになったとあらためて思う。

 

(文:清尾 淳)