Presented by 埼玉縣信用金庫
Weps うち明け話
#237
突破
 やっぱり海外で勝ってこそ、国際大会で勝ったと言える。
 ワールドカップ過去3大会連続出場と言っても、98年のフランス大会は参加国の数が前大会の24か国から32か国に増えたわけで、24のままなら、おそらくアジアの枠は2のままで、ジョホールバルでのアジア第3代表決定戦はなかっただろう。そして02年は自国開催ということで予選なし。本大会でベスト16に進んだことは日本のサッカー史に残る出来事だが、自国開催のアドバンテージの大きさを考えれば、「一次試験通過」ぐらいの位置づけだと言える。
 06年のドイツ大会は、アジア予選をグループ1位で通過。これぞ文句なしの本大会出場だと思っていた。出場が2回目、3回目となる選手も多く、ここで日韓大会と同等の成績を残せれば、間違いなく日本のサッカーはレベルアップした、と胸を張れると思っていた。「二次試験」も通過して、最終試験に臨む資格ができる、と(何の試験だ?)
 ところがグループリーグ3敗。相手が違うので比べにくいが、結果だけを見れば98年から変わっていないことになり、ちょっとがっかりだった。もっとも僕は、日本代表より浦和レッズなので、ワールドカップが終わってすぐにその年のリーグ優勝に向けて気持ちを切り替えることができたのだけど。

 やっぱり自分たちだけが努力しているわけではないから、強化に努めても目に見える成果というのはなかなか出ない。前進は少しずつだ。まずはアジア予選で勝ち抜くのにアップアップしていた時代を乗り越えて、楽ではなかったものの2大会連続予選を通過して本大会出場を果たせるくらいになった(もし今回が3.5枠だったらどうなっていたかわからないが、その場合はオーストラリアがアジアサッカー連盟に来ていなかったということだから、やはり勝ち抜きは成功していただろう)。
 だから次の一里塚は、海外でのワールドカップで初めての勝利を収められるか(その前に勝点を取れるかということもあったが)、ということだと思っていて、それを今大会の初戦で達成することができたのは、また日本の歴史が一つ前に進んだと言っていいと思う。岡田ジャパンについてはいろいろ言われてきたが、初の海外での1勝という大きな事実は動かせない。
 まだグループリーグ突破がどうなるか全くわからないが、とにかく2010年6月14日というのは日本サッカーのメモリアルデーだ。大いに祝福したい。

 慣れない日本代表のことだと、こんな誰でも考えるようなことぐらいしか書けないのが情けないな。
 レッズの話にしよう。
 6月9日のナビスコ杯横浜F・マリノス戦で、小中学生の入場券で入ろうとしたサポーターが複数いたという。その知らせを聞いて、考えてしまった。
 93年〜94年、Jリーグのどの試合もチケットはすぐに完売となり、応援に行きたくても行けないサポーターが非常に多かった。駒場のホームゲームでは、チケットを持たずにやってきてフェンスの隙間からのぞく人、バックスタンドの後ろの立ち木に登って試合を見る人など、熱気はスタジアムの外にまで広がっていた。
 そのうち「突破」という言葉を耳にするようになった。チケットを持たずに入場すること、もしくは正規のチケットではない、たとえばサテライトリーグのレッズ戦のチケットなどで係員の目をごまかして入場することを、そう呼ぶと聞いた。
 もちろん犯罪である。発覚すればそれなりのペナルティがある。
 ただ当時は思ったものだ。捕まれば処罰を食らうのは承知で、そこまでしてレッズを応援に行きたい、という気持ちはすごい、と。
 ほめたたえる気も、犯罪を奨励するつもりもさらさらないが、それでも心のどこかで彼らの心情を理解しようとしている自分がいたことも事実だ。

 最近は全体にスタジアムが大きくなる傾向にあるし、大きくないスタジアムでのアウェイ戦はあっという間に売り切れるものの、お互いに融通しあうことで、うまくチケットが行き渡っていると思っていた。
 6月9日の試合は13,463人の入場者。チケットが完売で5万人が来なかったというわけではなく、十分に余裕はあった。でも正規のチケットを買わずに、安いチケットで入ろうとする。お金の節約なのだろうか。スリルを楽しみたいのだろうか。少なくとも、ほかにレッズの応援に行く方法がないし、自分が行かないと声が足りなくて勝てないかもしれないから、というかつてのギラギラした動機とは違う。語弊を恐れずに言えば、ファッション感覚、遊び感覚のような印象さえ受ける。
 清尾はチケット完売のときの突破は止むを得ないと言っている、と誤解しないで欲しい。動機はどうあれ、犯罪は犯罪で、許されるものではない、とはっきり言う。
 だが、その動機の変化に寂しさを感じてしまうのも確かなのだ。
(2010年6月15日)
〈EXTRA〉
 6月8日、仙台戦のあとの一連のトラブルで500万円の制裁金がレッズに課せられた、と発表があった。その直後の事件だけに、よけいに残念でもあった。
 それにしても500万円という金額は新人選手の年俸より高い。今回のオーストリアキャンプなら何人分の経費になるのだろう?まさかクラブの年間予算に「制裁金等引当金」が組んであるとは思えず、どこから捻出するのだろう。2009年度の純利益が600万円しかなかったクラブなのに。
〈EXTRA・2〉
 仙台戦と言えば。
 あの試合の前に、仙台のリャン・ヨンギ選手が北朝鮮代表(候補)になったということで花束贈呈があった。ワールドカップ出場はサッカー選手にとってこの上ない名誉だから、日本以外の国の代表も、そういう場で祝福・激励するのは当然のことだ。
 でも、相手チームにも南アフリカに行く選手が1人いたんですけど。それも他国ではなく、日本代表の選手が。仙台のクラブに「浦和の阿部選手には花束用意しなくていいんですかね?」と思いつくスタッフはいなかったのだろうか?と不満を言いつつ、これが逆だったら、レッズはリャン選手への花束を用意していたか、ちょっと心配になるが。
 何はともあれ、阿部勇樹選手、ワールドカップ初出場初勝利おめでとう。もっともっと世界を驚かせてくれ。
TOPWeps うち明け話 バックナンバーMDPはみ出し話 バックナンバーご意見・ご感想