Presented by 埼玉縣信用金庫
Weps うち明け話
#238
歴史書
 メールを開くと「皆さん見ましたか?新しい歴史がはじまる瞬間を、幸せです」と書かれていた。
 南アフリカに行っておられるカメラマンの今井恭司さんが、ときどき現地の様子を写真で知らせてくださる。スタンドの風景や西村レフェリーの雄姿、ブラジル、スペイン勢の表情、そして日本代表。
 冒頭のメールは、6月25日の日本vsデンマーク戦の写真が添付されたものだ。
 2002年の日韓大会でワールドカップ初勝利を挙げ、かつ決勝ラウンド進出を果たした日本代表。今回、成績だけを見れば、そのときと同じ高さにまで戻っただけ、と言えなくもないが、自国開催と海外開催では、Jリーグのホーム&アウェイをはるかに越える大きな差がある。そういう意味では、この時点でサッカー日本代表は、これまでで最も高い峰まで登っている、と間違いなく言える。

 だが今井さんが「新しい歴史」と言うとき、98年のワールドカップ初出場や02年のベスト16から数えた10年前後のスパンではない響きがある。1970年代から日本代表を撮り続け、国際大会、というよりそのアジア予選で悔しい思いをし続けてきた今井さん。敗戦の瞬間のホイッスルをスタンドではなく、選手と同じピッチレベルで聞いてきた。代表選手は、釜本邦茂・森孝慈さんの時代から、西野朗・原博実さん、そしてラモス瑠偉・三浦知良と、年々顔ぶれが変わっていくが、今井さんはずっと変わらず闘い続けてきたのだと思う。
 97年のジョホールバルの歓喜をピッチで味わったときも、今井さんは「新しい歴史が始まった」と思ったに違いない。出場そのものが夢だったワールドカップが目標になり、現実になった。そこからまた時間がかかったが、今回歴史の次の扉を開いた瞬間にも現場に立ち会えた今井さん。デンマーク戦で終了のホイッスルが鳴ったとき、何を考えたのだろうか。もちろん目はしっかり選手たちを追っていたに違いないが。

 ここ20年間ぐらいのことであれば、レッズに関して人に負けないくらい語れる自信は僕にもある。だがそれ以前のサッカーに関しては後から得た知識しかない。そんな僕にも、当時の選手たちの様子を感じ取ることができる1冊の本が刊行された。

「写蹴(しゃしゅう)―今井恭司」(スキージャーナル株式会社/1,600円+税)

 単なる写真集ではなく、70年代当時の日本代表のエピソードなど満載の「歴史書」だ。以前、今井さんの写真展を拝見したことがあるが、この本は写真展を自宅に居ながら鑑賞できるばかりか、今井さんの優しい文章のおかげで、当時を知らない者にも「懐かしい」感じに浸らせてもらえた。

 さて過去最高の峰に登ったといっても、ここが頂上ではない。パラグアイ戦が終わった6月30日の深夜から早朝にかけて、今井さんからまた写真付きメールを送っていただけるのだろうか。そこに写っている日本代表の選手たちがどんな表情をしているか、楽しみでならない。
(2010年6月28日)
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