Presented by 埼玉縣信用金庫
Weps うち明け話
#245
眠れぬ夜
 夕べは眠れた?と聞くと、彼から返ってきた言葉はそれへの答えではなかった。
「でも、あそこまで行けた、ということがあるからの悔しさだと思うから…」。

 夜の試合で長い時間出場した日は、なかなか寝られない。そんな話を何人もの選手から聞いていた。16時からの試合は、ナイトゲームとは言えないかもしれないが、試合が終わって20時、スタジアムから出て自分の部屋に帰れるのはたぶん22時ごろ。やはり身体はまだ熱いだろうし、頭の中はボールが飛び交っているかもしれない。試合に出た選手は、なかなか眠りには入れないのではないか。
 特に、1−0を2点差にするビッグチャンスを外し、勝利に貢献しそこなった選手は。

 9月19日の大原。前日の清水戦について取材を受けている原口元気の横で、僕はこんなことを考えていた。
 今季の原口は、昨季に比べて試合出場が極端に少ない。ベンチで試合開始のホイッスルを聞くことなど、これまでほとんどなかった彼が、今季は最後までベンチに座って終了のホイッスルを聞くことさえあるのだ。その悔しさはどうだろう。
 途中からでも出られれば可能性はある。しかし、ほとんど何もできずに終わった試合も少なくない。その悔しさはどうだろう。
 それに比べて、チャンスを作りゴールに肉薄したが得点できず、チームが引き分けに終わってしまった、というのが清水戦だった。その悔しさはどうだろう。

 出られない悔しさ、出てもチャンスを作れない悔しさ、出てチャンスを作ったけど決められずそのためにチームが勝てなかった悔しさ。3つの悔しさのうち、どれが一番悔しいのか。
 そんなことを取材というより雑談してみたくて、囲み取材がひと通り終わったタイミングで原口に話しかけてみた。「夕べは眠れた?」というのはその前フリみたいなものだった。
 だが原口は、そのあとに僕が予想していたいくつかの会話を省略して、本当に聞きたかった答えをいきなり口にした。いや、聞きたかったというより僕が言いたかったことを言われてしまった。

 僕の感覚で単純化すると、試合に出られないときは「ため息が出る悔しさ」で、出てパフォーマンスが良くなかったときは「肩を落とす悔しさ」で、ビッグチャンスに決められなかったときは「のけぞるような悔しさ」だ。三番目が一番悔しい。
 だが、その悔しさはそこまで行かなければ味わえない悔しさだ。逆に言えば、「のけぞるような悔しさ」を味わったというのは、あとわずかなところまで来ていることの証明でもあるのだ。
 しかも原口の場合、3つの悔しさが順番に来ている。特にリーグ再開後、徐々にゴールへ近づいてきていると言っていい。F東京戦でポンテが原口をたたえたように、あのゴールの何割かは原口の成果だ(もちろん、柏木やエジミウソンの分もある)。清水戦の前半37分のシーンはチームのコンビネーションが良くなり、攻撃のプライオリティがやや前に向いてきた表われだと思うが、それにしてもFWが飛び出さなければ始まらないわけで、間違いなく「あそこまで行けた」からこその場面だ。

 トーナメント戦ならば、悔しさを晴らす機会は次の大会までめぐってこないかもしれないが、リーグ戦は毎週ある。悔しさをエネルギーに変えてここまで来た原口だから、明日の新潟戦ではきっちりゴールという結果、そして勝利という結末で、清水戦の「落とし前」をつけてくれそうな気がする。
 そして今度は、喜びのあまり寝られない夜を過ごすといい。
(2010年9月24日)
TOPWeps うち明け話 バックナンバーMDPはみ出し話 バックナンバーご意見・ご感想