Presented by 埼玉縣信用金庫
Weps うち明け話
#253
時代はめぐる、上を向いて
 中島みゆきが好きだ。一番好きな歌手は吉田拓郎だが、吉田拓郎の歌は自分で歌うことが多いのに対し、中島みゆきの歌は、じっくり聞くことが多い。
 93年当時、レッズが負けた後、車の中で中島みゆきの「時代」を聞いたものだった。ほかの多くの人もそう言うので、逆に作り話のようだが本当のことだ。ZARDの「負けないで」や岡本真夜の「TOMORROW」も聞いたけど。
 だが、その時代のことを笑って話せる日がいつか来る、というのは願望であって確信ではなかった。どうすれば、そういう日にたどりつけるのか、その道がまだ見えなかったから。

 今年のナビスコ杯決勝は壮絶な試合だった。04年の浦和レッズ対FC東京はスコアレスでも壮絶だった記憶があるが、昨日の磐田対広島戦は5−3という大量点の試合でも大味な感じがしなかった。
 ナビスコ杯決勝にレッズが出ていないのはもちろん寂しいし残念だが、ベスト4にさえ届かなかった01年までと、3大会連続決勝に出場し初戴冠も経験した02年から04年までを知っている今とでは、その感覚は違う。

 02年から04年までの3大会は、準決勝までの各試合を含めてそれぞれ記憶に残っている。またナビスコ杯だけでなく、そのシーズンのリーグ戦ともリンクして思い出がよみがえって来る。優勝した03年はリーグ戦でも順調に順位を上げ、ナビスコ杯決勝のあと首位に躍り出て最終節の前までステージ優勝の可能性を残した。圧倒的に押しながらPK戦で敗れた04年は好調の真っ只中にあり、ナビスコ杯決勝から17日後にステージ優勝を果たしている。
 最も印象深いのは02年だ。オフト監督がチームの土台作りに着手したばかりで、リーグ戦では第1ステージ5勝1分け9敗と不調だったが、ナビスコ杯ではワールドカップ前の予選リーグで、同グループの名古屋と鹿島が日本代表選手不在だったのに対し、もともと代表選手が1人もいなかったレッズは通常のメンバーで戦えたこともあり、予選を突破した。
 そして準々決勝1−0(柏戦)、準決勝Vゴール3−2(G大阪戦)と僅差で勝ち上がっていったナビスコ杯と同様、リーグ戦でも8月31日の第2ステージ開幕から10月19日の第9節まで8勝1分け。ナビスコ杯と合わせて公式戦11戦負けなしを続けたのだった。
 しかし第10節、ナビスコ杯決勝の前哨戦と言われた鹿島戦に敗れ、決勝直前の東京V戦でもVゴール負け。気を取り直して臨んだ国立決戦で優勝を逃すと、その後のリーグ戦でも12節から最終節まで4連敗を喫した。もっと言えば、その後の天皇杯初戦でも敗れ、10月23日(リーグ鹿島戦)から公式戦8連敗となったのだ。
 この年後半の公式戦勝敗表を作ると、8月31日から10月19日までの11試合は1つが△で残りは○、そして10月23日から12月15日までの8試合がすべて●。こんな年は後にも先にもなかった。

 あの年、8月31日から10月19日までの10勝のうち8試合が1点差で、うち5試合はVゴール勝ち。そしてその後の8敗はすべて1点差、うち3試合がVゴール負け。ほとんどの勝敗が紙一重だった。
 勢いで勝った前半、自信をなくして負けた後半、というのはものすごく短絡的な分析だが、当たっている部分もあるだろう。チームの技術が極端に変化したわけではなく、多くはメンタル的な部分の変化で対照的な成績となった。しかし、その間にもサッカーの土台は築かれ、翌年からのタイトル奪取の礎となった。
 チーム力とは精神力も含めた総合的もの。02年は相手に合わせた柔軟な対応も苦手だったが、最も遅れていたのは精神的な強さだったのかもしれない。

 2010年。第28節の結果と順位表を見てどう思ったか(リーグ優勝の可能性が完全になくなったことを除いて)。
 上位の多くが足踏みしているときに勝てなかったのは何ともったいない。あるいは、鹿島とG大阪が負けて、3位との勝点差が8から広がらなかったのは、せめてもの幸いだった。
 リーグ戦とは、こういうことの繰り返しだ。トーナメント戦なら、続いているか終わってしまったかの2つに1つだが、リーグ戦は1節終わるごとに何かが変わるし、それは一口で表現できないことが多い。
 かえすがえす、山形戦は負けてはいけない試合だった。
 磐田戦で一度は切れた良い流れを取り戻すために。
 ホームゲームを勝利で終わるために、とりわけ台風の中来てくれた2万人余のサポーターのために。
 これまで積み上げてきたことを続ければ勝てることを証明するために。
 そして結果的にだが、順位表を明るい表情で見るために。

 22本のシュートを放ちながら1点も取れず、相手にほとんどチャンスを与えていなかったのにセットプレーでやられ、そのまま負ける。
 この結果と試合内容に、翌日、翌々日もため息をつくことが多かった。
 だが今は思っている。0−1で負けている試合の終了間際に追いつき、さらに追加タイムで逆転勝ちする。ホームでそんな試合ができるレッズが、いつか戻ってくることを。
 それは、かつて車中で中島みゆきの「時代」を聞きながら、その歌詞どおりになることを願望していた心情とは違う。
 そんな試合を実際に何度も経験してきたからだ。たとえば上に挙げた02年の連勝中もそうだった。しかも02年は勢いが原動力だったが、次に来る粘り強いレッズは、勢いだけではなく経験にも裏打ちされたチームになっているはずだ。

 時代はめぐる。そうだと思う。めぐってきてまた繰り返す。
 だが繰り返しているようでも、まったく同じということはない。らせん階段のようにぐるぐる回りながら上って行く。上から見れば同じ場所に戻ってきたように見えても、横から見れば一周するうちに位置は上がっている。経験は必ずどんな形にせよ蓄積されていく。それが歴史だと僕は思う。

 だから、次は「あんな時代もあったね」と笑って話すだけではない。「あんな時代」に戻りそうなとき、マイナスを最小限に抑えるには何が必要か。そういう知恵も蓄積されているはずだから。
(2010年11月4日)
TOPWeps うち明け話 バックナンバーMDPはみ出し話 バックナンバーご意見・ご感想