Presented by 埼玉縣信用金庫
Weps うち明け話
#258
覚悟
 今回の監督交代を聞いて、こう思っているサポーターも多いだろう。以前と同じじゃないか、と。
 以前、というのは96年と03年の監督交代のことだが、老婆心ながら説明しておくと…。

 95年に就任したオジェック監督は、2年間最下位だったチームを勝率5割以上、年間4位に引き上げた。翌96年は前年Jリーグ得点王だった福田正博を長期間ケガで欠きながら、一時は首位に立ち最終的に14チーム中6位という成績だった。クラブは、カウンターに偏りがちなチームを主導権を握って戦うチームに、という変革を望み「より上を目指すために」、監督を交代することにした。
 今回は、フィンケ監督ではクラブが期待する成績を来季残せないのか、という疑問がありつつも交代に踏み切った。現監督の下で進歩しているのは間違いないが、これ以上の成績の上積みは難しい、というクラブの判断。当然、監督を交代することのリスクもあるはずだが、それと比較した上での選択なのだろう。
 02年から指揮を執ったオフト監督は、3年で優勝を争えるチームにして欲しいという要請を受け、前年J2から復帰したばかりのチームを基礎から鍛え直した。順位は02年が11位、03年が6位と徐々に上がり、ナビスコ杯で02年準優勝、03年優勝という過去にない実績を残したが、クラブは監督を交代した。オフト自身がナビスコ杯優勝後の記者会見で発表したのがセンセーショナルだったが、3年という約束を反故にして03年での交代を先に決めたのはクラブの方だった。理由は「優勝まで3年も待てない」「このサッカーでは見ていてワクワクしない」というものだった。
 今回も監督への要請が「優勝」とか「何位以上」という具体的な成績ではなくチーム作りだった。そして監督にそれを要請したクラブのトップが、その数か月後に交代していることも似ている。

 サポーターの多くはこういう歴史を知っているから、今回の監督交代を聞いて「また同じことを繰り返すのか」という懸念を抱いている人もいるようだ。実際にそういう意見を見聞きする。
 また同じことを繰り返すのか、というと過去2回の監督交代が失敗だったようだが、そう単純でもない。97年に指揮を執ったケッペル監督は、成績も10位だったし、選手やサポーターとの良い関係も築けなかったから、不成功と言っていいだろう。しかし04年からのギド〜オジェック監督の4年間を不成功などと言っては罰が当たる。レッズは黄金期と言ってもいい時期を迎えたのだから。しかし「その次」のレッズを見据えたチーム作りが不十分で、世代交代もうまく進まなかった。大型補強によるチーム強化も資金の面で限界がある。
 そういう諸々の経緯があって、09年から新しいチーム作りに着手し、結果については我慢してきたはずなのに、2年でやめてしまっていいの?
 また同じことを繰り返すのか、とはそういう意味だろう。

 だが僕はこう思う。
 歴史は繰り返す、という言葉があるが、#253で書いたように、歴史は繰り返されるように見えても前回と同じではない。そこには必ず多少なりとも発展がある。なぜなら人間は学ぶ動物だし、経験の蓄積があるからだ。
 クラブが自からの歴史に学んでいないはずがない。もし何も学んでいなかったら、去年の7連敗の時期でフィンケをクビにしていたかもしれない。監督交代というのは100パーセントの成功とか100パーセントの失敗というのは滅多にないと思う。成功に見えても、いくつかのマイナス面があるし、失敗のようでもプラス面が何かある。そういう微妙な部分まで、当事者であるクラブには経験として蓄積されているはずだ。
 サポーターからの意見で「チームもサポーターも忍耐強くチーム作りを進めていく覚悟を持っていたのに、クラブにだけその覚悟がなかった」というのも聞く。だが、過去に多くの成功と失敗の経験があり、その上であえて今回の監督交代という選択をしたのだから、これは別の意味で相当の覚悟なのだろう。
 来季の話をここでするのはまだ早いが、クラブは当然準備を進めているはずだ。監督を交代して、どうやってこれまでのサッカーを継続、発展させていくのか。さらには結果も上積みさせていくのか。今回の決断に当たっての覚悟のほどを示していって欲しい。

 一方で、サポーターが懸念を抱いている根底には「レッズが自分の好きだったレッズでなくなってきているのではないか」という不安があるようだ。その不安が今回の監督交代をきっかけに大きくなった。
 サポーターは、人それぞれサポーター歴が違っても、膨大な数のサポーターの中に新しいサポーターが毎年少しずつ入っていくから、「朱に交われば赤くなる」のたとえどおり、レッズらしさは受け継がれてきていると思う。新しいサポーターが周りの先輩サポーターを見て、知らず知らずに学んでいくからだ。
 クラブも当然、蓄積があるし、スタッフや役員が替わって、新しい血、新しい発想によって組織が活性化されていく中でもレッズらしさは受け継がれていくはずだ。しかし辞めていくスタッフもいるし、新採用もある。大きくなった事業規模に応じた人事異動もある。役員は役員で任期や任命権が別に定められている。サポーターに比べれば人の入れ替わりが顕著だ。「朱に交われば赤くなる」のたとえで言えば、交わるものが多すぎて朱の赤さが薄れてしまうのではないか、という不安を外から見れば抱いてしまう。そういうこともあるのではないか。
 レッズの路線を変えようとか、ここまで築いてきたものを無にしてしまおうとか、クラブにそんな潮流があるとは思わない。マンネリは戒めるべきだが、レッズらしさは失ってはいけない。誰もがそう思っているはずだ。しかし、そのレッズらしさとは何か、それを貫くにはどうすればいいのか、そこは常に考えていかなければならない。サポーターがそういう懸念を抱いているというのも事実なのだから、それを払拭するには何が必要なのか。クラブはそこにいっそう心を砕く必要があるだろう。

 フィンケ監督の退任が発表されて以降、クラブには膨大なメールが寄せられているという。それはサポーターが浦和レッズを自分のものとしてとらえているからこその重要なコミュニケーションだ。クラブとサポーターが心を一つにするのに、コミュニケーションは欠かせない。ホームゲームが終わると、コミュニケーションの機会は減ってしまうから、逆に意識して強めていかなければいけない時期かもしれない。
 来週からもまだオフじゃないし。
(2010年12月2日)
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