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Weps うち明け話
#270
最後のメンバーコール
「行くぞ! 1番、関口! 2番、亮太! 3番、武藤! 4番、ノブ! 5番、…」
 少し高い声で、池田伸康は呼び続けた。

 1月8日(土)、さいたま市内で、浦和レッズジュニアユース中学3年生の保護者が主催する謝恩会「仲間の会」が開催され、19人の選手たちとその父母や弟妹、そして池田U-15監督、渡辺隆正同コーチ、安藤智安GKコーチ、池田誠剛フィジカルコーチ、児玉賢太郎アカデミーセンター総務が出席した。試合やキャンプなど、ジュニアユースでの3年間をビデオや写真で流しながら会食。楽しい時間が過ぎていったが、選手一人ひとり赤ちゃん時代から現在までの成長過程と、指導者や仲間へ感謝のメッセージが流れ出すと、みんな飲食の手を止めて画面に見入っていた。
「ノブさん(池田監督)とタカさん(渡辺コーチ)に優勝で恩返しはできなかった。でもこれからのサッカー人生で恩返しをしたい。仲間たち、日本代表のピッチで会おう」
 選手たちはみんな、3年間の思い出に続いて、異口同音にそう語っていた。

 2010シーズンの浦和レッズジュニアユースは、夏の日本クラブユース選手権で3位、12月の高円宮杯全日本ユース選手権でベスト8の成績だった。今だから書くが、個々の力では昨年のチーム(現在は高校1年生の選手たち)の方が上、と多くの指導者から言われていた。だが僕はそれを聞いて訝しく思っていた。関東ユースリーグやクラブユースの関東予選を取材した限りでは、昨年の3年生たちに勝るとも劣らない力を感じたし、優勝するにふさわしいチームだと僕は思っていたからだ。
 だがプロの指導者の目は確かなはず。その感覚の違いは何なのだろうと思ったが、その疑問は徐々に解けてきた。技術や身体能力だけではない、サッカーに必要なものをこの年代の選手たちから強く感じていたからだと思う。
 一つは選手たちの結束力だ。先発する11人とベンチに控える選手の間に気持ちの差が感じられないと言っていい。試合前に全員が気持ちを高めるが、その際に先発の選手が控え選手に対して「頼むぞ!」と声を掛け、手をしっかり握る。逆ではない。その様子やベンチの選手が試合中に必死で声を出している姿から、このチームの結束の強さを感じ取ることができた。
 また19人の選手が1人もチームを離れなかったということも、結束の表われだろう。通常、夏休みが終わると中学3年生は翌年の進路が決まり出す。レッズユースに上がる10人前後とそれ以外の選手の間にはモチベーションの差が生まれるし、あるいは進学の準備もあって練習に来なくなる選手も出てくる。昨年の秋も一時、選手にの気持ちにズレが生じたが、高円宮杯の関東予選を前に19人がミーティングを行い、結束を固め直した。
 もう一つはこの日の「仲間の会」で思い当たった。ビデオメッセージで流れる選手の言葉からは2つの全国大会にかけていた気持ちの強さが伝わってきたし、全員が将来の夢や目標として、プロになって世界で活躍すること、と言い切った。「優勝」も「プロ」も、サッカー選手なら当然の目標のようにも思うが、彼らの言葉からは一味違う「本気度」を感じたし、しかも19人全員が同じ方向を目指していたことがあらためてわかった。その一丸となったムードが、見る者に優勝へのベクトルの太さを感じさせたのかもしれない。

 会は進み、コーチたちが1人ずつ最後のメッセージを送ることになった。
 児玉アカデミーセンター総務は「いまトップチームで出場するアカデミーセンター出身の選手が増えているが、自分の夢はリザーブも含めた18人がすべてアカデミーセンター出身者になること」と語った。
 安藤GKコーチは「これからの人生、自分で(限界の)線を引かないで」とアドバイスした。
 池田フィジカルコーチは「育成をやってきて、選手と一緒に泣けたのは先日の高円宮杯が初めて。感動させようと思っても人は感動しない。それだけみんなが精いっぱい生きてきたから」と述べた後「レッズがお前らの家、何かあったらいつでも帰って来い」と励ました。
 渡辺コーチは「池田監督が自分を信頼して任せてくれたから、ここまでやって来られた。その点でも“仲間”を強く感じた1年だった」と振り返った。
 そして池田監督は―
「悔いが3つある。一つは夏のクラブユース選手権、一つは高円宮杯。そして三つ目は、スタメンを発表するときに19人全員の名前を呼べなかったこと。いつもすごく悩んでいた。今日は最後に全員の名前を呼んで終わりたい。行くぞ―」

 自分の名前がコールされると、試合前のように「はい!」と答える選手たち。
「―5番、一穂! 6番、サチ! 7番、マー坊! 9番、大樹! 10番、関根! 11番、進! 12番、佑太!」
 母親たちの目からは涙があふれて止まらなかった。池田監督も、少しでも気を緩めると言葉に詰まってしまうから、いつもより高い大きな声でコールを続けた。
「13番、條! 14番、都築! 15番、夏月! 16番、吉野! 17番、キー坊! 18番、広瀬! 19番、マコト!」
 18人の後に「キャプテン、須藤!」と8番の名前を呼び、最後のメンバーコールを終えた。
(2011年1月11日)
〈EXTRA〉
 2011シーズンは、ジュニアユースから11人がユースに進み、ほかの8人はそれぞれ高校でサッカーを続ける。11人にはユースで活躍しトップ昇格目指して頑張って欲しいのはもちろんだ。そして8人には、全国高校選手権で活躍する選手が出てきて欲しいし、願わくば4年後は再び赤いユニフォームに袖を通す選手が出てきて欲しい。
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