Presented by 埼玉縣信用金庫
Weps うち明け話
#300
4連覇
 試合が始まってしばらくしてからノートにメモった。
「新潟、善戦。R、持ち味出せず」
 今こう書くと誤解を招くな。
 8月14日(日)のJリーグ新潟vs浦和戦ではなく、12日(金)、大阪の堺市で行われた第16回全日本女子ユース(U−15)選手権決勝の、浦和レッズレディースジュニアユースvsアルビレックス新潟レディースU−18戦の取材中の話だ。
 同大会でレッズはこれまで3連覇中。今年は中学2年生以下にチーム構成を改め、浦和レッズレディースジュニアユースとして出場した。中学生年代で1歳の差は小さくないが、女子のトップチームである浦和レッズレディースで戦える選手を輩出するための措置の一環だ。当然、ここまでの道のりも楽ではなかった。埼玉県予選では関東出場を決めた後の決勝でPK負けした。関東予選では全国出場をかけた準々決勝、前半に1点を先制したものの、猛暑の中の後半は目に見えて運動量が落ち、危ない場面もあった。同準決勝では延長まで0−0でアディショナルタイムにようやく決勝点が入った。
 しかし新潟は、昨年の同大会1次ラウンドで対戦し、4−0で勝った相手。今年の選手の中には当時中学1年生でその試合に出場していた者もいた。また、なでしこリーグで両者の“姉貴分”が対戦するときに前座試合も何度か行っているが、負けたことがなかった。そのチームを相手に、楽に優勝できるはずはないにしても主導権はほぼ握れるものと思っていた僕だった。
 しかし冒頭に書いたように、立ち上がりは新潟が押していた。レッズがボールを持ったときのプレスが速い。1人だけならかわすテクニックはあるが、かわした方から別の選手が詰めてくる。取られないまでも、慌てて出したパスは正確性を欠き、他の新潟の選手に奪われる。そういうシーンが何度も見られた。レッズ(R)は持ち味であるパスワークやドリブルを発揮できなかった。一方、新潟はボールを奪うと早めに縦に入れてくる。何度かに一度はレッズのDFラインを越えてゴール前に達し、走り込んだ新潟の選手がそれを拾うという肝を冷やされる場面もあった。

 そのうち、「新潟、善戦」などと大変失礼な見方をしていたことがわかった。試合は新潟のペースでずっと推移した。僕のノートには、レッズの惜しいシュートの場面より、新潟のシュートが枠を外れたとかレッズのDFが身体に当てて守ったというメモが多くなっていった。しかも、「これ、ずっと続くのか?」と前半感じた新潟の精力的なプレスは後半になっても、延長になっても落ちなかった。
 たしかに昨年までの力関係は、新潟よりレッズの方が上だっただろう。だが「三日会わざれば括目」しなければいけないのは、男子だけではなかった。新潟は格段の進歩を遂げていた。その新潟に延長を含めた80分、1歳年下のチームで戦って失点しなかったレッズレディースジュニアユース、という褒め方をするべきだと思った。
 PK戦は両チーム6人ずつが蹴って4−3でレッズが勝つのだが、そこで良いものを見せてもらった。レッズのGK松本真未子は、決して背が大きい方ではなく、身体つきも頑丈な感じはしないのだが、相手のキックを3本、左右に跳び分けて防いだ。それも素晴らしいのだが、“良いもの”とは、ゴールを守りキッカーと対峙するとき、笑顔なのだ。優勝を決める大事な場面に立っている気負いや緊張感など全く見られず、かといって弛緩しているわけでもない、純粋にこの一瞬を楽しんでいるような、そんな雰囲気が伝わってきた。
 そんな彼女が、優勝が決まってからは、仲間と同様に涙を流しているのを見て、何だかホッとした気分だった。そういえば、4回の優勝にすべて立ち会っているが、優勝して選手が泣いたこと、あったっけ?08年の渡辺隆正監督は泣いていたが(#155)。それほど苦しい決勝だったのだろう。

 #299でも書いたように、大会初の4連覇を目指した今年。優勝できなかったときに、中学2年以下のチームなんだから、というエクスキューズは通用しないし、そういう言い訳をするつもりは下山薫監督にも、選手たちにもなかった。キャプテンの三木萌子が語った「私たちはセレクションを受けて、選ばれて入っているので、負けるわけにはいかなかった」という言葉から、どうして自分たちが年齢的なハンデを背負って戦わなければならないのか、自分たちがどこを目指してサッカーをしているのか、彼女たち自身がはっきりと自覚していることがわかった。
 上の世代のチーム、レッズレディースユースには、中学3年生から高校3年生まで25人が在籍しているが、中学3年生が高校生になるとき全員がレディースユースに残れるわけではなく、そこで選抜がある。何人残るかはその年によるが、現在の、高校生が3学年で14人、中学3年生が11人という構成を見れば、ほぼどれくらいか想像がつく。そこでの仲間との競争に勝ち、さらにレディースユースからレディースに昇格し、なでしこリーガーを目指す。もちろん、もっと先の青いユニフォームも目標にしているだろう。そのために厳しい条件下でも自分を甘やかさず勝利を目指し、それを実現した彼女たちをたくましく思う。もちろん、優勝した後の笑顔は、可愛い中学生たちのものだったが。
(2011年8月16日)

EXTRA
 今回の大会の特徴は、ベスト4のチームがすべてJクラブだったこと。これは初めてのことだ。中でもレッズが準決勝で対戦したセレッソ大阪レディースU−15は、レッズト同じ14歳以下のチームだった。セレッソには大人の女子チームがまだないが、将来のなでしこリーグ参入を見通して、昨年中学1年生のチームを立ち上げた。2年目で全国3位にまで達したのだから、来年のこの大会では優勝候補の一つに数えられるだろう。またセレッソに敗れて4位になった大分トリニータレディースは、まだなでしこリーグの下のチャレンジリーグにも入っていないが、下部組織の充実が大人のチームを押し上げることになるだろう。
 Jクラブの中で、女子サッカーの先駆者は日テレ・ベレーザ&メニーナだが、それに続くものとして浦和レッズも遅れを取ってはならないと思う。

(2011年8月16日)

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