Presented by 埼玉縣信用金庫
Weps うち明け話
#349
抑えた喜びが込められたもの
 9月29日(土)の柏レイソル戦。選手が入場し、集合写真とミシャ監督の写真を撮り終って、柏サポーターの陣取るゴール裏の方へ行くと、すでにメーンスタンド寄りのゴール裏には撮影スペースがなかった。スチールカメラの数はそれほどでもなかったが、
 心なしかいつもより多いENGカメラの三脚が、例によってスチールカメラと同じラインに沿っていくつも据え付けられていたので、間に割って入るには厳しかった。
 仕方がないので、ゴールの真裏を通ってバックスタンド寄りのゴール裏に陣取ることにした。多くのカメラマンはゴール裏というと、メーン寄りに座るが、僕は基本的に気にしない。ただ、この日は「#347」で宇賀神への期待を書いたこともあり、前半の宇賀神がアップで撮りやすい位置に居たかったというだけだ。反対側でも撮れないことはない。というか、左サイドからのシュートのシーンは、自分にボールが向かってくる形になるし、シューターと正対することが多いので、絵になりやすいのだ。そう思っていたら前半8分、キター!。巻いて完全に枠をとらえた宇賀神のシュート。あらら、DFにヘディングでクリアされてしまった。残念。

 那須!キミが触らなければ、俺は予言者になっていたぞ!GKにセーブされていたかもしれないけど。

 じゃあ、39分の梅崎の同点ゴールはどうだったかというと、撮れてはいるがゴールネット越し。その前のマルシオのシュートが決まっていれば、バッチリだったのだが。

 何だ?清尾の“持ってない”物語か?いや、もうちょっと我慢して。

 ハーフタイムになり、撮影場所を移動する。今度はメーン寄りでもバック寄りでも場所が取れそうだ。
 悩んだ。いつも基本的に前半と後半では同じサイドに座る。前半メーン寄りなら後半もメーン寄り、というふうに。そうすると前後半で違う角度から撮ることになるからだ。
  だが1−1。次のゴールが決まったら(もちろんレッズに)、かなりの喜びになる。たいていの選手はベンチの方に向かう。そうなると自分の位置から離れることになる。横浜FM戦の槙野のゴールのときは、ゴール裏をかなりの勢いで走って、向こう側まで行った覚えがある。初めからメーン寄りに居た方が良くはないか。
 結果的に、バック寄りにした。ただ何となくだ。
 写真として悪くはなかった。後半19分の槙野のドリブルシュートも、25分の柏木のシュートも、良い形で撮れた。だけど決まっていない。MDPに「惜しくも外れる」で載せるのは悔しい。21分の加藤の好セーブもある。ドローだったらこれを載せるか。

  いつの間にかロスタイム。ピンチをしのいだ加藤が全身を使ってスロー。飛ぶなあ…。何と矢島が競り勝ってボールはこちらへ。ポポがいるけど、DFの方が近い。だがポポの瞬発力はすごいぞ。この試合、何度も相手ボールをカットしていた。行けるかも。カメラを構えた。おそらくラストチャンスだ。浮いたボールにDFが寄るがポポが右足を伸ばす。触ったか?ボールが飛んだ方向は少なくともDFがクリアした角度ではない。GKを越える。
 そこからは、文字どおり「時が止まった」というやつだ。時間にして2秒もないはず。ボールが転がる方向はぴったり。あとは勢いだ。そして誰も来るな!

 仕事中でなかったら、大声で叫んで飛び跳ねるか何かしていただろう。だがポポを撮り続けた。シュートからポポが自陣に戻って行くまで30秒もなかったが長く感じた。ようやく撮影の構えを解き、一瞬だけ喜んだ。
 僕がMDPに絡んで、試合中にカメラマンとして仕事をするようになった経緯はいろいろあるが、この仕事は最もうれしいときにその喜びを抑え込まないといけない、というハンデがある。昔は、埼玉新聞社の写真部という本職部隊がいるから、自分は写真撮影そっちのけで喜んでいた時期もあったが、フリーになってようやく仕事としての自覚が出て来たようだ。レッズが好きな人間ほどつらい仕事かもしれない。

 だが今回、後から思った。
 0−5の大敗の次の劇的勝利ということに加えて、ゴールしたのがずっと黙々と練習を続け控えに甘んじていたポポだったということ。それがあったから、よけいに喜びを爆発させたい瞬間だったのだが、その思いをカメラを通じて写真に写り込ませるということができる仕事じゃないか、と。
 偶然にもバック寄りに陣取っていたおかげで、ゴールの瞬間も撮れ、その後の喜びのシーンも収められるポジションにいた。その幸運を無駄にせず、記録することができて良かったじゃないか、と。

  座って両手を上げたポポの顔には喜びではなく、苦しみの感情が浮かんでいるようにも見えた。実際、ここまでの苦しさを思い起こしていたに違いない。
 そんな表情を誰よりも身近で見られる可能性があり、その資格を与えられているのだから、それにふさわしい成果を残していかないといけない。

 今さらと思われるだろうが、今回そういう自覚を新たにしたことを告白しておこう。

 そして爆発しそうな喜びを込めたこの日の写真が、次の札幌戦のMDPに何枚か掲載されることも宣伝しておこう。

 それと喜びを抑え込んでシャッターを切ったからといって、写真の出来映えに反映されるとは限らないことも言い訳しておこう。

(2012年10月2日)
EXTRA
 参考までに。

 試合の撮影について、Jリーグの取材要項では、ENGカメラ(テレビカメラ)はスチールカメラの後方から撮影してください、となっている。スチールカメラの撮影は座って行うように指示されており、ENGカメラは三脚を立てて撮影するから、これでお互いに邪魔になることはないはず(スチールカメラマンが傘を差さなければ)、ということだ。
 だけど、これは撮影者が大勢いるときのことで、Jリーグの多くの試合ではスチールカメラとENGカメラが二列になって撮影することなどめったにない。多くのENGは、最初から前に陣取っているし、中には試合前から三脚を置いて場所を確保しているENGもある。そしてスチールも同じ列で並んで撮影しており、それで問題はあまり生じていない。

 しかし、かつてのレッズ――タイトル争いの常連であり、取材が集中していたころのレッズ――には、スチールもENGもたくさん埼スタに詰めかけたし、サッカー専用スタジアムは陸上競技場より狭いから、ゴール裏の撮影エリアに人があふれた。それでスチールカメラマンと、彼らの後ろで撮影することに慣れていないENGクルーとの間にトラブルが生まれることもあった。
 そこでレッズは、ゴール裏に2本のロープを引いた。1本はスチール撮影用のライン、その約1m後ろにENG撮影用のラインだ。異例の措置だが、これで両者の間のトラブルは減った。
 スチール用のラインは他のスタジアムでも引かれているが、ENG用のラインまで引くところはJリーグでレッズの他にはない。日本代表戦や天皇杯決勝のような日本サッカー協会主催の大会では、あらかじめスチール撮影用にパイプ椅子がゴール裏にぎっしり並べられているから、トラブルもない。

 以前は、ここから書き始めて、長い長い前置きに付き合わせてしまったが、今回は参考資料として別掲することにした。

(2012年10月2日)
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