Weps うち明け話
#365
久しぶりの感覚
 お寺の鐘の音がよく聞こえると雨が降る。

 ことわざ、みたいな形になった民間伝承気象予報の一つだ。
 今では、ふだんからお寺の鐘が聞こえることはないと思うが、あれは鳴らさないだけなのだろう。だって大晦日には、どこかのお寺の鐘が聞こえてくるから、ちゃんとあちこちにお寺は存在しているのだ。僕の子どものころは、毎日お寺の鐘の音が聞こえたものだが、朝だったか夕方だったかは忘れた。
 江戸時代は2時間(一刻)おきに鳴らして時間を知らせていたのだから、お寺の鐘の音はごく身近かなものだった。だから気象予報の材料にもなったのだ。今は残念ながら存在感が薄い。気象予報として健在な民間伝承は「夕焼けは翌日晴れ、朝焼けは午後から雨」ぐらいだろうか。

 音は、温度の高い方から低い方へ流れていく。晴れのときは、地面に近いところの温度が高く、上層の気温との差が大きいから、音は上に逃げて行ってしまう。
 逆に雨が降りそうなときは、地面に近いところの温度が低く、上層との差がないから音は上に逃げない。だから遠くまで聞こえる。お寺の鐘の音がよく聞こえると雨が降る、という言葉はちゃんと科学的根拠があるのだ。「風が吹けば桶屋がもうかる」というのとは違う。

 12月1日の「We are REDS!」はよく響いた。
 前半のキックオフのとき、たいてい僕は南側ゴール裏に座るか座らないか、という状態だ。ギリギリまでミシャ監督の写真を撮って、それからタッチラインに沿って南へ走り、ビジターサポーターの前を回って、LED看板の後ろに置いてある椅子のところまで行く。メーン側を避けて、バックスタンド側に場所を取ってあるので、ちょっと時間がかかる。
 埼スタのピッチ周りは狭く、キックオフ前やハーフタイムの指導のときはかなり混雑する。こういうときは、ピッチの外側にフットサルコートも取れそうな日産スタジアムや味の素スタジアムが楽でいいな、とちょっと思ったりする。良いのはそこだけだが。

 オラオラ!行くぞ。お前何やってんだ、早く準備しろよ、点入っちゃうぞ!
 あの、We are REDS!には、スタジアム中から、そう急かされているような気がした。名古屋サポーターの前を回るときに、そう感じたのだから、かなり大きく響いていたのだろうと思う。
 ゴール裏に座ってスタジアムを見回す。やはり四隅まで赤く埋まっている北ゴール裏はいい。そしてメーン、バック。多少の空席もあるが、まとまって空いているスペースはない。
 ああ、5万人。
 1年ぶりのこの感覚を束の間、楽しませてもらった。

 だが同じ5万人超でも、去年の最終節とは違うように感じた。実際に比べることはできないから、まったくの感覚でしかないのだが、たぶん大きく違ったのは声だ。
 これも自分の感覚がそう思わせたのかもしれないが、去年と今年では、チームへの思い、試合に勝って得るものの大きさ、そして今季でチームを去る選手の存在。そういうものがまったく違う。それが声の大きさの違いになって表われたのではないか、と。

 実は、試合前に雨が降り、試合直前は晴れ間も見えた。その天候が、We are REDS!を大きく聞こえさせた原因かな、とも思ったのだが、そうではないと思う。
 やはり埼スタには、5万人超がよく似合う。富士山には月見草が似合うらしいが、それはよくわからない。でも埼スタがぎっしり埋まっている光景が素晴らしいことは間違いない。それも、青で埋まるのも悪くはないが、やはり赤く染まっているのが一番ハマる。まったくの勝手な思いだ。

 そして光景だけではない。5万人が一丸となって何かを目指すときの声。この迫力が埼スタには欠かせない。光景という視覚に訴えるものがあり、声という聴覚と肌で感じるものが大きくなったとき、ピッチにいる者のボルテージは上がり続ける。それが浦和レッズのホームだ。
 12月1日は、久しぶりにそういう感覚を覚えた日だが、あれがレッズのMAXではない。あの6年前の12月2日を再現、いや越えるまで頑張ろうという気持ちにさせてくれた日だ。
(2012年12月6日)
EXTRA
 ミシャは今ごろグラーツで友人に、埼スタの凄さを語っているだろうか。でも、まだまだなんだよ。あなたがテレビで見て、感動を覚えたという2006年12月2日。あれを現場で体感したら、どうなるか想像してみて欲しい。でも、絶対に想像以上だけど。

(2012年12月6日)
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